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1 女神さまとの会談

 小雪がちらつく、真冬の厳寒の旭川で。


 俺は。

 4トンの平ボデートラックに轢かれて死んだ。


 アニメグッズショップで買ったフィギュアを部屋に飾ることなく旅立つのは心残りだし、お気に入りだったマフラーを最後の最後に大量の吐血で汚してしまったのも悔しい。子どもの頃から祖父と一緒にテレビで大相撲中継を観るのが好きで、自分が力士になろうとは思わなかったけれども力士に憧れてそれなりに体を鍛えていて、40歳近くなってオッサンというべき年齢になっても締まった筋肉質の肉体を維持してきたのだが、4トン車とはいえ、トラックに轢かれては耐えられなかった。当たり前だ。


 ちなみに4トントラックというのは、トラックの重さが4トンではない。4トンまで荷物を積むことができるトラックだ。だからトラック自体の車体の重量も大体5トンくらいある。



***



「シロサキアキラ、あなたは死にました」


 あの世に来た俺は、早速女神さまから死亡宣告を受けた。

 ……てか、死後の世界って、あるんだ。俺はある意味感動していた。


 今、俺の目の前には、17歳くらいだろうかと思われる美少女が立っていた。清楚な白いワンピースを纏っていて、セミロングの銀髪に青い瞳、透き通るような肌の白さ、どれをとっても完璧な容姿で、現実離れしている。つまりそれこそが、目の前の美少女が現実の三次元の人間ではなく、女神であるという証拠なのだろうと思う。いや、女神さまも三次元かもしれないけど。


「あなたの生前の行いは、悪いことはしていないように思われますが、空き巣行為をしていたのではないかと疑われる、ちょっと気になる記載もございます」


 女神さまはピンク色のかわいらしいリングノートを見ながら、なんか不穏な発言をしやがった。

 ちょっと待って。もしかしてだけどもしかしてだけど、俺ってば全く身に覚えが無いにもかかわらず、空き巣犯に仕立て上げられようとしているんじゃないか?


「待ってくれよ。俺は空き巣なんて一度もしたこと無いぞ!」


「そうですか? ですがここに、業務内容はピッキングと書いてあるのは何なんでしょうか? ピッキングって、空き巣用語ですよね?」


 ビビったよ、マジで。

 いや、確かに空き巣用語にもピッキングってのはあるよ。

 でも、俺のやっていたピッキングは別物だから。誤解だから。


「ピッキングっていうのは、倉庫にある荷物を取り出す仕事だよ。広い倉庫の中から、発注された品物がどこに収納されているのかを探し出し、それをピックアップ、つまり取り出して来ることだよ。求人情報誌やハローワークの求人募集欄の作業内容にもピッキングってちゃんと書いてあるよ。怪しいものじゃないんだよ!」


 俺は倉庫で働いていた。大きい荷物を扱うので、フォークリフトを操縦する仕事だった。そして4トンの平ボデートラックに積み込むのだ。

 …………まあ、今回は、自分が荷物を積み込むようなのと同じタイプの4トン平ボデートラックに俺がひかれてお亡くなりになってしまったわけですが。

 でもまあ仕方ないか。荷物を積んでいない時の4トントラックって、尻が軽いからどうしても凍結路面で滑りやすいんだよな。

 ……いや、自分がひかれたことを仕方ないなんて言っちゃダメか。


「そうですか、倉庫の用語でしたか。だったら問題ありませんね。あなたは生前、特に悪い行いも無かったようなので、異世界に生まれ変わることができます」


 来たよ。


 俺は知っているぞ。


 昔は、仏教の影響なのかなんなのか知らんが、死んだら天国か地獄に行くってことになっていたらしい。

 でも今は違う。


 死んだら、異世界に転生するんだ。


 そして、俺の読みは案の定当たっていた。


「異世界に転生するにあたり、あなたは監督として、現代日本で得た技能と知識を使って無双してもらいます。頑張ってください」


 えっ? 異世界転生は規定路線だからいいとして、俺の持っている技能とか知識とかって、倉庫でフォークリフトに乗ることくらいだぞ? それでやっていけるの? こういう時は、チート能力を付与してくれるもんじゃないの?


 疑問を口にして質問するヒマすら無かった。


 俺の周囲が、白く輝いてぼやけてきた。たとえて言うなれば、アニメで登場する謎の白い光が周囲全体に満ち満ちてきたような感じだ。別に隠さなければならないえろいシーンがあるでもないのに。


 すぐ目の前にいる女神さまの姿も、白い光に遮られて見えなくなっていった。


「ちょ待って、ちょ待って! チート能力も無しで、どうやって異世界のファンタジー世界で生き残って行けっていうんだよ! いくら体を鍛えているとはいっても、俺は単なる現代日本のオッサンでしかないんだぞ!」


 それに、監督って、なんだよ。何の監督だ?


 たぶん、俺の心からの叫びも、もう女神さまには届いていなかっただろう。


 かくして。


 俺、城崎赤良は現代日本で死んで、異世界のファンタジー世界に転生することになった。


 ……あ、そういえば、空き巣の嫌疑をかけられてそれを晴らすことにばかり気を取られていたから聞き忘れてしまったけど、ハーレム要素はあるのだろうか? 現代日本では全然モテないままオッサンという年齢にまでなってしまったけど、どうせ転生するなら、せめてちょっとくらいはモテる人生ルートに入って青春やりなおしをしてみたいなあ……



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