第一話 劣等生
「おい!荷物持ち!お前、囮になれ!」
「はあ!?」
後ろからドンッとモンスターの前に突き飛ばされる。
クラスメイトの一人がうっかり起動させた罠でモンスターパレードが発生した、その中に。
同級生達は逃げ切るために、一番弱い俺を囮にしたのだ。
「ははっ。あばよ、荷物持ち!未来ある俺たちのために死んでくれ」
「ちょっと待っ・・・いってえ!」
大量のモンスターが一斉に俺に襲いかかる。
B級モンスターのハウンドウルフが足に噛みついた。
「くそ・・・」
勝てるわけがない。
俺が使える数少ないスキル「歩法」で逃げる。
だが運悪く、逃げたところに道はない。
俺は、諦めかけ壁に体を預けて座ろうとしたところ、壁がすり抜けた。
完全に体重を壁に預けていた俺はそのまますり抜け、バランスを崩す。
「え、ええ、ちょ!?うわっ!」
壁をすり抜けた先に床はない。俺は重力に逆らえず下に落下した。
「おおおおっ!」
へその下、丹田のところがフワっとなる。
俺はそのまま気を失った。
◇◇◇◇
王立冒険者学園。俺はそこの2年生アレクだ。冒険者学園は、将来冒険者になるために必要なスキルの獲得、成長を目的とする学校だ。
そのため、二年生以上は学園外での冒険者活動も推奨されていた。
運良く入学できたものの、俺は自力でスキルを手に入れたことは一度もない。
劣等生の俺はかつて神童と言われていた。なぜなら、長年鍛練を積みようやく手に入れられるスキルを、生まれた時からすでに4つ持っていたからだ。
生まれた時からスキルを持っている人はそんなに珍しくないが、4つ持っているというのは俺が初かもしれないくらいに、珍しい。
だが、結局俺はそれしか得られなかった。
どれだけ努力を重ねようと、俺はスキルを得られなかった。
そしてそれは入学しても変わらなかった。
次第に同級生からは離されていき、一緒にダンジョンの攻略をするときも俺は実質、荷物持ちの役割だった。
バカにされ、蔑まれ、疎まれ、皆が俺を拒絶した。そんな中、荷物持ちとしてだが、受け入れてくれたのはネムロたちだった。
見返してやりたい。そう思ったが、俺にはその力がなかった。努力しても意味がない。
そうして、仲間に裏切られて俺は穴に落ちるて死ぬ・・・ああ、これで終われるのか。
そんな夢をみて、目が覚めた。
記憶が混濁している。
俺は少し湿った、冷たい地面の上で寝転がっていた。
辺りを見渡し深くため息をつく。
「いっそのこと、夢であって欲しかったな・・・」
夢で見た、裏切られた落下したのは現実だと思い出した。
現実の俺は生きている。それどころか怪我すらない。
いや、ここはもしかすると地獄かもしれない。
天国かもしれないと思わないのは、ここがとても禍々しいところだからだ。ここが天国のわけがないと断言できる。
あるもの全てが不気味で、怖い。まるで、奈落を連想させるような。
ダンジョンの地下なのか?それとも本当に奈落なのか?
ここは本当に奈落だと、そう思わせる雰囲気のようなものがあった。
しばらく地べたに座っていると、
オオオオオオオッッ!!!
という雄叫びのような声が聞こえた。明らかに人ではない、何かの声。
ビリビリっと空気が痺れた気がした。
そして、ドンドンと足音が聞こえる。
その足音は俺の目の前で止まった。
「あ、ああ、ああ…」
牛型のモンスター、ミノタウルス。Sランクモンスターだ。
S級冒険者が束になっても敵わない、別名、災牛。
あまりの威圧感と恐怖に、声が上手く出せない。
俺は途切れそうになる意識を必死につなぎ、スキル「歩法」で無理やり逃げる。
これは歩き方がわかるだけのスキルだが、足場が悪くても、罠があっても、危険ない道がわかる。
ただ、行き止まりはわからないので、さっきみたいなことは当然起こりうる。
俺は必死に逃げた。歩法など気にせず、走って逃げる。
体の大きなミノタウルスには入れない、小さな穴に逃げ込む。
「 はぁ、はぁ、はぁ……流石に、ここまでは追ってこないか」
しかし、どうするか。あんな危険なモンスターがいるところなんて、迂闊に外をふらつくこともできない。
かと言って、ここでこのままジッとしている訳にはいかない!
「強く、なればいいじゃないか…」
「!?」
突然、背後からする声に大声を出しそうになる。
バッと振り向くと、そこには無気力な目をした超絶美少女がいた。
「失礼した。少々、心の中を見させてもらった。こちらも、突然やってきた来訪者に不安を覚えていたのだ。二度としないと誓おう」
「心の中を…見た?いや、そんなことより、貴方は何者だ?」
こんなところにいるなんて、只者じゃない。
明らかに怪しい。
彼女は少し思案して、答えた。
「私は元賢者のホムラ。今はエルダーリッチだ」