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129 異世界フォークリフターvs夏風の巫女


 ナツカゼさんは俺が転生者だとは知らないはずだ。だからこちらの世界基準で、相撲は女だけのものだと思っている。そこに、俺がつけ込むべき隙があるはずだと思う。


「あら、面白いことを仰るのね。いくら体が大きくて男性の筋力があるからといって、それだけで勝てるほど相撲は甘くはありませんのよ」


 そんなことは言われなくても分かっているわ。


「それより、対決するのなら、まわしはどうするんだ?」


 そうなのだ。まず最初にそこを考えるべきだろう。


 土俵はある。神社の境内ということで、屋根付きの、きちんと清掃管理されたきれいな土俵がある。


 まわしはどうするんだ?


 もちろん俺はまわしなんて持ってきていないぞ。旭川西魔法学園の相撲部のプレハブ部室に行けば予備のまわしはあるだろうけど、基本的に俺は監督だから、自分がまわしを締めて相撲を取る必要が無い。


 巫女衣装のナツカゼはまわしを着用しているのだろうか? ゆったりした巫女の朱色の袴をはいているので、その下に着用済みという可能性はあるが、対戦する力士の片方だけがまわしを付けていても公平性が損なわれるだけのような。


「残念ながら今はレオタードもまわしも着ておりませんの。ですから、この衣装のままで取りますわ」


「そんな、ひらひらした服だと動きの邪魔だろう。脱がないのか?」


「脱ぐ? あなた、なんといいますか、女子高校生相手にオジサンが服を脱げと発言するのは、セクハラそのものじゃないのでしょうか」


「ホントホント」


 ナツカゼの発言に対してクロハまでもが同意しやがった。


 別に俺は、エッチな意図で言っているんじゃないんだぞ。勘違いするなよな。あくまでも相撲は裸で取るものだ。我が身一つだけで力比べをする様子を神様に奉納するんだ。


 まあいいか。まわし無しで、着衣のまま相撲を取るんでも。俺は男で、こちらの世界では土俵は男子禁制だけど、対戦相手がそういう形式でいいって言うなら、こちらとしては受けて立つだけだな。


「やるっていうなら、さっさとやろうぜ」


 俺は、ついさっきまで亀の甲羅縛りの魔族を吊した棒を担いでいた右肩をぐるぐる回してほぐしながら、靴と靴下を脱いで土俵に上がった。


 さっき土俵入りをして、この土俵の土の感触は足の裏で把握したばかりだ。地の利はこちらにあると言っていいだろう。


 ナツカゼも、裸足になって土俵に入った。入る時に、土俵に向かって小さく一礼した。


 ほう。相手も、相撲に対しては真摯に向き合っている力士らしい。


 俺は西方で蹲踞した。相手のナツカゼは東だ。丁度いいところだろう。俺は西高出身だし、西神楽も含めての西側の旭川市出身だ。相手のナツカゼは旭川の東に位置する東神楽なんだし。


「見合って見合ってぇー」

 恵水が気を利かせてくれて、が土俵の外からだけど、行司として声をかける。行司を買って出たのがクロハじゃなくて恵水で良かったかもしれない。クロハはナツカゼに対して過度に感情的になっていて、勝負を見届けるジャッジとしては冷静に公平にさばけないかもしれないからな。


 仕切り線は無いけど、大体このへんだろうという場所にアタリをつけて、俺は腰を下ろして手を土につく。相手の動きと呼吸をはかる。


 ナツカゼもまた、ゆったりとしているけど自信に満ちた動きで仕切り線の前で腰を下ろして、握り拳を片方土についた。


「はっけよーい、のこった!」


 行司恵水の声とともに、ナツカゼはもう片方の握り拳を地面に叩きつけるようにしてつくと、その反動を利用するかのような勢いで立った!


 もちろん俺も立った。が、相手の動きを動体視力で追いながらも驚きを隠せなかった。


 鋭いし、早い。


 いや、単にスピードだけなら、力士ならこれくらいは当然だろう。だが、今のナツカゼは、動きにくいはずの巫女衣装を着ているんだぞ。それで敏捷に動けるとかマジか。


 と、俺は脳裏で一瞬の間に思考した。思考に対して、次の対処法が追い付かなかった。


 おっ?


 と思った時には、相手の諸手付きを胸に受けていた。俺の上体が起きた状態になる。……あ、今のはナイスダジャレだったな、とオヤジギャグを誇るいとまも無く。


 今度は交互に、右、左、右、と、相手の突っ張りが俺の胸に入る。


 お、一発一発がかなり重いぞ!


 もしかしてだけどもしかしてだけどもしかしてだけどもしかしてだけど、ナツカゼ、こいつ、突き押し相撲が得意なんじゃないの?


 だから、まわしを着用しない状態での取り組みを提案してきたのか。


 いや、なんとなくだけど、気づいていたんだよ。なんというか、その考えを明確に認識する前に、取り組みが始まってしまったんだ。間に合わなかったのよ。


 気づいた時には、今のこのありさまだ。


 両足を踏ん張る。裸足の足の裏で土を噛む。だが、そのままズルズルと後方に下がっていることが分かってしまう。ヤバイよこれ。


 当然ながら、俺だってやられっぱなしではないぞ!



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