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174 屁の突っ張り


 冷静に考えれば、魔族の攻撃は、当分無い。らしい。噂を信じちゃいけないよとリンダさんに言われているけど、それでも信じるとすれば、の話だ。


 それでも、日本本土に接近すれば、魔族の攻撃は必ず来る。


 魔貫光殺砲がびゅんびゅん飛んでくるのだろうか。コワイな。


 だとすれば、今は休んでおいて、後々のために体力を温存しておいた方が良くないか?


 ……気が付いてみれば、俺はジェーケーたちが相撲を取っている時、ずっと立ちっぱなしで観戦していた。


 ちょい、疲れたわ。


 俺は現場作業系の人間ではあるが、立ちっぱなしの仕事ではない。フォークリフト乗りだから、座って仕事をする。だから、立ちっぱなしは慣れていないので疲れるのだ。日頃から筋トレやっているとはいっても、アラフォーですからね。


 土俵から少し離れて、体育館の床に体育座りをした。


 はあー、と大きく息をつく。


 ラーメン食いたいな。


 最初に出てくるのは素直な欲望だった。そうだな。忙しく動き回っている割にはがっつり食べる機会が無い。プリンとかスイーツは旨いけど、腹はあまり満足しない。


 人間には三大欲求があるというが、アラフォーの年齢になると、性欲は二の次かな。そもそも体力と気力が続かない。


 食欲も、油っこいものはツラくなってくる。ザンギ爆食いとかは、若い頃はできたけど今は無理だ。でもラーメンは別腹。こってり系だろうと野菜ニンニクマシマシの次男系だろうと行ける。


 年齢を重ねても変わらないのは睡眠くらいか。いや、年をとったら早起きになるという俗説を聞くが、それやっぱ俗説やわ。若い頃と変わらず、朝はツライ。二度寝には誘惑がある。


 それで思い出した。疲れが溜まっているせいか、眠い。ぼくもうとってもねむいんだパトラッシュ。


 あの世界名作劇場アニメのフラダンスの犬のラストみたいに、幸せな夢を見ることができるだろうか?


 幸せな夢って言っても、そもそもここは元の俺の居た世界じゃないし。これから行く先は京都だから、旭川に帰還できるのは当分先になりそうだ。


 京都といえば、修学旅行で行った時にバスガイドさんが歌っていた京都の通り唄っていうのが不意に頭に浮かんできた。


 まるたけえびす、におし、おいけ~


 あねさんろっかく、たこにしき~


 ……あとなんだっけ?


 最後はたしか……


 とおじょう、とうじで、とどめさす~


 だったかな。京都の魅力を唄に凝集するなんて、やるじゃないか。さすが千年の都やで。


 旭川も、なんか数え歌的なものでもできて浸透すればいいのにな。


 旭山動物園しか売りが無い、なんて寂しすぎるじゃないか。……事実だけどさ。


 ここは俺が作詞作曲するべきところか。謎の音楽プロデューサーになって、佐賀県ではなく北海道旭川市を救うのだ。


 ズシーン。


 そう。尻の穴に浣腸をぶちこまれたかのような衝撃が下から突き上げてきて、俺は意識を取り戻した。


 ……って、いつの間にか床に体育座りしたまま眠ってしまっていたらしい。


 振動にビビってきょろきょろしている俺の様子に気づいてか、クロハが駆け寄ってきて声をかけてくれた。


「赤良、起きた? 敵の攻撃が始まったみたい。ミサイルが国技館に命中したようよ?」


 WARNINGか!


 ミサイル命中って、そんな落ち着いている場合じゃないんじゃないのか?


「なによ赤良、笹を取り上げられて心細くなっているパンダみたいな顔をして。心配しなくていいって!」


 いや、この状況は普通は心配するもんじゃないのか?


「魔族の対空ミサイルなんて、相撲用語で言えば屁の突っ張りみたいなもんよ」


 屁の突っ張りって相撲用語だったっけ?


 ズシーン……


 まただ。


 なんというか、群発地震が発生したくらいの不安感が募っていく。


「だから心配しなくていいから。ちゃんと結界さえ張ってあれば、魔族の攻撃なんて全く効かないから」


 そうだ、思い出した。結界だ。


「結界って、相撲を取ることによって発生するんだったっけ? じゃあ、クロハたちが頑張らないとならないんじゃないのか?」


 こっちの世界は土俵の上は男子禁制だ。俺が役に立てないのは心苦しい。


 だからこそ、クロハたちが頑張ってくれないと話にならないぞ。


「赤良がぐっすり眠っている間も、私たちは休憩を挟みながらだけどちゃんと相撲を取っていたわよ。もちろん今も。ほら」


 クロハが、ミケランジェロの名画の天地創造みたいな感じで土俵の方を指さして示した。


 土俵上では……ええと、誰だっけ、探知機女……そうそう、永井映観だ。その永井映観と、スイーツ屋さんの双子の娘のうちの妹の方、細川ヒトミが対戦している。


「厳密に言うと、結界は、相撲だけで発生するものじゃなくて、魔法によって発生している部分が大きいのよね。だからそのために私たち、魔法学園で魔法を勉強しているんだし」


 そうだよな。こちらの世界では、旭川西高校が無くなっていて、その代わり旭川西魔法学園がある。


 その、異世界ならではの「魔法」の部分がガンバってくれないと。そういえば相撲は魔族を封じるものだって言っていたっけ。上は神を祀り下は魔を制する、だったかな。


 ズシーン……


 また命中したようだ。



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