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159 日本は法治国家よりもリンチ国家


 清掃員じゃない。相撲部監督だ。でも一般生徒は、相撲部監督が誰かなんて知らないだろうな。いわゆる外部人材だし。


「ノゾキか、隠しカメラを仕込みに来た不審者じゃないんですか?」


 さっきから、喋っているのは顔立ちの似ている二人のうち、髪型がポニテで、切れ長の目が鋭い方だ。


「俺は相撲部監督の城崎赤良だ。嘘だと思ったら相撲部のクロハ・テルメズ部長に聞いてみるといい。あるいは佐藤恵水でもいい」


 その二人の名前を出したのは、知り合いならば俺の身元を保証できるからだ。


「ふうん。仮に相撲部監督という肩書きが事実だったとしても、女子トイレに隠しカメラを仕込むのは犯罪ですよね? 相撲部監督であったとしても許されませんよね?」


 そりゃまあ、仰るとおりなんだけど、俺は隠しカメラなんか仕込んでいない。それをどうやって証明すればいいだろうか?


 やったことを証明するよりも、やっていないことを証明するのは遥かに難しい。悪魔の証明というやつだ。


「俺が嘘をついていると主張するんなら、魔法を使って確かめてみればいいだろう」


 口に出してから気づいた。そうだ。この世界には魔法がある。俺は魔法を使えないけど、こちらの世界の多くの者は魔法を使える。それにここは旭川西魔法学園だ。生徒なら当然魔法を使えるだろう。魔法を使って、俺が嘘をついているかどうか判定してみればいい。


 女子生徒二人は、俺のセリフを聞いて、お互いに顔を見合わせた。困惑気味、のように見える。


「嘘発見の魔法はあるけど、魔力消費の割には判別の効率が悪くて、あまり使う人がいないんですよね……」


 と言ったのは、今まで喋っていなかった方、少し垂れ目ぎみの女の子だった。


 どういうことだろう? 俺は魔法に関する知識が無いので、具体的な実感として分からない部分が多い。


「例えば、『あなたの血液型はA型ですか?』という質問に対して『いいえ』と回答したとします。それに対して魔法を使って、嘘をついていると判定したとします。では、血液型A型というのが嘘だったとして、B型なのかO型なのかAB型なのかは、更に質問を繰り返して魔法で嘘発見を繰り返さないと判別できないのです」


 それは、質問の仕方が悪いだけなんじゃないのかな?


 この場合なら、「あなたの血液型は何ですか?」と聞けばいいような。それで相手がA型と答えたとして、真偽判定をして、……


 ……あ、それで嘘だったら、結局再度質問が必要になるのか。だったら、どう質問すればいいのかな? 


 ……なるほど、確かに難しいというか、嘘発見魔法一回で一つの嘘しか見抜けないのだとしたら、非効率かも。


 ……いや、なんというか、根本的に決定的に間違えているように思うんだが。何を間違えているんだろう?


 俺が頭の中で賢者らしい思考を展開しているうちに、またトイレの扉が開いて、更に二名の女子生徒が入ってきた。


「どうしたの? その男の人、誰?」


 当然の疑問だ。


「今、女子トイレは使わない方がいいよ。この不審者の男が隠しカメラを設置しているかもしれないから」


「え、マジで? さっさと警察呼ばないと」


「いや、警察を呼んだら、ちゃんと処罰されずにウヤムヤにされちゃうから、ここで私たちでリンチする方がいいと思うよ」


 後から来た女子高生のうちの一人が物騒なことを言った。おいおい、日本は法治国家じゃなかったのか? リンチなんてあり得ないだろう。……いや、別に警察を呼ばれたいわけじゃないけどな。


「ねえ、私、トイレしたいから来たんだけど。どうしたらいいの?」


 女子高生四人の鳩首凝議だ。もちろん俺はJKじゃないから蚊帳の外だ。


「そうだ。いいこと思いついた。男子トイレに行ってすればいいんだよ。男がノゾキ目的で隠しカメラを仕込むのは女子トイレだけでしょ? 逆に男子トイレに仕込んだりはしないでしょ?」


「なるほど。それは盲点だったわね。でも男子トイレに入るのは抵抗があるなあ」


「それに、途中で男子生徒が入って来ちゃったら困るよね」


「それだったら、誰かがトイレの前の扉の前に立って、男子生徒が入って来ないように見張りすれば良くない?」


「いいね、それ」


「いいね!」


 ……今更ながらだが、さっきの嘘発見の魔法のおかしな点が分かったような気がするわ。


 俺に対して「隠しカメラを仕込みましたか?」と質問すればいい。それに対して俺は「ノー!」と答える。それを真偽判定すればいい。そうすれば、一回だけ魔法を使うだけで、俺の無実潔白が証明されるじゃないか。……なんだ、考えてみればこんな簡単なことだったなんて。かえって遠回りして難しく考えすぎていたんだ。……まあ、たまにあるよね、こうやって無駄な思考ばかりが堂々巡りして肝心の答えへの最短経路を見失うこと。


「私たちが男子トイレでトイレしている間に、変質者のアンタ、逃げないでよ?」


「だから俺は変質者じゃないし相撲部監督だし、隠しカメラなんて仕込んでいない。さっさと魔法で嘘かどうか判定してみろよ」


「なんでアンタのためなんかに、貴重な魔法を消費しなくちゃならないのよ? 悪人に裁判を受ける人権があるとでも思っているの?」




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