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Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
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エリアボス2

 「うらぁぁぁ!」


 豪快な掛け声とともに、全体重と重力を乗せた包丁をロッククラブの右手へと振り下ろす。


 「ぴぎぃ!」


 ロッククラブの驚いた声と共に鋏の根元から青い血が噴出した。


 「あっはっは!切り落とすつもりだったのにやるわね!」


 「まったくだよ。作戦変更、スキルで応戦する」


 ステラはロッククラブから再び距離をとり、私が前にでる。


 「狐火……陽炎!」


 第2幕を告げる炎が生まれる。


 狐火が私と等身大にまで膨れ、人の形を作る。


 5体まで増えた陽炎は私の姿となり、ロッククラブへと歩いて行く。


 無警戒に歩み寄る不気味な陽炎にロッククラブは警戒を強める。しかし、射程圏内にはいると左手が一体の陽炎にシャコパンチを放った。


 「ぴぎゃぁぁぁぁ!」


 陽炎は溶け、その体をスライムのように左手に絡みつける。


 魔力と空気を凝縮させた狐火は最高温度1500度まで達する。それが、簡単に消すことも出来ず、離れることもしない。高温度の炎がロッククラブの甲殻を酸化させ、溶かしていく。


 残りの4体は背負う大岩へと張り付き、その体を溶かした。


 鉄を含む大岩の熱伝導率は高い。ロッククラブはその炎を消そうと転げまわる。だが、岩の間に入り込んだ炎は簡単に消すことはできない。


 「隙だらけね!」


 ステラが木の上から跳躍し躍り出ると、一撃目と同じ箇所に狂いもなく包丁を叩きこむ。


 青い血しぶきが勢いを増して噴出した。


 「ステラ!あまり無茶しないで。暴れている時は予期せぬ行動を起こす可能性がある」


 「今はミナモちゃんが生み出した好機さ、無茶せずにいられないね」


 せめて陽動にと再び陽炎を3体作り出し、ロッククラブに向かわせる。


 実は陽炎のスキルは燃費が悪い。


 最初に込める魔力以外に、熱を逃がさない結界を展開し、炎を維持する魔力、操る魔力を必要とする。

 それを計8体作っただけで、尻尾2本分の魔力を消費してしまった。


 残り2本……。


 一本は次元収納の維持にあてている。収納している物のことを考えると手を付けたくない。そうすると、自由に使えるのは1本か。


 危険察知と高速思考は本能と精霊スキルなので魔力は使わない。だが、身体強化と魔力感知は魔力を変換するため、使用する時間に応じて魔力が減っていく。


 ざっと20分くらいか。いや、新たに作り出した陽炎の維持を考えると15分あればいい方か。


 陽炎は打ち止め、後は地道に削っていくしかない。


 ステラが安全マージンを取り払った捨て身に近い猛攻を一点集中させている。


 それをサポートするために、ロッククラブの攻撃をこちらに集中させるために、陽炎をちらつかせ、攻撃を避け、時にはショートソードで攻撃を受け流しつつ、攻撃を捌くことに専念をした。


 徐々にロッククラブの攻撃が遅くなり、動きも鈍くなっていく。


 攻撃も単調になってきて、蟻を潰すが如く傷ついた両手で私に向かって叩きつける攻撃を繰り返すようになった。


 終わりは近い。


 両手を振り上げ、大ぶりの攻撃が地面に叩きつけられ、砂塵が舞う。


 ギョロ。


 その瞬間、ロッククラブの目が私から外れるのを見てしまった。


 「ステラ下がって!」


 叫ぶより早く、ロッククラブが動いた。


 跳躍し、包丁を叩きつけようとしていたステラに温存していたシャコパンチを放った。


 叫ぶより早く行動していたのは私も同じだった。


 ロッククラブの左手にショートソードを突き出す。


 伸び始めた左手にショートソードがあたり、そして砕ける。


 ほんの少しシャコパンチの軌道は変わったかもしれない。しかし、それでも直撃コースは免れそうにない。


 直撃するーーそう思った瞬間。ステラの前に割り込む人影が見えた。


 「森よ、我に力を宿し、迫る脅威を排除せよ…樹精霊の鏡」


 モカが詠唱を唱え、その目の前に緑色の鏡のような盾を展開させた。


 シャコパンチは吸い込まれる様に鏡へと攻撃が当たる。


 鏡は一瞬、シャコパンチを受けとめそして砕け散った。その衝撃でモカはステラを巻き込み吹き飛び木へと叩きつけられた。


 「ぐふっ……」


 モカのクッションとなったステラは咳き込み血を吐き出した。背中を強打したせいで肺を傷つけたのかもしれない。


 モカは顔を歪めながら、状態を起こした。


 どちらもまだ命に問題はなさそうだ。


 「二人とも引きなさい! 後は私がやる」


 「どうかご無事でお戻りください……」


 モカはステラを支え、森移動でその場から離れた。


 一方、ロッククラブはシャコパンチを放った後、モカ達の反対方向に吹き飛んでいた。


 モカの防御魔法はカウンターを備えており、一撃必殺の攻撃はロッククラブ自身にも襲い掛かっていた。


 それでも、ロッククラブはゆっくりと立ち上がる。


 左手はカウンターの影響で潰れ、右手もステラの攻撃により血が噴きだし止まらない。


 私はというと、無傷だ。


 しかし、武器を失い総魔力も半分以下。陽炎も3体とジリ貧である。


 (精霊さん…何かいい案ある?)


 戦いの間、サポートはしてくれるがアドバイスはなかった。今も、返事はない。


 (精霊さん?)


 〈あ、すみません! 取り込んでおりました!〉


 よかった、見捨てられたわけではなさそうだ。


 〈ただ今、女神アリルテウス様に交渉を行っております。後、数分耐えてください!〉


 頼もしい相棒だ。この状況で打開策を見つけてくれたようだ。


 (わかった……。交渉の方は任せた)


 〈ご武運を!〉


 「陽炎!」


 私の前に、陽炎を並べ牽制する。


 ロッククラブは嫌そうに、ギギギと歯を擦り合わせた。


 睨みあいが続く。数分立てば精霊が手助けしてくれるはずだ。


 だが、それも長くは続かなかった。


 意を決したようにロッククラブは突っ込んできた。そして、傷だらけの左手で陽炎をまとめて薙ぎ払う。


 左手は使い物にならないと判断したのだろう。3匹の陽炎が絡みつく左手が青く発光する。


 その腕を……ロッククラブは右手で切り落とした。


 青い血が噴水の如く飛び散る。


 カチカチカチと笑うように歯を鳴らす。


 「お前の武器は全て奪ったぞ」と言わんばかりに。


 「狐火……陽炎…………」


 唱えると同時、尻尾が1本へとなる。


 次元収納を考えると、これ以上は無理が出来ない。


 数分耐えればいい。これで駄目なら、収納された物くらい全てくれてやるさ。


 それじゃ、やろうか。


 フィナーレの結末はどちらかの命。


 陽炎と私はその命を刈り取る為に駆けだした。

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