29話 部屋
男は首につけていたマイクに口を近づけて喋る。
「目標が逃亡。A班B班C班応援を頼む。残りのメンバーも援助を。」
え?
俺は思わす振り返る。
応援呼ばれちゃ逃げられないんですけど。
ここまでして追う相手なのか?
とりあえず、ここは逃げなきゃ。
前を向いて走り出そうとした瞬間─────
「ついてきてくれるかな。」
笑顔──薄笑いを浮かべた人々がいた。
「!!!!!!!」
恐る恐る、後ろを振り返るが
「お久しぶり」
さっきの男とともに多くの人が取り囲んでいる。
完全に囲まれている。
ドーナツの穴の中に入っているような感じだ。
「じゃあ、来てください。」
そのまま移動する。はたから見るとおかしな人達だよな....
普通におかしい人達だから怖いんだけど。
人さらいに捕まってどうなるか全くわからない。
大勢に囲まれているからどこに向かっているのかも分からない。
坂を一回降りたので2階にいるのだろう。
「入れ。」フルコーラスで言われる。
ドーナツが崩れていく。
ドアを開けて中に入る。
「連れてきました。」最初の男が言うと
「「「「「「「「「「「「「「連れてきましたぁっ!」」」」」」」」」」」」」」
続けて大合唱する。
部屋の中にいたのはワーナーさんだった。
「え?」
「座ってくれ。」
ワーナーさんが言う。
「座れ!」
とフルコーラス。
「言わなきゃいけないことがあるんだ」
とワーナーさん。
「聞け!」
とフルコーラス。
「お前ら何か誤解してないか?」
とワーナーさん。
「そうだ。誤解している!」
とフルコーラス。
「いや、お前らが誤解をしていると言っているんだ。」
「そうだ!誤解して───お前ら...?」
「このトシキは私の命の恩人だぞ。」
「...................」
少し沈黙した後にこのトシキはコーラス隊は顔を見合わせた。
そして高く飛び上がるとその勢いで礼をした。
「すみませんでしたぁっ!!」
「はい、まぁいいです。」
ワーナーさんの話によると
俺を見つけたら絶対にワーナーさんのところに連れてこいという命令だった。
それをコーラス隊の人は凶悪な万引きだと思ったらしい。
「申し訳ない。トシキさん。うちの部下たちがとんでもないことを。」
「いや、良いんです。それよりも俺の顔みんなわかってるんですよね。どうやったんですか?」
俺が聞くとワーナーさんはちょっと待ってて、と言い机の引き出しから何かを取り出した。
「この絵だ。絵師の人を呼んで書いてもらったんだ。」
「そういうことだったんですか。」
「それでなんだが、トシキさん。あなたがこの店に来たのは何のためですか。」
「来てって言われたのと、ものを買うためです。」
「今、来てもらいましたので後はものを買うためだけですよね。」
「はい。」
「全品無料です。」
「え?」
「トシキさん。あなたはこの店のもの全部無料です。空いているレジか、サービスカウンターにでも行ってこの前お渡しした布を見せてください。無料になります。今、持っているそのテツザンの剣も無料です。」
「いや、そんなことしたら赤字に...」
「そんなことはありませぬ、私があの魔物に襲われた時もし、死んでいたらこの店は混乱してそれこそ潰れてしまったでしょう。だからこそです。命の恩人にはそれほどまでのことをしなければならないのです」




