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Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
3/34

転生

 (あ、ごめんなさいね。貴方の運を下げたままで生まれた瞬間死んじゃったみたい。だけど、これは私のせいだから特別に生き返らせてあげる。では、退屈な時を飛ばして、また10年後までご機嫌よう)

 

 という訳で、転生してみたらいきなり10年後…なわけだが。


 どうしてこうなった。


 私は何故か犬の群れの中で犬の腹を枕に眠っていた。


 〈主人様、正確にはフォレストウルフなので狼です〉


 (あ、久しぶり。元気だった?)


 〈元気とか概念はありませんが、無事主人様は護ることは出来ました〉


 (ありがとうね。それよりも、この状況は?私、食べられるの?)


 〈いえ、仲間として行動しています〉


 (えぇ!? どういうこと)


 〈それを語るには始まりから離さなければなりませんがよろしいですか?〉


 (まぁ…簡潔によろしく)


 〈では…あれは主人様が生まれた時の事でした〉


 私は予定通り狐族として生まれた。


 しかし、能力を獲得するためだけに短い転生を不運によりすぐに終わらせる女神の力が残っていたため、生まれて直ぐに病気により命を落としてしまったらしい。


 だが、女神がそれを自分の責任と再度命を吹き返したはいいが、その時はすでに亡き子を森に捧げる風習に基づき捨てられた後だったらしい。


 その後、私はフォレストウルフの餌になるためその仲間の元に連れられた訳だが。命を吹き返した私は精霊により守られ生き残り、そのうちフォレストウルフの一員として生きていたらしい。


 (つまり、生みの親は別にいるが育ててくれた親はこの子たちという事なんだね)


 そういえば!


 自分の体を確認してみると、黄金のふさふさの尻尾が見える。手を頭に当てるとしっかりと耳も確認できた。


 そして…。


 (ない!やっぱり人間の耳がないー!)


 私は喜んだ。


 この世界の獣人の耳はしっかり種族の耳になっていることを。


 前の世界での獣人といえば、獣耳があるくせに人間の耳を携えている設定が数多くあった。


 私からしたら、それは邪道であり獣人なら獣耳だけあるのが獣人ではないかと思っていた。


 そして鏡がないので確認できないが、この世界の獣人は基本的には人をベースに創られているみたいだ。


 その証拠に全身が毛で覆われていないし、触って確認したところ鼻は人間の形と同じだ。


 けど、力を爪に意識すると爪の先端鋭く尖らすことが出来るので人間とは違うのがよくわかる。


 だけど、何で狐族なのに髪の色が違うんだ?


 髪は切っていないのか腰あたりまで長く伸びている。その髪を見ると月の光を浴び銀色に輝いている気がする。


 〈それは、主人様が狐族、妖狐種だからです〉


 私の考えていることを見透かすように精霊は答えてきた。


 (妖狐種?)


 〈はい。狐族は獣人の中でも魔力が高いと言われています。ですが、それは獣人の中では高いだけであり、人間に比べれば劣り魔族と比べると足元にも及びません。しかし、妖狐種は獣人の枠を超えて高い魔力を持っていると個体です。主人様は一度死んだ事が原因で進化したと思われます〉


 (へぇ…運よかったんだね)


 運悪く死んでしまったが、生き返ったし結果オーライか。


 〈いえ、妖狐種は大変希少なため主人様を捕えようとする者が今後沢山現れることが予想されます。なので運が悪い事には変わらないと思います)


 (そうなの?〉


 〈はい。獣人を奴隷にしようとした時、普通の狐族と希少な妖狐族、どちらが高く売れるでしょうか? 当然、後者であり金に糸目をつけない貴族から狙われるのは避けられないと思います。なので、基本的には妖狐種という事は隠すのがいいかと〉


 確かにそうか、高価な希少なモノはその貴族にとって権力や見栄を張るステータスになる。どのゲームも現実もそうだが、その手の話はよく聞くもんなぁ。


 (運が悪いのはわかったけど、妖狐種がどれだけ希少でどれだけの魔力を持っているかわかる?)


 広い大陸の中、妖狐種が沢山いれば狙いが分散するだろう。仮に狙われても魔力があるのならそれを使って撃退できる可能性もある。自分の事は出来るだけ把握するのが生き残る為の秘訣だ。


 〈現在確認されている妖狐種は主人様を除き0人です。前例は1人います…アイク様です〉


 アイク…あの女神か!


 〈それぞれ3柱は遥か昔この世界で実績を残した英雄として、女神アリルテウス様に認められ女神として世界を導く役割を担う事になった存在です〉


 また知らない名前が出てきたが。


 〈ちなみに、アリルテウス様は主人様を転生させたあの女神でございます〉


 あの人か!せめて自己紹介くらいして欲しいものだ。そういう私もした記憶はないが。


 (それはわかった。それで、私の魔力はどれくらいあるの?)


 どちらかというとこっちの方が重要だ。見つかっても撃退できれば問題ない。


 〈現在の魔力は魔族と同等程度か、それ以下になります。しかし、成長が進めば魔力も同様に上がっていきます〉


 さり気なくチート能力を集めている。他の転生者もこんな感じだろうか。


 <今後の方針はどうなさいますか?>


 (とりあえず、現状維持かな。まだ10歳?くらいだしせめて15歳くらいまでは力を蓄える方がいいかも)


 それに、精霊が纏めた能力も確かめたりするのに何かと時間がかかるだろうし。


 <わかりました。能力は直ぐに確認しますか?>


 (それは、追々少しずつかな。まずは生活に慣れることを重点に置くよ)


 <わかりました>


 (今後忙しくなると思うけど、これからもよろしくね!)


 <はい!! こちらこそよろしくお願いします!>


 頼られることが嬉しいのか精霊は張り切って返事をしていた。


 それもそうか、私の意識がない10年。私の体を動かし、狼と生活していたんだよね。しゃべれる相手がいるのは嬉しいはずだ。


 そう思って、当たり前のように狼を枕にして再び眠りにつく。


 狼は獣臭さとかはなく、毛先が少しくすぐったいものの気持ちよく眠れた。

 



 それから5回、こちらの世界でも冬と呼べる時期を超えた。


 精霊の話によれば、時間の流れはほぼ前世と変わらないらしい。


 一分、一時間など細かい時間はないものの、日が昇り日が落ちるを365回繰り返すと一年が過ぎ、大陸全土で大規模なお祭りを開催する日を4年に一度増やした366日の年で回っている。


 前世に限りなく近い年の進み方のお陰で私は15歳くらいになったことを実感していた。


 後に精霊から女神様はこの世界の造りは他の異世界を参考にしていると聞いたのは蛇足か。


 その5年で私はそれとなく成長した。


 3年経過したころには何故か尻尾が2本に増え、魔力が大幅に増加した。


 その間に精霊から能力の使い方を教わり精霊の補助を受けつつ使いこなせるようになった。


 そして、現在。


 「モカ! 前方に獲物発見。見つからない様に回り込み挟んで!」


 「わかりました」


 私はフォレストウルフのリーダーとしてこの森で生活していた。


 その話はまた2年前に遡る。


 尻尾が2本に増えた頃、精霊からのアドバイスとしてフォレストウルフのリーダーと決闘を申し込むことを提案された。


 フォレストウルフはリーダーを中心に群れを作る。リーダーの行動指針は絶対であり、それを拒むのなら、群れを離れるかリーダーを倒し新たなリーダーになるしかない。


 精霊の提案はフォレストウルフを従えることにより拠点を確保すると共に戦力を揃えること出来るからだと。


 精霊に言われるがまま決闘することになったのだが…。


 この子は一年くらい前にリーダーとなった若いフォレストウルフだ。私が1歳になった頃に生まれ、共に育った友達のような関係でもある。


 しかし、勝負となればお互い手加減はしない。勝負とは己の命とプライドを懸ける事がある、甘いだけのリーダーなど誰からも信頼はされないからだ。


 「いざ、勝負!」


 「オン!」


 仲間に見守られながら勝負が始まった。


 まずは、リーダーが先制とばかりに素早く駆けてくる。鍛えられた四肢は力強く地を蹴り、低い姿勢のまま喉元に噛みついてくる。


 勝負はあった。


 (思考操作!)


 そう念じると、世界の流れが変わる。


 全ての動きがスローモーションになり、フォレストウルフの動きが手に取るようにわかる。噛みつきの態勢に入る瞬間ギリギリまで動かず、地を蹴った瞬間に身をよじり最小限の動きでその攻撃を避け、すれ違いざまに左手で首根っこを掴み、押さえつけるように地面に叩きつけた。


 「私の勝ちかな?」


 地面に押さえつけらながらも逃れようと暴れるリーダーだが、押さえつける力を強くすると諦めたように大人しくなり。「くぅ~ん」と可愛らしく鳴いた。


 こうして、私はフォレストウルフのリーダーとして生活することが始まった。


 まずは、家の作成から手を付けた。


 親指と中指で輪っかを作り、指笛を鳴らすと仲間たちが一斉に駆け寄ってくる。


 尻尾を振り駆け寄ってくる姿はとても愛くるしく撫でまわしたい衝動に駆られる。


 が、リーダーとして君臨する今、昔のような態度はとれない。ぐっと堪え、仲間たちに支持を出す。


 「あなたの周辺の子は食料調達組にそっちの子たちは周辺の警戒。それで私の近くに居るのは私の護衛と手伝いをしなさい」


 「「「オン!」」」


 何年も一緒に生活しているお陰か、私の言葉を理解できるし、私も鳴き方で何を伝えたいか理解できるようになっていた。


 難点があるとすれば、見分けはつくものの、名前がないためアナタやキミなどと呼ばなければいけないことか。それでも、慣れは恐ろしく名前が必要ないくらい連携と意思疎通が出来ている。


 「では、解散!」


 命令を下すと同時に一斉に行動に移し、目の前には数匹のフォレストウルフが残った。


 「それじゃ、残った貴方たちは今から私の手伝いをしてもらうね」


 まずは…。


 家を建てるのに密集した木々が邪魔だ。まずはこれをどうにかしないといけないだろう。


 精霊の説明によると、ここは獣人の国にある大森林で面積は領地の3割ほどを占めているらしい。その中には野生の動物は勿論のこと、魔物も住んでいる。


 それとは別に、色んな種族が村を形成して暮らしているとのことだが、広すぎる迷いやすい森、そして危険な生物がうろついているので他の村を探すのは冒険に慣れていないと厳しいとのこと。


 他にも危険はある。


 人間の領土と獣人の領土はこの森を境界に分かれている。大森林自体は獣人の領土ではあるが、人間が大森林に侵入しても獣人側としてはそれを把握する術がない。


 その為、危険を冒してまで獣人を奴隷にしようと侵入してくる人間は意外と多い。


 それでも、獣人の元に辿り着き、獣人を奴隷として持ち帰る事のできる人間は少ないので危険といっても他の危険に比べると考慮にも値しないかもしれないが。


 そして、この大森林は獣人の王都【ベスティエ】の管轄であるらしい。だが、ここはベスティエにとって人間からの侵略を阻止する天然の要塞で、そこに住む者は天然の兵士でもあると勝手に決められているようだ。


 なので、ここに家を建てようが、村を作ろうが自由とのこと。


 なので、私も家を勝手に立てさせてもらう事にした。

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