宴会と目覚め
私は宴会用の服に着替える。
(毎度思うけど、何で巫女装束なんだろう)
〈祀りごとを行う為に適しているからです〉
巫女服は精霊が用意していた。
宴会はただの規模の大きいお食事会と説明しているのだが、私の存在を知らしめる祀りごとだと精霊もひかなかった。
いつもは素直で従順な癖にたまに意固地になる。お世話になっているのでそれくらい構わないが……。
巫女装束とは名ばかりで、下は膝までしかないスカートだし、上に関しては身頃と袖が分離していて肩がむき出しになっている。
宴会がある時にはこれを着るため、今ではこれが正装となってしまった。
(こんなに露出する必要ないと思うんだけど)
〈問題ありません! かわいいです!!!〉
お前はエロ親父か!
最後に髪を一つに束ね、鈴を結び宴会衣装に着替え終わる。
それを見計らったようにモカが家に入ってきた。
「ミナモさま。宴会の準備が整いました。見張りの者も既に戻しております」
「ありがとう」
「…………いつ見ても綺麗です」
モカの瞳に恍惚の色が宿る。その表情は見るからにうっとりしている。お願いしますから、恥ずかしいので無表情を貫いてください。
広場に戻ると、料理は配られみな席についていた。席と言っても椅子や机がないため、紅葉のような形をした子供サイズの葉を御座の様に引いた簡易な席だ。
モカに連れられ、簡易な壇上に登らされる。
住民の目が集められ、乾杯の音頭をとるために軽いスピーチを求められる。
こういった事は苦手だが、みんなを纏める者として必要な事だと割り切る事にした。
「本日は、未曽有の危機を皆で乗り切れたことを嬉しく思います。その中でもモカ、ステラは勇敢に立ち向かい、皆を守り、強敵を打ち破ることに大きく貢献しました。まずは、二人に大きな拍手を!」
割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。
モカは最後まで戦えなかったことに悔しそうでもあるが、それを悟られない様に手を軽くあげる。
ステラは「よしてくれよ」と照れながらも手を振っている。
歓声が治まった頃を見計らいスピーチを再開。
「今後もいつ私らの身に危険が迫るかわかりませんが、その時に備え今は英気を養ってほしい。短い挨拶だが、料理が冷めても面白くないので私の挨拶はここまでとし、後はみなで楽しんでもらいたい。
では、みな盃を掲げて……
乾杯!!!」
精霊の知恵を借り、少ないながら果実酒を作ったので大人はそれを掲げ、お酒の飲めないもの、子供には果実ジュースを掲げる。
法律があるわけではないので大人の線引きは曖昧だが、飲みたければ飲めばいいというスタンスで宴会は始まった。
かんぱーーーい!と大合唱が巻き起こり待ってましたと、みなが食事を始める。
色んな所で称賛の声が聞こえ、ステラの方を見ると、ステラも同じことを考えていたようで目が合うとニヤリと笑った。
こう喜んで貰えるのなら腕を振るった甲斐があった。スキルの影響も大分影響しているが。
ここからの主役は住人たちだ。もちろん幹部も今は仕事を忘れ楽しんでいる。
警備も今は居ないが私が魔力感知で村周囲まで監視しているので問題ない。
それを伝えてあるので、住民たちも安心して食事を楽しんでいる。
食事の合間に住民たちが私の戦闘の話を聞きにきたり、子供たちがおとぎ話を聞きにきたりした。
酔った男達は腕相撲大会を開催し盛り上がり。女性や子供たちは私が作ったことになっている笛などを演奏して楽しんでいるようだ。
それが、楽譜のない自由な音楽は祭囃子となり宴会の華となっている。
皆が楽しんでいるその間、私は食事をしないようにしている。
色んな席に入り、住民が普段言えない悩みや困っている事を聞いて回る事を心がけていた。
無礼講ではないが、お酒が入った者もそうでないものもこの場では思っていることを話すようにし、それが浸透していた。
「ミナモ様のお陰で幸せに暮らせております」
「不満などありません!ずっとここで暮らしたいと思っております!」
「野生の狼の我らを受け入れ、名まで与えてくださりました、この恩は末代まで忘れませんよ」
不満がないようで一様に私を褒める事ばかりで面映ゆい。
「時折、川に水を汲みに行く子供が魔物に遭遇することがあるようなので、どうにかならないでしょうか?」
中には真面目に相談をしてくれる住民もいる。
〈それならば、ロッククラブの血を撒くのがいいでしょう。エリアボスの血は魔物に恐怖を与える為、弱い魔物は避け、強く知恵のある魔物もエリアボスを倒した村として警戒するでしょう〉
なるほど。
「ありがとうございます!!!」
「ううん。貴重な意見をありがとう」
対策を伝えると、嬉しそうにお礼を述べてくれた。
自主的に危機を覚え、考えてくれるだけでうれしく思う。
途中、お酒を飲んだモカが脱ぎそうになったり、ラテとアールが力自慢をしようとしたり問題はあったが宴会は楽しく進んだ。
「ん……そろそろ起きそうかな」
宴会が終わりに近づいた頃、魔力感知に反応があった。
騒がしくしたからか、子供が起きそうな気配を感じた。
「フラット、子供の様子をみてくるからこの場を頼むね」
「はい、後ほど料理を運ばせていただきます」
「うん、よろしく。後、モカが脱がない様に注意しといて」
お酒を飲まないフラットに後を託し、苦笑いしながら見送られる。
モカの酔い癖に今後釘をささなければいけないな。
自宅に戻ると、子供はちょうど起きた所だった。
半身を起こし、ぼーっとした目で辺りを観察している。
「おはよ。気分はどう?」
声をかけると、子供は体を強張らせ、布団を引き寄せ怯えた目で私を見た。
目を覚まし、初めて見た瞳は金色でとても特徴的だ。
近づくと体をびくっとさせてしまうので近づくのを諦め、とりあえず椅子に腰かけた。
さて、どうすればいいか。
精神的に傷ついた、しかも奴隷の首輪をつけた子供。前世でもこの世界でも相手をしたことはない。
間違った対応をしたのならば、一生心に傷が残るかもしれない。いや、既に傷があるからこそ迂闊な対応はできない。
〈主人様が主人様らしく接すれば大丈夫です!〉
無責任にも精霊さんはこう言ってくる。私は聖人君主ではないってば。
「あ、あの……ご、主人、さま」
精霊と話をして悩んでいると、なんと子供から話しかけてきた。もしかしたら、悩んでいる顔が怒っているように見えたのかもしれない。
「ん、なに? ちなみに私はアナタのご主人ではないからね」
「そ、ですか。 それなら…これから売られるのですか?」
「ううん、そんなことはしない。アナタはただ保護されただけだから安心しなさい」
「保護……?」
「とりあえず、そのままじゃ行けないか。今からそっちに行くけどいい?」
子供は静かに頷いた。私の年のお陰もあるのか警戒心は少し薄れたみたいだ。
しかし椅子から立ち上がると子供はそれだけで怯えた目をする。
警戒心と恐怖心は別物らしい。
出来るだけ怯えさせない様にゆっくりと、尚且つ自然体を心がけ子供の居るベッドへと腰を掛ける。
「怖い?」
「いえ……そんなこと……は」
明らかに怖がっている。その姿は誰が見てもわかるくらい縮こまっていた。
「とりあえず、ここに座りなさい」
私は膝をポンポンと叩いた。
怖がりながらも子供はベッドから抜け出し、私の膝に座る。
恐らく、命令を聞かなければひどい目にあっていたのではなかろうか。私の膝に座る子供は小刻みに体を震わせながらも素直に言う事を聞いているのがその証拠だ。
今、開放してあげるからね。精霊さんお願い!
〈畏まりました。主人様が魔力感知で捉えていてくださったお陰で解析は済んでおります! ただし、処理に時間がかかるので高速思考のスキルをお願いします〉
了解。
高速思考を使用し、精霊の指示を受ける。
首輪には文字が彫られており、一部読み取れないが、奴隷の動きに制限を設ける魔術が施されているのだと知識のない私にも理解できた。
それを解除するのには鍵が必要らしい。
鍵とは魔力の込められた契約書、または誓約書の事で大体が首輪とセットになっている。
その効果はピンキリだ。
高価な首輪は術式が細かく、その分命令の幅が広がり、仮に首輪をつけたものに死ねと命じればそれを実行するほどだ。そこまで術式が細かくなると鍵がないと解除に時間が相当かかるみたいだ。
逆に安価な首輪ほど術式は単純で解除もそこまで難しくない。それでもその道に精通していればの話だが。
幸いにもこの首輪は粗末な品だった。そのお陰で鍵がなくても少し時間をかければ解除はできるようだ。
大方、最低限の命令を聞かせれればいいと思ったのだろう。本格的な首輪は奴隷ともども無事に帰れたのならつければ無駄な出費にはならないと考えたのだろう。
捕らぬ狸の皮算用。最初から利益を考えていない人間らしい思考だ。
術式は私からしたら暗号の塊だった。
首輪を解除するには首輪を作った者の設定した解除パスワードを読み解くことが必要なようだ。
精霊に言われた通り、魔力を流し、浮かび上がった暗号を並び替える。
〈主人様、右から3番目と8番目の文字を反転してください。違います、上下ではなく裏と表です〉
精霊様がいなかったら解除は無理だ。専門家が必要な理由がよくわかった。細かい指示を受け文字を操作すること5分ほどたった時、
パキッ!
乾いた音と共に首輪が床へと転がった。




