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134 カカオ0%チョコレート


 ……そういえば、噂で聞いた話だけど、キラキラネームの人は、その名前が元で人生でイヤな思いをすることが多く、そのせいで性格が歪んでしまうケースが多々ある、というのを聞いたことがあるぞな。……まあ、そういうケースが多い、というだけの話であって、全部がそうなるという保証ではない。実際、琴座さんは親しみやすい良い性格のように思える。


 もちろん、俺とは随分年齢も離れているが、素直にお友達になりたいと思える子だ。


 ……ナツカゼの方はいくら古風な和風美人であってもノーセンキューだけど。


「ヴェガ、こちらの旭川の高校のみなさまは、我々東神楽高校の相撲部よりも格下ですので、そこまで丁寧に挨拶なさらないで、格の違いを認識させてあげるくらいでよろしいのですのよ。それはそうと、東神楽の都市艦に魔法で飛んで帰りますわよ。ちゃんと体力は回復しましたか?」


 ここに及んで、大体の事情は察した。


 ナツカゼの奴、旭川の都市艦までどうやって来たのかと思っていたが、あのキラキラネーム琴座ヴェガさんに抱えられる格好で空を飛んで来たのだろう。


 魔法で体力を消耗したヴェガさんは、ナツカゼの奴が挑発的な交渉をしている間に、隠れてチョコレートを食べて体力回復を図っていた。


 そして、旭川の都市艦からどうやって出て行くのか、の答えも見えた。今度はヴェガさんを抱えてナツカゼが魔法で飛ぶのだろう。


 魔法ってのは便利だな。うらやましいよ。


 それと同時に、魔法は一人で使うには不便すぎて使い勝手が悪い。どうしても仲間との連携が必要だ。ぼっちの俺にとっては、仮に使えたとしてもぼっちという部分に更にネックがある感じか。世の中世知辛いもんだぞな。


「ねえ夏風先輩。私のこと、お姫様だっこで運んでくださいよ」


「それは無理ですわね。あなたを運ぶだけではなく、あちらの魔族の女性も一緒に運ばなければなりません。そうなると、意識の無い魔族の人を腕に抱えて、あなたは私の背中におんぶという格好になるでしょうか。それも、私は手が塞がるので、あなたが自分の腕で私にしがみついてもらわなければなりません。それができるくらいに体力は回復しましたか?」


「体力的には平気ですよ。私だって相撲部で鍛えているんですから。でも、お姫様だっこが良かったなあ」


「でも、ここに来る時、あなたは私のことをお姫様だっこしてくださらなかったでしょう」


「だってそれは、先輩の方が体が大きいから、私がお姫様だっこするのは無理ですよ」


 なんだこの二人のやりとりは。こいつら百合か。ユリなのか。


「東神楽に帰ったら、いくらでも可愛がってさしあげますから、それまでは我慢なさい」


「やったぁ!」


「可愛がる、というのは、あくまでも相撲用語としてのかわいがりですよ。土俵の上で、ですからね。勘違いなさらないように」


「それも大歓迎ですよ。夏風先輩と、熱い肌と肌を激しくぶつかり合わせて、組んず解れつする。よろしくお願いしますね!」


 なんだ、ヴェガさん。相撲の取り組みのことを、なんかえろてぃっくな行為であるかのように描写して。


 やっぱ百合のような気がするよ。恐らくキラキラネームのヴェガさんが一方的にナツカゼに惚れている感じか。相撲の実力は確かに認めるし、ルックスが良いのも事実だろうけど、こんな性格の奴がいいのかね。ヴェガさんがとても明るく人なつっこい性格らしいので、プラスとマイナスが合致して相性が良いといこことなのだろうか。


「さっさと魔族を連れて帰りますよ」


「あ、先輩、ちょっと待ってください」


「まだ何か用があるのですか?」


「せっかく旭川の都市艦に上陸して、旭川の高校の相撲部のみなさんともお会いできたのだから、自己紹介と挨拶くらいは、やってから帰りたいなーと思って。いいでしょ?」


 まるで子猫のように小首を傾げてつぶらな瞳でナツカゼに向かって懇願する。


「……まあ、いいでしょう。ここまで飛んでくるのも魔法を使ってせっかく来たのですから、それくらいは認めましょう。……でも早く済ませてくださいね」


「わぁい! あ、初めまして! 私、東神楽高校相撲部一年の木村琴座といいます。体、すごい大きいですね!」


 琴座ヴェガさんは、一番近くに居た二階堂ウメさんのところに駆け寄って、というよりは若干不安げな足取りで近付いて、両手でウメさんの右手を取って握手しながら笑顔で名乗った。


「あ、藤女子高の二階堂ウメです」


 ウメさんと握手を済ませると、ヴェガさんは次に近い場所に立っている恵水の所へ歩いて行って自己紹介と握手をしていた。


 ……なんだかんだいって、時間を費やしてまでヴェガさんの自由な行動を認めているのだから、ナツカゼのヤツも後輩のヴェガさんに対してはカカオ0%チョコレートのように甘いというか、かわいがっているのだろう。土俵上の猛稽古という相撲用語の意味ではなく、本来的な意味で。


 しかしマジでヴェガさんは自由というか奔放というか、人なつっこいというか社交性が高いというか。俺もあそこまで人との距離を縮めて仲良くできれば、リアルが充実して、こんなぼっちのオタクにならずに済んでいたかもな。



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