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80 つっぱりハイスクール女子相撲部

 いけねいけね。


 今の発言、聞きようによっては、というか、サヨク国会議員のように言葉をヘンに曲解されてしまうと、俺は二階堂さんをエロい目で見ているように思われてしまう。


 特にバカ真面目な佐藤恵水あたりに聞かれると面倒だわ。


 でも幸い、珍しくクロハに勝った喜びが勝っていたのか、俺の独り言は耳に入らなかったようだ。ラッキー。


 その恵水とクロハは、再び仕切り線を挟んで東と西に分かれ、蹲踞し、呼吸を合わせて立つ!


 今度は恵水の方は諸手突きで行った。立ち合いの時に両手を前に出して、相手の胸を突く形だ。


 クロハは低い当たりで、前まわしを取りに行った。


 そのクロハの低さを、恵水の両手が突き起こす。クロハの上体がすぐに起き上がった。


 が、その時には既にクロハは右手で前まわしを取っていた。


 よく見ると左手もまわしに手が届いている。つまり両前まわしを取ったもろ差しだ。


 俺の得意な型だな。


 もう、この時点で勝負あった。


 恵水は、諸手突きで相手を起こして、そこから自分の有利なまわしを取ろうとしたのだが、突き切れなかった。先にクロハにまわしを引かれてしまった。


 クロハが前まわし両方をひきつけると同時に足は前に出ている。慌てて恵水は上手を取ろうとするが、大きく後退しながらだ。土俵際に詰まった時に恵水の左手がクロハのまわしにかかったが、その時には既に恵水の上体は後ろに倒れていた。


 押し倒し。最後、クロハは両まわしを取っていた手をはずして、恵水が土俵外の土に落ちるよりも先に手をついた。かばい手、というやつだ。


 背中から落ちた恵水は少し痛そうにしていたが、すぐに立ち上がった。


 ほう。ダメージに耐える打たれ強さはあるようだ。


 んでも、今の一番は、あっけなかった。恵水の側に見るべきところが全く無かったぞ。


 まあそりゃ普通は、クロハと恵水が10回対戦すれば、8回くらいはクロハが勝ちそうだ。残りの2回は、クロハが立ち合いに失敗した時がメインだろうけど。さっきの土俵際の下手投げは、まあ本当の偶然だ。


 さて、また二階堂選手の方に視線を移す。


 二階堂は今度は股割りをやっていた。


 分度器を当てるまでもない。


 180度。


 きれいに右と左に割れている。


 さすがだな。


 体が大きいだけではなく、こういう所までできるようになっているなら、クロハや恵水が今から頑張っても追いつけねぇだろうな。


 あれ? 恵水は、まだ180度股割りはできないけど、クロハはどうだったっけ?


 もちろん俺はできないけどな。


 そしてまた再び土俵に目を戻す。東にクロハ、西に恵水。これって毎回二人の間では決まっているようだな。


 蹲踞の姿勢から、手をついて、呼吸を合わせて……立った!


 恵水は、さっきあっさり負けた諸手突きを懲りずに再びやってきた。クロハの方の立ち合いがさっきほど鋭くなかったせいか、クロハの突進を止めることに成功していた。クロハも前まわしを狙って手を伸ばしていたけど、空振りだった。


 そのまま、恵水は突っ張る。


 胸の部分はレオタードの布地に被われているので、掌と肌が直接ぶつかるわけではない。


 だがそれでも相手の体ごと後ろに突き押そうという突っ張りなのだから、バチンバチンという少しくぐもった音がテンポよく響く。


「ほう。恵水のやつ、そこそこ突っ張りもできる、のか?」


 でも、この突っ張り、回転速度はあるけど、威力はそんなに無いな。


 というか、本人もそこまで威力を求めていなさそうだ。


 突き押しで決着をつけるための突き押しじゃないんだろう。


 恐らく、目的は二つ。


 ひとつは、突き押し相撲の相手と対戦した時に、自分が先にまわしを取れなかったとしても、突き合いの展開の中で負けないように、日頃から突き押し相撲を取って慣れるようにしているのだろう。


 そしてメインの目的は、突き押しによって相手の体勢を起こし、自分有利なまわしを引くための隙をうかがうのだろう。


 かつての大横綱貴乃花が横綱に昇進する前、幕内に上がって来たばかりの頃に取っていたような取り口だ。


 ただ……


 それって、まだ若武者だった頃とはいえ、足腰の良さに定評のあった貴乃花関だからできることなんだよね。当時はまだ貴乃花という四股名じゃなかったけど。


 土俵の中央あたりでしきりにクロハのレオタードに包まれた胸を突っ張っている恵水。しかしクロハもそこから後ろに下がらない。下から手をたぐって、相手の隙をうかがう。


 うまい具合に恵水の腕を、肘を下から押し上げる形になった。恵水がバンザイする格好になった。腋が甘くなった。


 そこにすっとクロハが入り込む。二本差す。ほら、もろ差しになった。


 後は一方的な展開だった。恵水はバンザイしたまま、それこそフォークリフトに運ばれる荷物のように後退し、土俵際で粘ることすらなく俵の外に足を出してしまった。


「ふむ……」


 恵水の両腋が開いたので、ついついそこに視線が行ってしまった。


 女子高生の腋か。


 ……おっと、やべやべ。そんなところに注目していたなんて本人の恵水に勘付かれたら、またガメられてしまうわ。



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