153 I wanna take you to the Japanese ancient city
でも本当に大丈夫なんだろうか?
国技館ひとつにつき戦力1万人とは言っているが、アテにしているのはウチの学校、旭川西魔法学園相撲部だろ?
部員は二人しかいないし、監督は男で土俵に入れないし。
そんな男の俺が、戦いに際して何をすればいいのか?
……ハワイアン大王波を撃つ練習と、筋トレくらいだぞな。
……いや、そういえば、確認しなければならないことがある。
「なあクロハ。体育館が国技館になっているって言っていたよな。ってことは、このプレハブはどうなるんだ?」
「この場所に置きっぱなしになるんじゃないの? 体育館だけが空を飛んで日本本土を目指すことになると思うけど」
「そうか……」
……なんかちょっと残念だ。せっかく慣れてきたというか愛着が湧き始めてきた場所なんだけど。
「プレハブと土俵は持って行けないけど、備品は持っていきたいですよね」
「恵水の言う通りよね。冷蔵庫とアイスクリームは持って行きたい。ずっと相撲を取っていることになるから、休憩の時にはアイスクリームくらい食べさせてもらえないと、やる気が無くなっちゃうよね」
ずっと相撲を取る?
ほんと、俺は、今回の作戦で何をするのか、作戦の概要が理解できていないんだけど。
何をすりゃいいんだよ。魔法だって使えないし。
……なんなら、俺もいっそのこと開き直って、京都に着いて無事に本土奪還を果たした後の京都観光の予定でも立てておこうかな?
まあ俺は通なので、清水寺みたいな有名なところは、あえて行かないんだぜ。高校の修学旅行で行ったことあるしね。
一般人でも知っているような有名すぎる名所じゃなく、ちょっと通な人が知っていて、それでいてちゃんと観光名所な場所がいいよな。
足利将軍や雪舟のゆかりの寺である相国寺、優填王思慕像の流れをくんだ本尊があるという清凉寺、准胝観音菩薩を本尊の一つとするという醍醐寺、半跏宝冠弥勒菩薩の広隆寺、あと如意輪観音菩薩を本尊としていて楠木正成のゆかりの寺とされる観心寺かな。……あ、観心寺は京都じゃなかったっけ?
京都のお寺とかに関する知識のある博学な俺、カッコイイなー!
……まあそんなカッコイイはずの俺が何故か全然モテないのは、世の不条理を感じるけどな。
「ねえ赤良。何を一人でニヤニヤしているのよ? 京都に行ったら舞妓さんナンパしようとか考えていないでしょうね? 舞妓さんの迷惑だから、やめなさいよ!」
「しねぇよ!」
俺のようなオタクは、自分の方から女性を誘ったりはしない。
向こうから「一緒に食事に行きませんか?」とか誘ってもらえれば喜んで応じるところではあるが、こちらからは誘わない。
なんだかんだいって断られてしまい、ハートブレイクするのが目に見えているからだ。その上、誘っただけでも「セクハラだ!」と言われてしまう昨今の過激なフェミニズム事情があるからな。
「私と恵水は、必要な物資などを国技館に詰め込む作業があるけど、赤良はアテにされていないでしょ?」
……確かに俺は、荷物運びなどは頼まれていない。楽だといえば楽だが、アテにされていないという言われ方をすると、なんか情けなくはある。
「用事が無いなら、先に国技館に行って、掃除でもしていてよ。……あ、でも、土俵の上にあがったらダメだよ。土俵上は、やらなくていいから」
俺は結局クロハにこき使われる立場か。まあ、他にやることも無いからいいけど。
「それよりクロハ。戦いっていうけど、ほんと結局具体的に何をするんよ?」
都市艦旭川がどういう動きをするのか。全貌が見えない。
「この国技館は、都市艦旭川から魔法で打ち上げられて、空を飛んで日本本土の京都を目指す。京都に降りたってしまえばこっちのものよ。でも、空を飛んでいる間に魔族からの妨害攻撃を受けることを想定しなければならない。そうでしょ?」
俺はうなずいた。そりゃ当然だ。魔族にとっては危険な侵略攻撃が来るのを、黙って静観しているってことは無いだろうな。
下手すりゃ、撃墜されて海に向かって真っ逆さまに墜ちていく、なんて最悪のシナリオもあるかも。
そういう死に方は勘弁してください。4トントラックにひかれて死んだ経験のある俺は切実にそう思うわ。
「日本本土を不法占拠している魔族の側の立場に立って考えてみれば、連中がどう対応してくるか分かるはずよ。赤良。あなたが魔族側だったら、日本に向かって飛んでくる国技館に対して、どう対応する?」
どっかの北の国からのミサイルならともかく、国技館が飛んで来る、なんていうシチュエーションは想定したこと無いな。
ただまあ、ミサイルに対してと、基本的には対策は同じじゃないのかな。日本本土に落ちて来たら困るから、空中で撃墜しようとするだろうな。
「国技館迎撃ミサイルを撃って、空飛ぶ国技館を撃墜しようとする」
「そうね。迎撃ミサイルを撃ってくるのは確実よね」
冷徹なクロハの台詞に、俺は背筋が凍る。
それ、やばくね?