92 邪馬台国は佐賀県!
「違う」
「赤良、やっぱり分かっていない」
「城崎監督が、そんな中身の無い人だったなんて。残念です」
ひどい言われようだ。抹茶アイスクリーム食べている人にまで言われたぞ。
でも俺、間違ったことは言っていないはずだが。
相撲は、単なる勝ち負けを競うだけのスポーツとは違う。
それは、俺が元居た世界の男の相撲でも、こちらの世界の女の相撲でも、おそらく同じはずだろう。
「あのね、赤良。あなた、本当に義務教育レベルの知識すら無いような感じだから、最初から教えてあげるからね。よく聞いていなさいよ」
クロハが女神のごとき威厳をまとって、俺の真ん前に仁王立ちして滔々と語り始める。
……俺の視界の隅で、二階堂さんが冷凍庫の扉を開けて、もう一個アイスクリームを取り出して食べ始めたぞ。クロハは俺の方を向いている、つまり冷凍庫の側には背中を向けているので、気づいていない。
「話は原始時代から始まるわ」
おいマジかよ。そこまで遡ってどうする。
邪馬台国は大和か九州か論争よりも昔のことか。ちなみに俺は邪馬台国は佐賀県にあったと思っている。だから佐賀県でアンデッドモンスターがはびこり、擬人化アニメが放送されたんだ。
「男と女では、当然男の方が力が強いでしょ。だから男が戦士となって狩りをした。女は木の実の採取とか、魔術的な儀式に従事した。だからその頃は、魔法を使えるのは女だけだったと言われているようね。勿論今では、ちゃんと素質があって練習をすれば、男も女も等しく魔法を使うことができるけどね」
俺は使えねぇよ。つまり、この世界における俺は、魔法を使えない男ってことで、原始時代レベルの男ってことか。ワイルドなかっこよさだけしか売りがねぇじゃん。
「男は力が強いから、武器を持って狩りをする。それで獲物となる動物を狩る。集団で協力すれば、大きなクマだって狩ることができた。でも、魔族に対しては分が悪かった。粗末な槍や斧では、魔族にダメージを与えるには心許ない」
出てきた出てきた山親父。
……じゃなくて。
出てきた出てきた魔族。
ほんと、ナチュラルに出てきやがった。原始時代からいたのかよ。記録が残っているのか? 当時は文字なんか無いだろうから、壁画か?
「魔族と戦うには、女の扱う魔法が良いということが分かってきた。そこで開発されたのが、魔族を貫く光で殺す技、魔貫光殺砲よ」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
昔懐かしい、恋愛マッチングテレビ番組みたいな勢いで、俺は待ったをかけた。
「待てよ。黙って聞いていれば、それは聞き捨てならないぞ。魔貫光殺砲は、魔族を殺すために開発された技だって? 冗談顔だけにしろよ!」
「何よ。私の顔のどこが不満なのよ。失礼ね」
クロハは頬を膨らませて、冬ごもり前の栗鼠みたいな感じでぷんぷん怒った。
「いやいや、それって、あの有名な『歴史修正主義』ってやつじゃないのか? 本当の歴史を、後から変な理屈をこねてウソの情報をどんどん上書きして、自分の都合の良いものに捏造してしまう、っていうやつ」
「何が捏造だって言うのよ」
「魔貫光殺砲は、主人公のライバルである魔族が開発した必殺技だぞ! 魔族が撃つから魔貫光殺砲なんだ。魔族を殺すために魔貫光殺砲って……そりゃ同士討ちをしろってことかよ」
「あーあ。赤良がイタイ人になっちゃったよ。それ、典型的な誤解だよね。ありがち、ありがち。現実に、魔族を倒すには魔貫光殺砲が一番イイのよね。その名の通り貫通力が高いから、装甲があって防御力が高くて原始時代の竹槍や石斧なんかでは傷つけることすら困難な魔族がいたとしても、貫くことができる。気を溜めるのに時間がかかるのは弱点だけど、普通の人間に対しては、肌がちょっと灼けてしまう程度という無害さも使い勝手の良さよね」
なんと! 魔貫光殺砲って、普通の人間に対してはほぼ無害ってことか。
たしか、俺が読んだ漫画では、ライバルが放った魔貫光殺砲は、主人公もろとも敵を貫いて二人とも殺したはずだ。
そういえば、さっき、地下製麺工場に救助に向かった際、二階堂ウメさんが俺もろとも魔貫光殺砲で貫く感じで撃っていたけど、そういうことか。
魔族ではない普通の人間に対しては無害だから、同士討ちを気にせず撃てるってことか。
それはそれでスゴイ。俺的信条としては納得いかない面も多いけど、そうであるならば心強い。
魔貫光殺砲が開発されたんなら、もう魔族を畏れる必要は無いんじゃないのかな。
「魔貫光殺砲は、強力な技ではあるけれど、気を溜めるのに時間がかかることと、一度撃ってしまったら、それは体内の高純度の魔力を一気に放出してしまうっていうことだから、しばらくは撃った人は行動不能になってしまう。それが弱点よね。敵が魔族一体だけなら、確実に仕留めてしまえばそれでもいいけど、ザコの魔族であっても群れで襲いかかって来られたら、対応が難しい」
あ、そうか。言われてみれば魔貫光殺砲は、一体の強敵を倒すには向いている技だけど、多数のザコを蹴散らすには、あまり向いていないかもしれないな。




