77 両国国技館!? 破壊したはずでは……
「あ、赤良、おつかれさま!」
「城崎監督、おはようございます」
「監督、お邪魔しています」
もう既に西魔法学園の正規部員が来ているのは、まあ普通なのかもしれないが、藤女子高校からの二階堂ウメ選手も来ているとはね。早いな。ちゃんと授業は受けているんだろうな?
三人とも既にレオタードにまわし姿に着替え済みだ。四股踏みや柔軟体操をやっていたらしい。
ってことは、恵水の昨日の足の怪我も、もう問題ないって考えていいんだろうな。魔法も使い方次第で便利なんだ。やっぱ俺も使えるようになりてぇよ。
それはそうと、まあ三人ともやる気はあるようだし、頑張っているようだ。そこに、更にモチベーションをアップさせるような大会があればいいような。
さっそくだし、聞いてみるか。
「なあ、クロハ。相撲の大会ってあるのか?」
名指しでクロハに対して聞いたのだけど、もちろん声は他の二人にも聞こえている。
それで三人は、ビミョーな表情をして、お互いに顔を見合わせた。
……あー、この対応は、なんかヘンに聞いちゃいけないことを聞いちゃったような。
「なんだよ。女子相撲だって、高校の部活なんだろう? だったら全国大会とか存在するんじゃないのか? 野球部だったら甲子園を目指すだろうし、吹奏楽部だったら普門館出場を目指して一生懸命練習するだろう」
「普門館? ……って何ですか?」
あれ? 普門館を知らないのか? こっちの世界には普門館は無いのか?
……って、よく考えたら俺の世界も、普門館があったのは昔の話で、もう普門館は無いんだったか。じゃあ若い人は知らないだろうな。
「普門館の話は忘れてくれ。相撲であるからには、両国国技館だろう? こっちの世界なら、女子でも両国国技館の土俵に立てるんだろう?」
三人は再び顔を見合わせた。三人とも眉を八の字にひそめている。
「大会は、そりゃ、旭川市内の大会なら、無いわけじゃないけど……」
答えてくれたのは、指名されて聞かれた当人であり、ここの部長でもあるクロハだった。いつもより少し低いトーンだ。
「両国国技館は、昔はあったけど、今は……」
途中で口をつぐんでしまった。恵水もうつむいているし、二階堂ウメは横を向いている。
昔はあったけど、……なんだというのだろう? 今は無いのか? そしてそれについて触れるのはタブーなのか。この雰囲気。
「ほら、両国国技館って、例の大地震で壊れちゃったでしょ。あんまり話題にしたら不謹慎だって言われちゃうから誰も話題にしないけど」
おいおいおいおい。
地震が両国国技館を破壊したなんて、俺の知らない情報だ。
やはりここは異世界なのだろう。現実の日本とは世界線が違うというかなんというか。
さすがに諸々ショックは大きいな。
んでも、納得行かない面もある。
地震で壊れたと言うが、どの程度壊れたのか。修理はできないのか。仮に全壊だとしても、新しく建てれば良いだけのことではないか。
もちろん巨大な建物だから、簡単ではないのは承知している。
で、修理なり新築なりがされていない、ということは、地震が起きたのは割と最近なのか?
両国国技館が壊れるような大地震ということは、首都直下型ってことじゃないのかな? だとすると、何万人も死者が出ている可能性があるな。
確かに、何万人も死者が出て、おそらくその十倍以上の怪我人なども出て、家を失った人もそれくらいの規模で存在するはず。じゃあ仮設住宅なんかもまだ足りていないんじゃないのか?
東京都民の生活の再建ができていない中で、両国国技館再建を話題には出しにくいかもしれない。不謹慎と詰られる可能性も否定できない。
異世界両国国技館の話題は回避した方がいいかな……
それよりも、旭川市内ならば大会があるらしいから、そちらを現実的に目標にするべきか。
それもそうだよな。
たとえば弱小校の野球部監督に就任して、いきなり甲子園出場を目標に掲げるだろうか?
それで上手く行くのは、ご都合主義の野球マンガだけ。
現実には、弱小校が目標に掲げるべきは、毎年地方大会の一回戦で敗退なので今年こそは初戦突破する、あたりが妥当なんじゃないですかね。
それと同じことが言えるんじゃないか。
旭川市内の大会ってことは、現在ウチで練習参加している二階堂ウメ選手も藤女子高の選手として出場するだろうから、ライバルってことになる。強大なライバルだぞ。
正規部員はクロハと恵水のみ。
団体戦出場というのはあり得ないとして、個人戦だ。
旭川市だけといっても、確か人口は30万人以上いるはず。過去には最大36万くらいまで行ったのかな? それでも田舎に特有の少子高齢化と若者の都会への流出で近年は大幅な減少傾向のはず。
まあそんな30万の地方都市であるからには、それなりに高校生の数も居るはずだ。市内全部の高校に女子相撲部があるかどうかは知らないが、相撲は乙女のたしなみ、と言うからには、競技人口がそれなりであってもいいはず。




