24 魔法学園の地下の秘密
これなら、明日以降に関しては話は早そうだ。
土俵作り直しの恵水一人を残して、クロハと俺は部室から出た。もしかしたら今日はもうここには戻らないかもしれないので、俺は荷物を持ってプレハブ部室から退出した。荷物といっても、異世界に転生してきたばかりの城崎赤良サマだ。取り組みに先立って脱いでいた、風神雷神ガラのスカジャンくらいしかない。
相撲部部室のプレハブを出た俺は、クロハに案内されて、校舎の方に戻って行った。外見だけを見れば普通の鉄筋コンクリート製の建物であり、俺の卒業した西高とほぼ同じように見える。
だがここは魔法学園なのだ。大して役に立ちそうもないのに、魔法を教えるって、どうなんだろうな。
でも現実の日本の中学高校でも、いつどこで役に立つか分からない方程式を教わったりしていたのだから、そういうものなんだろう。この世界では魔法を勉強するのは必要なこととされているから、高校教育に組み込まれているのだろう。
生徒玄関ではなく、職員玄関から入ってすぐの所に、エレベーターがあった。本当にすぐの所だった。靴を脱いでスリッパに履き替えて校舎内に入る、という手順の前だ。靴すら脱いでいない。
扉が大きく開く。中は殺風景なゴンドラだ。これ、貨物用だろ。
クロハがボタンを操作すると、ガチャンという無骨な音とともに扉が閉まり、ふわっという浮遊感が脳を揺さぶる。下へ降りているのだ。
ここは学校だ。魔法学園だけど、学校であるのは間違いないだろう。それの地下になんで製麺工場があるのだろうか。
素人が書いてウェブ投稿サイトに掲載した下手クソなライトノベルでも、こんなふざけた設定は出てこないだろう、普通は。
だけど、その辺の荒唐無稽さというか破天荒解っぷりというのが異世界ならでは、といったところなのかもしれない。
そういえば以前にネットの匿名掲示板のネタで見たような記憶があるが、現実日本における大相撲の聖地である両国国技館の地下には、巨大な焼鳥工場があるという都市伝説があるらしい。よりによって焼鳥工場なのか。焼鳥である必要性が見えないので、都市伝説としては駄作の部類に入りそうだ。どうせなら、レトルトパウチ入りちゃんこ鍋を作っている、とでもした方が説得力があっただろうに。
旭川はラーメンの聖地なので、製麺工場があるというのも一定の理解はできるのかもしれない。でもあくまでもラーメン屋の名店が軒を連ねてしのぎを削っているという話のはずだ。
エレベーターは騒音も大きく振動もあり、乗り心地は良くなかった。さすがは人間運搬用ではなく貨物運搬用途のエレベーターだ。
なんか、自分が荷物扱いされているようでもある。
でもまあしょうがないのかな、とも思う。
今の俺は異世界に転生してきたばかりで、職も確保していない。単なる役立たずのお荷物オタクだ。
もちろん現状のままで満足して終わるつもりは無い。今、居る場所が底辺ならば、そこから這い上がる、のし上がるだけの話だ。
といっても現在の俺は貨物用エレベーターで学校の地下に降っているところだけど。ベクトルが逆じゃん。
ガクン、という急ブレーキがかかった。下に向かって頭から力で押しつけられるような力学が働いた。
エレベーターが止まったのだ。さすが貨物用。止まり方も乱暴だ。超高層ビルの高速エレベーターだったら、高速ではあっても、始動と停止の時には中に乗っている人に対して負担にならないように配慮して、ゆるやかに動くはずだ。それに対して貨物用のこの潔いまでの乗員に対する優しさの無さよ。
扉が開く時に、金属と金属が擦れて引きつったような音が神経に少しだけ響いた。
そこは、清潔感はあるものの、昔ながらの蛍光管による証明がかえって薄暗さを演出しているような、事務所だった。
「工場、じゃないのか?」
「工場よ。食品だから、加工しているラインには、部外者は簡単に入れないけど。赤良はパッケージ化された商品をフォークリフトで運搬し積み替える作業だから、実際に製麺をしている場面を見る機会は無いでしょうね」
よどみなくクロハが説明する。なんで女子高生なのに、製麺工場の事情にも詳しいんだ? と一瞬思ったが、そうそう、見た目に騙されてはいけない。ただの女子高生には興味ありません。正体が女神の人だけ、俺のところに来ればいい。
などと俺が脳内で変な葛藤と納得をしていた頃、クロハは出迎えてくれた工場の担当者と何やら話をしていた。
「赤良、赤良、工場の人が面談してくれるって。だから行きましょう」
よくよく考えたら、この地下工場にはアポ無しで来ているはずだ。にもかかわらず工場の担当者が会って面談を行ってくれるとは。
もしかして俺、運に恵まれている? 女神様のご都合主義か?




