1話 マハドンタンU
「プレイ!画面をタッチで良いのかな?コレは視界って言ったほうがいいのか…?まあ、画面でいいや。」画面を押す。
画面が暗くなる。何が始まる?
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』地響きの音がする。体も揺れる。
『ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ』地響きの音と混じって魔王らしき強靭な体を持った魔物が倒れている。
『137年前、魔王は勇者に倒されたという。魔王の名前は勇者のみしか知らない。だが、その勇者─────────
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「ふークリア!コレで、最後の称号が手に入ったぜ」
(魔王撲滅に遣わされた者)
画面上に表示されている文字をみて達成感でいっぱいになった。
(魔王撲滅に遣わされた者)それは魔王戦で1ダメージも喰らわずに魔王を討伐するというミッションだ。
確か…200回以上やり直したっけな…とうとう全クリか。あーなんか600円くらいで買ったけどコレはすごいや、自分で戦えるってすごいな、今存在するゲームはボタン操作だし…
なんだっけVRMMOだっけ、そんな感じのが小説とかであるらしいけど、VRって言うくらいだから目につけるおっきいやつでしょ…家だと狭いから壁にぶつかるんだろうな…まあPROは家の中でも走り回っても平気なんだよな...不思議だったけどやってる間は時間も止まってるし最高だよ。変な話、マハドンタンさえ入れて起動さえすれば走ってる車の前でもプレイしても良いんだよなぁ、時間も止まってるし。あ、終わるときに事故るか...
あー親、明後日まで出張で帰ってこないって言ってたしな…まぁ今日は作んなくていいか。コンビニのデモ食べてみるか。味、審査してやる。どんな味なのか思わず顔がにやけてしまう。初めてだからな。
コンビニでいろいろな味がわかりそうな弁当を選んで見る。何弁当がいいかな…数十分、弁当コーナーの前で真剣に考えていた俺はさぞかし変な客だっただろうな...コンビニに10分もいる人なんていないだろうし。まぁ知らんけど。結局、俺は『当店イチオシの一品』と書かれていた唐揚げ弁当を買うことにした。
コンビニで唐揚げ弁当を買った俺は細い道を歩いていた。ふと道の隅をみるとそこには
あのレジャーシートのおじさんがいた。
!!!!!!!!!OJISAN!!!!!!!!!まじか...タイミング良すぎだろ。《PRO》クリアした日に現れるなんて。
「あのーすいません。」頬が緩んでいるのが自分でもわかる。恥ずかしい顔をしてそうだ。
「ああ、覚えてくれたんかい。」おじさんの目が怪しく光る。
「はい、面白かったです。あのゲーム」
「おお、よかった、よかった。あのげぇむは面白いだろうねぇ。うんうん。ね」相変わらず『げぇむ』と『ね。』は変わらない。
「で、なんでまた。ここに?もしかして新しいゲームが?」
「おお、察しが良いね。ね。そ、げぇむだよ。うんうん」俺の顔は今ものすごい輝いているだろう。
「いくらですか?買います。」
「いいよ。今いくら持ってんだい?」俺は財布の中を覗き込む。
「えっーと。478円です。」さっき唐揚げ弁当を買ったせいで持ち金が少ない。
「じゃあ、その値段の半額でどうだい?ね。」俺は頭のなかで電卓を操る。
「239!」いくらなんでも安すぎるだろう。
「元値はいくらですか…?」おそるおそる聞く。
「えっとね、最新機種だし…億はくだらないかな...ね?」
「えっ」億!?それ200円で?
「それじゃあ、200円ってのも...」流石に申し訳なくなってくる。前回も安くしてもらったわけだし…
「俺が持ってる全財産使って払います。借金してでも。」それだけの価値はある。
「いや。さっき言った値段じゃないと売らんぞ。うんうん。」さっきって
「239!?いや、流石に...」でも売ってくれないのか...でもダメだ。
「いやいや。流石に」
「それ以外は売らん。ね。」
押し問答が何分か続き、結局折れたのは俺の方だったのだ。
「これ以上言うなら、売らん。ね」ずるい。それはずるい。絶対にほしいんだもん。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」申し訳ないがしょうがない。...欲張りすぎたかな。あそこで遠慮するべきだったか...?
「いいんだよ。うんうん。ね?」おじさんが怪しげに目を光らせながらニヤッと笑った。
角を曲がりおじさんが見えなくなると早く試したくなった。
前、WEってゲームあってその次に出たのがWE YOUだったから、もしかしてマハドンタンYOUだったりして…いやもしかしたらマハドンタンUかもな…
そんなことを考えながら包み紙を開ける。包装紙の模様は前と同じ模様だ。二重丸に角。
白い箱が入っている。中には前と同じ紙がある。アラビア語と意味不明な記号たち。たどたどしい日本語が書かれている説明書。同じことが書かれている。どうやら操作方法は同じらしい。
その下には気泡緩衝材に包まれたワイヤレスイヤホン。マハドンタンと同じような見た目をしている。少し小さくなっている気がする。
早速、耳にいれる。で、電源ボタンを二回押してっと。で『起動』っていうんだったな。
前、翻訳の通りに『開始』で試したけど何も起こんなかったもんな...
起動って知らなかったら詐欺だと思ってたかもしれない。こんな面白いゲームをやらずに...
よし、
『起動!』
目をとじる、で開ける。
今までいた場所が浮かび上がる。これセッティングだったんだよな…タッチされた場所を確かめるための…
《あなたの目の前の状況ですか》文章が前と変わっている。場所で変わんのかな・・・
ん?
目の前の道路にダンプカーが高速から右折して入ってきている。100m先のあたりだ。
あれ?動いてる…前は部屋で動くものが何もなかったからか…?まぁどうせ時は止まってんだから。
「YES!」声を出しなら手をのばし《YES》に触ろうとした時ようやく目の前の異変に気づいた。
ダンプカーがガードレールに接しながら走っているのだ。居眠り運転!
「ヤバイ。」時が止まっている、ドウコウとかではなく本能的に、キケンを察知したのだった。
火事場の馬鹿力とか緊急事態とかには人間離れした力が出るとか言うがソンナもんは信じられない。
だって、今のこの状況、だれがどう見たって緊急事態だ。
だが、体なんて動きやしないんだから。
目の前が突然真っ暗になった。暗闇の中に落ちていく。
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俺は死んだ──────────────────────────────?




