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Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
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転生2

 「貴方と貴方は木々を伐採し広場を作りなさい。で、君たちはその木を加工しなさい、形と長さはこれくらいでいいかな」


 私が念じるだけで理解したのか倒された木を二匹一組で運び始めた。


 フォレストウルフは名前通り森に住む狼であるが、分類は魔物に、正確には魔獣に当たる。


 動物と魔物の違いは魔力を持っているかどうかだ。


 魔力の与える効果は魔法だけではない。魔力があれば、それが体を循環し身体強化にも繋がるため単純に強い。


 例えば、熊と狼ならば当然熊の方が強いであろう。しかし、魔力を持った狼ならば熊を一方的に狩れるほど強化されている。


 そして、魔力の有無はスキルにも影響が出る。普通の狼は魔力がないためスキルを持たないが、フォレストウルフは魔力があるためスキルを持っている。


 そのスキルとは。


 【名前】フォレストウルフ 

 【種族】魔獣

 【スキル】植物操作 思考共有 光合成

 

 思考共有は仲間に自分の思考を伝え、連携などを考えるのではなく直感的に送ることができる。先ほど私が念じただけで、行動を始めたのはそれが理由だ。脳内でイメージするだけでそれが伝わるので便利スキルである。


 光合成は日に当たると傷ついた体を回復できるもの。私は高速再生を持っているので必要ないが、ポーションなど魔物を作れないし持っていないので自動回復スキルを持っている魔獣は多い。昼間限定だが有能スキルと言える。


 そして、植物操作だが。


 これは、便利だ。


 植物を操る操作かと思っていたが、そうではなかった。


 植物を遺伝子から操作することができ、そこに魔力を注げばポーションの元になる薬草を作ることも出来るし、木に魔力を注げば木の防御力…耐久力を下げることで簡単に木を伐採することができる。


 加工もそうだ。丸太内部を長方形の硬い板、それ以外の部分を柔らかくイメージし、フォレストウルフが爪とぐように削っていけば最後に固い板だけが残る。


 丸太の強度を操作するので、丸太の強度を超えた物は作れないが、固い部分を凝縮しているので鉄には及ばないもののそれなりの耐久力を持った板が出来上がる。


 私の命令に従って次々と板が出来上がっていく。


 建築の知識がないので、精霊の力を借りて簡単な家を作る。こんな使い方をしても快く知識を貸してくれる精霊は一番の相棒だろう。


 集められた木を組み合わせていく、釘などがあればもっと綺麗に仕上がるだろうが釘はないので、部材と部材を組み合わせる工法で作業をすることを勧められた。


 日本の宮大工がやるような手法らしい。何故精霊がその知識を持っているのか疑問だが今更だろう。


 建築は進んでいく。


 丸太の加工が終わった仲間に協力してもらいながら板を組み合わせていく。時折休憩を挟みつつ作業を続け…日が落ちる手前。


 「みんな、ご苦労様! 完成したよ!」


 扉を取り付け、仲間に声をかけると、一斉に狼たちは遠吠えのように叫んだ。


 完成した家は完全木造の一階建てだ。


 広さは十畳くらいで家具はなし。


 今後必要なものを増やしていけばいいだろう。


 家が完成すること警戒組と食料調達組も返ってきた。


 「今日は宴会かなー」


 そう呟くと、狼たちは尻尾を振って吠えた。


 この生活が始まってから、食料問題は割とつらかった。


 狼たちは生肉でも平気であるが、私はそれに抵抗があった。精霊曰く、問題ないと言っているも、血の味も生臭さも前世の記憶の弊害か受け入れることが出来なかった。


 なので、食事はいつも私だけ別メニュー。


 一人焼肉だ。


 食料調達時に香草や木の実を採取し、それを精霊の知恵の元調合する。そして、意外とチートスキルである料理人と美食家のスキルを使用し、お値段の高い前世では中々行けなかった焼き肉屋に負けないレベルまで達している自身がある。


ある日、私の食べていた焼肉を与えたところ、その味に感化されたのか、私と同じものを食べたがる子が増えだした。


 そして、宴会とは私が肉を焼き皆に振舞い、みんなで好きなだけ食べる事だ。毎日食事を私が担当する訳にもいかないのでお祝いの日を指している。


 「それじゃ、準備するから手伝って」


 狼たちは木の枝を集め一か所に集めていく。


 その間に、集めた獲物を血抜きし、香草で臭みをとる。スキルと精霊の力により大幅に時間をカットできるので思った以上に時間はかからない。


 狼たちは久々の宴会でテンションが上がっているようで下ごしらえが終わり火をつけようとそこに向かうと2メートルほど木の枝が高く積み上がっていた。


 「やる気出しすぎ! いつもくらいでいいから余りは一か所に集めておいて」


 「「「オフ…」」」


 叱られて尻尾を垂らしながら狼達は木の枝を片付けていく。


 フォレストウルフの集めた木の枝はよく燃える。植物操作で水分を除き乾燥されているからだ。


 「狐火」


 枝さえあれば火は簡単に起こせる。


 妖狐へ進化したときに得たスキルの一つ【狐火】は魔力に応じて範囲と火力が調整できる。火を起こす程度ならほとんど魔力を消費せずに使える便利スキルだ。


 炎の管理を狼に任せ、以前にゴブリンから頂戴したナイフで一口サイズに肉を加工し、枝に差す。


 今日のメニューは串焼きだ。


 料理を配るまでが私の仕事。


 この日ばかりは私が皆に奉仕すると決めているので、狼たちも肉を焼き始めたら大人しく配られるのを待っている。


 「火加減よし、肉もいい感じかな」


 火の通りはレアからミディアムレア。


 もともと生でも問題なく食すのウェルダンよりはレアのがいいだろうと予想したが、正解だったようだ。


 多少、焼きが甘くても嬉しそうに食べるので表面が焼けた頃を見計らい順番に配っていく。


 年老いた狼と幼体には串を外し、食べやすく、それ以外は串に刺したまま葉っぱのお皿に置いていく。


 むしゃむしゃと音をたて肉に被りつく狼達。その中で一匹だけお座りを一向に肉を食べない狼がいた。


 「どうしたの? お肉冷めちゃうよ」


 その狼は、以前にリーダーをやっていた狼だった。


 「食べたくないの?」


 狼は首を横に振る。


 「もしかして、待ってるの?」


 「オン!」


 リーダーが代わってから元リーダーは私が離れている時に指揮を任せる副リーダーを任せてある。


 リーダーを降りた後も不貞腐れることなく、私の言う事を一番忠実にこなす程に忠誠心が高くなっていた。


 「こういうときは食べていいんだけど」


 それでも、首を横に振り頑なに食べようとしない。


 「わかった。もうすぐ全員に配り終えるから後で一緒に食べよう」


 「オン!」


 その時に冷めたお肉では可愛そうなので一旦お肉は他の狼へと回した。


 狼たちは働き、よく寝て、よく食べる。


 お腹いっぱい食べ、満足すると。ご馳走様と言わんばかりに吠え、与えられたローテーションの為に眠るもの、警戒につくものと散っていく。


 そして、ようやく私が食事できる時がきた。


 「お待たせ」


 「オン!」


 律儀に待っていてくれた元リーダーの元に肉を持っていく。直ぐに食べれる様に串から外した状態だ。


 「それじゃ、食べようか」


 「オン!」


 「いただきます」


 「オンオンオン!」


 私が食べ始めるのを確認すると、ガツガツと肉に貪りついた。


 「美味しい?」


 「ガル!」


 よかった。一心不乱に肉を胃に収めていくのを見ながら私も肉を食べていく。


 お米欲しい…。


 前世ならダイエットだとか気にしていたが、今は食べる事自体が命懸けだ。


 獲物を毎日獲れるとは限らない。そういった日には木の実や果実で飢えを乗り切らなければならない。


 しかも、大森林は多湿であるため、肉の保存も難しい。


 今の生活は食べる事が一番の贅沢なのだ。


 だからこそ、食べるものを充実させたいという思いは強くなった。


 〈それでは、畑を作ってみたらいかがですか?〉


 (作れるの?)


 〈はい、大森林を構成できるのですから土壌の栄養は問題ないと思います。また、灰などを肥料に使えば効果的に仕上げれるかと〉


 それはいい事を聞いた。


 折角家を建てたのなら村の様に住みやすくする方針もいいだろう。


 (精霊さんアドバイスよろしくね!)


 〈喜んで!〉


 「くぅ~ん?」


 精霊と会話を食事する手を止めていた。それを心配したのか元リーダーは心配そうに私の顔を覗いていた。


 「ごめん、ちょっと考えごとしてた」


 食事を再開すると、元リーダーは安心したように肉を食べ始める。


 これからの事を考えるとやることは沢山ありそうだが、一から生活の基盤を作るのは楽しそうだ。


 今日の家づくりもそうだ、仲間の力を借りれば色んな事に挑戦できる。例え、失敗してもいい、誰に怒られるわけではないから。


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