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そうか。じゃあ、学校に行って、隣の神社を探せばいいのか。もう、そこにアタリをつけて行くしかない。
俺は一軒家を飛び出した。いや、飛び出そうとした。
なんかやっぱり、青汁を指定されているのが気になるな。
なんで青汁なの?
そこをきちんと説明してくれないと、持って行くにも持って行けないじゃん。
……なんなら、行く途中にコンビニあたりで買って行こうかな。たぶんセコマなら紙パック入り100ミリリットルくらいのが置いてあるよな。たぶんそれは、マズい青汁ではなくおいしい青汁だろうけど。マズい青汁なんて過度に健康を気にするジジイにしか売れないだろう。コンビニに寄るような基本的に若い人には、最低限おいしくなければ青汁なんて飲もうと思わんわ。
……うーんでも、青汁一本にしても、こっちの価格だと高いからなあ。いくら都市艦維持のためとはいえ、消費税が高すぎだって。こんなんで、消費が冷え込んだりしないんだろうか心配だよ。
やっぱ、お金がもったいないから買うのは控えようか。
でもなんか、持ってきてくれと言われている物すら持たずに手ぶらで行くのも申し訳ないような気がするので、代わりといってはなんだけど、二階堂さんにもらった羽二重餅を持っていくことにした。まだ二つくらいしか食べていなかったので、菓子折の箱の中には多く残っている。これをクロハに食わせてやれば、青汁が無いことに青筋立てて怒ったりはしないだろう。
なんだかんだで若い女子高生だ。甘い物が好きだろう。和菓子であっても、何か食わせておけば単純に喜ぶだろうから、機嫌が悪くなったりしないだろう。
暗くなっても、夜空は相変わらず霧のかかった曇り空だった。異世界に来てから、晴れた青空も見ていなければ、星空も見ていないということになる。そして、昼間よりは気温は下がっているのだろうけど、蒸すのは変わりないので、暑く感じる。ここに住んでいる人って、元々北海道の旭川市に住んでいたはずだから、北緯44度の気候に慣れていたはず。みんな暑くて毎日ぐったりじゃないのかね。
などと考え事をしながら、学校へ向かう。人通りは少ないが、その代わりヘッドライトを点灯した車の往来は多い。ここが巨大な艦の上だなんて信じられないくらいだ。
鮮やかな青い車は見あたらない。
結局コンビニのセコマは素通りして、学校の正門前まで戻った。
で、神社はどこだろう?
周囲を見渡すと、相撲部のプレハブがある側の裏にあたる箇所が、闇が濃くなっているのに気づいた。
俺は元の旭川に居た頃から神社巡りが趣味で、初めて訪れるような町にドライブで行ったとしても、なんとなく、どのへんにその町の神社があるか分かるのだ。なんとなく。
神社がある場所は大抵、鎮守の森として木々が残っていて緑が濃い場所になっている。大抵はちょっと高い場所にあるものだ。
なので、旭川西魔法学園の隣にあるという神社も、あの闇の濃くなっている場所に行けばいいのだろう。
俺は学校の裏に行く感じで、敷地の周囲を回り込んだ。
ビンゴだった。やがて俺はきれいな朱塗りの明神式の鳥居を発見した。
明神式っていうのは、なんていうか、両端がちょっと上に反り返った感じの、シンプルな横棒で構成される神明式よりも、割と見た目が派手っぽい鳥居だ。稲荷神社なんかでよく見られるタイプだぞな。
で、その鳥居の上の横棒二本の間に扁額が掲げられていて、そこに神社の名前が書かれているわけだが。
『旭川西魔法学園神社』
おい。
学校附属の神社なのかよ? バス停の名前とかじゃないんだぞ。どう考えても学園艦、じゃなくて都市艦ができてから新たに作られた神社だよな。8000001番目の神様かな。
まあ名前を気にしていても仕方ないので、朱塗りの鳥居をくぐって先に進む。すぐに、あまり清掃されているとは思えない古い登り石段があった。
持久力が減少しつつあるアラフォーオッサンには試練の石段だな。
勢いをつけて元気よく昇れるのは10段くらいまでだった。その後はややゆっくり太腿を上げるようになり、段数が進むにつれて、上を確認して、あとどれくらいあるんだろう、と息をつく。左手に持つ羽二重餅の入った紙袋、重いわけじゃないけど、邪魔だ。
それにしても、この石段、苔むしていて、随分古そうなんだが。
だってここ、都市艦だろう? 魔族に日本国土を占拠されて緊急避難先として都市艦ができたんだよな? だったら、そんな極端に古い建物は無いはずだが……
でも、それを言ってしまえば、こちらの旭川に転生した時に、いっちばん最初に見た旭橋そのものが、古い歴史のある建造物なんだよな。旭川の象徴だからわざわざ再現したのかもしれないけど、古い橋を再現する必要は無いよな。橋なんて実用性が第一なんだから、耐久性などを考えてもツインハーブ橋みたいな新しいデザインの橋でいいと思う。
……それでいて、石段の両脇には一定間隔で石の灯篭が、いくつも並んでいて、しかも明かりが灯されている。なので夜であっても石段が照らされているので、視界の悪さが原因で足を踏み外すといったことは無いだろう。なぜかこういうところだけは親切設計だ。都市艦だからだろう。