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120 くっ、殺せ!


「あの大須賀って男、自分ではカツラがバレていないと思いこんでいるようだけど、本当に滑稽よね。私のことを舐め回すようないやらしい目で見ていた割には、人間が滅んだ後に魔族の社会での地位を口利きしてあげる、って言ったら、子犬のように尻尾振って喜んでいたわね。自分の内通のせいで人間が滅びた後も、そこまでしてまで自分だけは生き残りたいのかしらね。もう、ホントに浅ましいったらありゃしないわよ」


「お、大須賀、だって……?」


 誰だったっけ?


 どこかで聞き覚えがある。工場のマネージャー、じゃないよな。


 アレか。二階堂さんがいた藤女子高のコーチ。


 じゃない。


 誰だっけ。あとちょっとが思い出せない。ほら、喉のここのところまで出てきているんだけど、ほら、あの人だ。


「カツラの大須賀って、テレビで過激なタカ派発言をしているオジサンのこと?」


 若いクロハの言葉でアラフォーオッサンも思い出しましたよ。そうそう。テレビのコメンテーターだ。マジで年とると記憶が曖昧になるというか、思い出そうとすることが思い出せなくなってしまう。


 それはそうと、民族主義というか人間主義でアンチ魔族の急先鋒という感じのコメンテーターだったあの大須賀さんが、魔族との内通者だったなんて。


 本当なんだろうか? この魔族の美女がデタラメを言っている可能性は無いだろうか? そもそも、あそこまで徹底してタカ派発言をしていて、魔族へのヘイトを高めていたじゃないか。


 もしくは、やっぱり、テレビの大須賀さんと内通者は別人という可能性も。


「あなたたち、覚えておきなさい。テレビなんてね、視聴率さえ稼げればいいのよ。コメンテーターは、国民が望むようなことを言えばいい。本人の思想がどうかはこの際関係ないわ。だから、外国へのヘイト発言や魔族に対する差別発言は視聴者にウケるから数字を取ることができるってわけ」


 魔族の女が人間社会におけるテレビの視聴率問題を語ってどうするんだ。


 だが、テレビで言っていることを鵜呑みにできないのは事実だろう。


 ……そしてそれ以上に、この女は美人でセクシーだけど、魔族なんだ。俺やクロハを騙して逃げようとしているのかもしれない。この女の発言を鵜呑みにすることこそ、ヅラ大須賀を過信するよりも遥かに危険だろう。


 大須賀さんが内通者かどうか、それは、この際ある意味どうでもいい。


 仮に内通者でないならば、もちろんノープロブレムだし。


 仮に内通者であるというのが真実であったならば、もう既に甚大な被害が出てしまっているのだ。地下製麺工場で粉塵爆発は起きたのだ。今から大須賀さんを逮捕してももう遅いだろう。そもそも大須賀さんだって証拠を残さないように注意しているだろうし、そんな簡単に尻尾を出すことは無いだろう。だから仮に、「大須賀氏は魔族と内通している! あと、本人は気づかれていないつもりだけど、明らかにヅラだ!」と指摘したとしても、後半はともかく、前半については信じてもらえないだろう。証拠不十分で無罪放免になってしまいそうだ。


「ふっ、危うく引っかかるところだったわね。危ない危ない。テレビのコメンテーターの大須賀が内通者だとバラすことによって私たちの興味をそちらに向けて、自分への警戒が緩む隙を狙っているんでしょ。その手には乗らないんだから」


 全然関係ないけど、こちらの世界には、その手は桑名の焼き蛤、って言い回しは存在するのだろうか? 桑名は、やっぱり都市艦として健在なのだろうか。そちらでも両国国技館復活のために部品か何かの製造をやっているのだろうか。


「大須賀なんて、どうでもいいわ。今は、魔族であるあなたをどうするか、よ」


「とっとと殺しなさいよ」


 出た。これがあの有名な、くっ殺、という奴か。高潔な女騎士ではなく魔族の美女が言っているという差異はあるけど。


 ……てか、そのパターンだと、俺とクロハは高潔な女騎士を辱める汚らわしいオークという立ち位置なんですが。


「殺す。そうね。裁判があれば、地下製麺工場での粉塵爆発というテロは重罪だから、当然死刑でしょうね。でも裁判は無い。あなたは、人間の男どもに引き渡されたら、私刑として、散々慰みものにされるのよ。当然そういう運命よ」


「だから、そんな辱めは受けない。とっとと殺してしまいなさいよと言っているのよ」


 やっぱり、くっ殺、だな。


 くっ、って最初に言わないからバージョンとしてはインパクトがやや弱いけど。


「それはそうと、魔封波で土俵の中に封じられた気分はどうかしら? 結界の中だから、常にダメージを受けて、今もリアルタイムでどんどん魔族としての魔力が削られていっているはずだけど」


「私に苦痛を与えて、なぶり殺しのつもりなの? 私刑で慰みものにするとか、そんな野蛮な連中ばかりなのに世界のトップを行く法治国家だなんて、日本の人間の自惚れもほどほどにしてほしいわよね」


 この魔族の女、つくづくクロハとは相性が悪いというか、とことん煽ってくるな。さっきから、くっ殺、的なことばかり言っているけど、本当に死にたいのだろうか。



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