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98 異世界のドワーフやエルフもラーメンは好き

 放送している側も、コメンテーターのカツラが落ちたシーンを放送するのはヤバいと思ったのだろう。咄嗟にCMに入った。


 魚の干物のコマーシャルが放送される。30歳前後くらいの色っぽい女性が、お酒を飲みながら、魚の干物をおいしそうに囓っている。


 そりゃあまあ、ここは船上であって海の上であり、水産加工場が多いから、そういう商品が多く、当然そういうコマーシャルも増えるっちゅうわけか。


 CMが明けると、再びきちんとカツラを被ったコメンテーター大須賀先生がカメラの中央に収まっていた。


「話の続きですが、犯人は魔族で確定として、なぜ魔族が地下製麺工場なんかを狙ったのか、です。魔族といえども、ラーメンは好きなはず。その魔族が製麺工場を襲撃するというのは、ただごとではありません。何か目的があると考えた方が良いでしょう」


 魔族もラーメン好きなの?


 俺の知る限り、異世界のドワーフやエルフもラーメンは好きらしいけど。


「おそらく、製麺工場という表の仮面の中で、日本政府が魔族との戦いにおける切り札を製造していた。それを魔族が嗅ぎつけて、襲撃に至った、といったあたりの事情が予測できます」


 おいおい。テレビのコメンテーターが、そんな推測まみれの説を垂れ流してもいいのかよ。公共の電波、そこまで品位を落としたのか。日本全国放送ではなく、旭川の都市艦だけで完結しているローカルだからこそ、そういった無茶もやらかしてしまうのかもな。


「お待たせしましたー。正油チャーシュー麺です」


 お、待ってました。


 改めて、俺は自分が空腹だったことを思い出す。目の前に置かれたラーメン丼からは、白い湯気とともに、表面にギラギラと脂の浮いた黒っぽいスープ。その中に浸った麺と、その上に載せられた具として炒めたもやしと玉葱、シナチク、キクラゲ、そして準主役とも言うべき焼き豚チャーシュー。


 こりゃ食欲をそそるぜ。


 俺は筋金入りのラーメン好きだ。


 週に三杯はラーメンを食べる。


 だから、仮に二十歳の時から週三ペースを続けてきていたと仮定すると、アラフォーの現在まで二十年にわたるわけで、週三杯×一年で五十週間×二十年だとすると、大人になってから自分でお金を払って食べたラーメンは約三〇〇〇杯ということになる。


 この掛け算はウォーズマン理論じゃないぞ。


 まずは蓮華で黒っぽいスープをすくい、香りを楽しみながら、口に含ませる。


 旨い。


 やっぱラーメンは最高だ。


 体の中から熱が迸って、疲れた細胞を癒してくれるかのようだ。


 右手に持った箸で麺をリフトし、ズルズルズルとすする。ラーメンをすする時は音を立ててもいいものだと俺は思っている。


 スープのしょっぱさと麺の甘さがほどよいハーモニーとなって口の中で溶け合う。ああ、神よ。ラーメンという食べ物をこの世に生み出してくれてありがとう。感謝してあげてもいいよ。


 俺はラーメンを食べながら、意識をテレビ画面に戻した。


「恐らく、製麺工場というのを隠れ蓑にして、対魔族用の武器の製造を行っていたものと思われます。ただし、今回の粉塵爆発事件により、武器も破壊されてしまったことでしょう。これは、魔族との厳しい戦いの中にあって、大きな損失であり、大幅な後退ということになります。憂慮すべきことです!」


 なんというか、日曜日の政治討論番組でヒナ壇に並んでいる政治学者達の議論を見ているかのようだった。


「問題はですね、魔族のような、体力や魔力ばかりは優れていて頭脳では人間よりも劣っているはずの種族が、どうして、我が旭川における秘密武器製造工場を特定して破壊工作を実行することができたのか、をきっちり考えて反省して対策を練ることです」


 ……なんというか、それって戦前の日本の鬼畜米英みたいな考え方じゃないのかな?


 自国に対して誇りを持つのが悪いとは思わない。


 だが、その誇りが行き過ぎて、他国や他民族に対する蔑みになると、良くないような。


 まあ、今回の場合、相手は人間じゃなくて魔族らしいから、基本的人権も何も無いんだろうけど。


 相手を蔑むことの危険性は、相手の実力を見誤ることに直結するので、危険だろう。


 敵である魔族をバカにしたいというのは、感情論としては分からないでもない。


 だけど、魔族の実力を、本当の実力以上に過度に低く見積もってしまうと、「魔族ごとき楽勝で撃破できちゃうぜ!」と余裕でかかって行ったら、手痛いしっぺ返しを食らうなんてことになりかねないだろう。


「我々人間よりも知能で劣る魔族が、秘密工場の場所を探り当てた。これはどういうことかおわかりでしょうか? さっきお話した粉塵爆発もそうですが、普通なら起こりえないことが、起きてしまったのです。つまり、そこには悪意ある人為がある、ということです」


 テレビ画面の中で再び、ドン、と大須賀先生は興奮して拳で卓を叩いた。その拍子に、頭上の黒髪のカツラが、摩擦係数の無い肌の上を滑った。テレビ局も慣れているのだろう。CMに入った。



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