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63 燃えやすいものばかりある

「イヤよ。お断りよ」


 そこで拒否権発動かよ。国連安全保障委員会常任理事国かよ。


「恵水、その足じゃ、自分で歩くのはツライだろ。だからおぶってやるって言っているんだよ」


「言い方が恩着せがましいし」


「別に恩を着せようとか、しとらんわ! 恩に感じなくていいよ! 困った時はお互い様だろ」


 イライラするなあ。恵水のヤツ、そこまで俺におんぶされるのがイヤなんだろうか?


「ジャリーズみたいなイケメンにおんぶされるならいいけど、城崎監督みたいなコワモテのオジサンにおんぶされたくない」


 ああ、子どもらしい、素直で正直な意見なんだろうな。心で思ったことを、フィルターにかけずにそのまま言っちゃうみたいな。


 でもそれってさ、男性に対する容姿差別じゃね?


 男女逆転させて同じ趣旨の発言をしたら、SNSなら確実に炎上するぞ。大臣だったら野党とマスゴミにちまちま追求されて辞任に追い込まれるぞ。


 そういえば、いつだったか、男性声優が娘と一緒に公園で遊んでいたら、ご近所の奥様方によって警察に通報されて晴れて不審者として職務質問を受けた、という事件があったのを思い出した。


 あれって、父親が砂利ーズアイドルのようなイケメンだったら絶対通報されていないよ。


 アレなキモい容姿の、いわゆるブサメンだから通報されたんだよ。容姿差別だよ。


 まあいいけどね。生まれ持った容姿は変えられないし、差別的な扱いにももうとっくに慣れっこになってしまっている。


「俺は、恵水の容姿が良かろうが悪かろうが、関係無い。教え子が怪我をしたなら放ってはおけない。いいからさっさとおぶされよ」


「イヤよ。だって、おんぶしたら、城崎監督の背中に私の胸が当たるでしょ」


 ムカムカムカムカ!


 まあたしかに、男が女の子をおんぶするのって、それが役得というか、おんぶの報酬というか、そういう側面が無いわけじゃないだろう。そのへんによくあるケーハクなライトノベルの読者サービスラッキースケベ展開的には。


 でも恵水よ! 勘違いしないでよねっ!


 ラッキースケベがほしくておんぶするって言っているんじゃないんんだ。あくまでも恵水の怪我を心配して言っているんだ。背中に胸が当たるとか当たらないとかは、副次的なものでしかなく、極端な話としてはそういった恩恵は無くてもいい。


「胸が当たるのがイヤなら、間に電話帳でも挟めばいいだろ!」


「え? ウソでしょ。監督がそんなこと言うなんて。だって電話帳を挟んじゃったら、胸が背中に当たっても感触が分からないじゃない」


「だから! 感触とかどうでもいいから! 早くおぶされよ! さっさとしないんだったら、もう、いっそのこと、お姫様だっこして保健室まで連れて行くぞ!」


 どうやら破れかぶれのこの言葉が多感な年代の佐藤恵水には効果的だったらしい。


「やっ……やめてよ。お姫様だっこなんて、恥ずかしすぎるよぅ。それだったらまだ、おんぶの方がマシよ」


 言うが早いか、恵水はためらうことなく俺の背中に負ぶさって、俺の首に両腕を回した。


 恵水が俺の背中に完全に乗っかったので、俺は立ち上がる。恵水の両足を俺の腰の横で抱える。


 あれ? 電話帳も何も挟んでいないんだけど。胸の柔らかい感触が二つ、背中に触れているんだけど……いいのか?


 もしかしたらこの部室に電話帳が無いだけの話かもしれない。いずれにせよ恵水を保健室に運ぶのが先決なので、電話帳どうこうは気にしない。


 俺は相撲部部室のプレハブを出て、走り出した。


 どこに向かって?


 あぶねあぶね。俺はすぐに冷静さを取り戻した。


「おい、恵水、保健室ってどっちだ?」


「なによ、保健室のある場所も知らずに向かおうとしていたの?」


「いいから早く案内しろよ」


 案内さえされれば、特に苦もなく保健室まで到達できた。


 保健室の中に入り、背中から恵水を降ろす時、「重くなかった?」と言われた。


 正直に答えた。


「重くなかったよ」


 ウソではない。本当の感想だ。


 恵水は女子高生としておそらく平均的な体格であると思われる。体重としては50キログラムあるか無いかくらいじゃないかな。


 一方俺は身長もあるし、日頃から筋トレをして鍛えている。女の子一人のおんぶくらい、どうということは無い。


 そもそも、おんぶした女の子のことを重いなんて言ったら、それこそSNS以上に炎上案件になっちまうじゃないか。だから仮に重いと思ったとしても、重いとは言わないだろうな。空気を読むというヤツだ。気を付けないと、身の回りには燃えやすいものばかりがある。


「そうなんだ。やっぱり重くなかったんだ。……重さがほしい」


 恵水はぽつりと呟いた。予想外の反応だ。現実世界の女子高生で、重さを望むヤツなんて存在するんか?


 あ、いや、デブりたいと言っているわけじゃないのか。ニュアンスとしては相撲の力士として、相手の圧力に負けないだけの重さが欲しいっていうことか。


「せめてもう少し、胸が大きくなれば……」


 胸だけに重さがほしいとか。ワガママの極みだな。



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