解放とロッククラブの味
「これで……自由だね」
子供は勢いよく私の膝から立ち上がり、勢いよく頭を下げた。
「あ、ありがとうございます!」
顔をあげると、瞳に涙を浮かべ、初めて笑顔を見せた。
「ん、よく頑張ったね」
ぽんぽんと優しく頭を叩いてあげると、嬉しそうに頭を押さえた。笑顔を見れて私も一安心だ。
だが、まだやることは山ほどある。
「それにしてもアナタ細いわね……」
子供とは言え、その四肢は細く栄養が明らかに足りてない様にみえる。
「モカ!……は今は無理か。ちょっと椅子にかけて待っていなさい。すぐに戻る」
普段は私の傍にいるのに肝心な時に……。
「お持ち致しました」
家から出ようとした時、モカが料理をお盆に乗せ家に入ってきた。
しかもしっかりと二人分の食事を乗せて。
「貴女……酔ってたんじゃないの?」
「酔っていても、脱いでいてもミナモさまの望むことは叶えるのが私の務めです」
脱ぐのは余計だ。言動からしてまだ少し酔っているのがわかる。
モカに礼を言いトレイを受け取ると、ちらりと子供を一瞥した後、部屋を後にした。
「おかわりは沢山あるから、食べたいだけ食べなさい」
子供の前に料理をおくと、それだけで目の色が変わった。
「ほ、本当にいいのですか?」
「子供は遠慮をしないの。私も食事はまだだったからとらせてもらうけどね」
「そうだったのですね。ごめんなさい。では……食べ終わるのを待っています。あまりを頂ければ十分ですので」
私が食事をしていないのは自分の所為だと思ったようだ。
「それじゃ、二人分用意した意味ないでしょ。もう、奴隷じゃないんだからさ」
食事の状態も少し見えた。
恐らく、この子を奴隷にさせた奴は先に食事をとり、そのあまりを食べさせていたんだろう。
私達でも生活が安定するまでは食事をまともにとれない日があったのだ。これじゃ、これだけやせ細る理由も理解できる。
食べていい。
そう言っても一向に手を付けようとしない。
「食べるか食べないか、自分の意志でしっかりと決めなさい。食べないのなら私も食べないけど」
自分の意志はしっかりと言え。
奴隷から解放されたばかりで酷かもしれないが、この世界で生きていくのには必要な事。これからも自分の意志を抑え、他人に行動を任せるのならどうせ長くは生きてはいけない。生きる意志を持たない、例え子供だとしてもそこまで面倒をみる程、私は優しくはしたくない。
心を鬼にしてでも決断をさせる。優しさだけでは誰の為にもならない世界なのだから。
「そ、それじゃ!頂きます」
私の圧におされ、子供はようやく料理を口に運んだ。
「!!!」
そこから箸が……正確には木のフォークは止まらなかった。
使い慣れていないのか、フォークの持ち方も変だし、食べこぼしもあって行儀も悪いがそれでいい。
マナーなんて後で幾らでも治せる。今は命を繋ぐことだけを考えればいいのだから。
これで、安心して私も食事をとれる。なんだかんだ言って私も料理を作っている時からお腹が鳴りっぱなしだ。雑音遮断のスキルを使っていなかったらきっと周囲にバレていたはずだ。
料理を口にしようとしたとき、ふと思い出したことがあった。
(私……甲殻類アレルギーだった!)
勿論、転生前の話ではあるが。
しかし、転生でスキルを引き継いだようにアレルギーも受け継いでいたら…。
〈主人様にアレルギーはないので問題ありません!〉
よかった。問題なく食べれるようだ。
スープを口にし、団子を一口齧る。
「うわ……おいしい」
子供の前なのに思わず心の声が漏れてしまった。
完成した料理を楽しみにしていたので味見を極力控えていた。
ステラの腕は勿論のこと料理人EXのスキルは伊達ではなかった。
イメージがそのまま結果に繋がる。
口の中に広がるスープはあっさりとしているのに旨味が詰まっていて、団子を齧ればカニの風味が鼻を抜けスープ旨味とカニの旨味がぶつかり合うことなく調和している。
(カニ……最高!)
カニの本当の味を知らないが前世ではアレルギーってだけで損をしていたようだ。
改めて、転生出来たことを喜ばしく思える。
〈ロッククラブの本来の味と風味は前世のザリガニに近い味です〉
精霊の一言で時が止まった。
ざり……がに?
何故、今このタイミングでその報告を…………?
〈えっ…………その、間違って認識していたようなので報告を……〉
そっか……カニじゃないのか。
ザリガニなのか……。
その報告に私のテンションは急降下した。
〈主人様ご安心ください! 前世のタラバガニはヤドカリの仲間ですし、ザリガニはエビの仲間で、有名なロブスターも海に住むザリガニです!〉
大慌てで取り繕う精霊だが、もう遅い。
(そうか、エビの仲間なのか)
今更どうでもいい補足だった。
ザリガニかぁ……。こんなに美味しいのに……ザリガニなのか。
ザリガニが悪いわけではない。
全て、精霊が悪いのだ。
(精霊さん、短い間だったけどお世話になったありがとう)
〈いやぁぁぁぁ! ますたぁぁぁぁお許しをぉぉぉぉ〉
精霊の悲痛な叫びは子供には届かない。




