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Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
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プロローグ

 あれ、ここは…。


 気付いたら立っていたこの場所に覚えはない。それについさっきまで——…。


 「うっ!」


 さっきのでき事を思い出そうとした瞬間、脳の血管を焼け切るかと思う程の痛みと熱が通り過ぎた。


 胃の中から込み上げるものをどうにか抑え、周りを見渡すもやはり覚えがない。


 「きれいなんだけどねー…」


 雲の中に浮かぶ神殿と言えばいいか。


 沈みかけた夕焼けがオレンジ色に雲を染め、反対からは大きな月が闇を連れ浮かび始めている。


 「待っていたわ!」


 その人は本当に私を待っていたようで、神殿の扉が勢いよく開くと、目元まで覆いかぶさるほど深いフードのついたローブで口と鼻だけ露出した…恐らく女がずかずかと歩いてくる。悔しいけど、その見えるパーツだけでも美形だとわかる。


 普通、こういった神殿て私が入っていくものじゃないのかな…まぁ、手間が省けるから助かるけど。


 …それにしても胡散臭い。


 女は私の前まで来ると、にやりと笑う。


 「やっと来たわね。ちょっと死ぬのが遅かったみたいじゃない」


 「あ、やっぱり死んだんですね」


 うすうすと気づいていた。何故死んだかと考えると途端に脳を焼こうと痛みが走るからわからないけど、生まれてからの記憶とその直前に果てしない絶望は残っている。


 「あら、驚かないのね」


 「まぁ、ね。それで、これって転生する流れですか?」


 「まぁ、そうだけど…。すんなりと受け入れるのね」


 「眉唾ものの話だろうけど、一応は信じてない訳ではなかったからね」


 つまらないの。と女は肩を竦めるが、直ぐに笑みを浮かべる。


 「とりあえず、付いてきなさい」


 私の返事を聞く前に女は神殿へと背を向け歩いていく。


 これは、付いていくべきなのか…。


 そう考えるも、他に選択肢はないし、付いて行かなかったら面倒なことになるかもしれないし、転生の輪から外れてしまうことになるかもしれない。


 私の足は自然と女の向かった神殿へと向かった。


 屋根という概念がないのか女は空の見えた場所で大理石を加工したようなベンチのような椅子に腰を掛けた。


 「さぁ、こっちよ」


 同じく大理石で出来たような机に頬杖をつきながら私を手招きする。


 「で、これからどうすればいいの?」


 前の命に未練がない訳ではないが、あの状態で無傷で生還できるほど楽観もしていない。


 黒き塊が猛スピードで…。


 目を伏せ頭痛に襲われた頭を振り、再び女へと視線を戻す。


 「本来なら一から説明するところなんだけど、事情はわかっているみたいだから途中からでいいわよね?」


 「いいよ。それで、次は鉱物?それとも植物から始めればいいの?」


 そう言った時、一瞬固まったように口を開いたがすぐに女は可笑しそうに口の端をつり上げた。


 「そう、貴女の世界ではそういう宗教でもあるのね…。その発想はなかったわ」


 今の女の笑い方は可笑しいではなく嬉しいだったのかもしれない。表情が読み取りずらいので何とも言えないが。


 「まぁ、次は人間の予定だったわ。だけど、気が変わりました。……そうね。まずはスライムからやってみましょうか」


 その言葉を聞いたとき、思考が止まった。


 「す、すらいむ!?」


 「えぇ、大丈夫よ。思考速度を下げて、ひたすら運を悪くして一瞬で終わらせればまた此処に戻ってこれるでしょうから。そしてその後にー…」


 ライトノベルで呼んだことのある名前の生物や聞いたことのない名前をぶつぶつと呟く女は不気味で、呪文を唱えているように聞こえる。


 「あぁ…素晴らしい。やはり貴女を選んで正解だったわ! それじゃ、時間も惜しいし転生の旅に行ってきなさい」


 「ちょっと、少しは説明をー…」


 問答無用だった。意識を刈り取られる様にの前が真っ暗になっていく。


 固い地面に落ちた…ような気がする。


 何せ感覚がないからだ。


 何処だここ…。


 と呟こうとしたが声がでない。というか体が動かない。


 這いずるようにどうにか体を動かすが、思うように体が動かない。


 一体なにがー…。


 その瞬間体が軽くなり、私の体が光に包まれたように温かく、眩しく瞳を照らした。


 「おかえりなさい。早かったわね」


 「え、何があったの?」


 「何って、スライムに転生して死んで戻ってきただけよ?」


 何を可笑しなことを言っているのと咎めにも似た口調で言われた。


 「一体何がしたいの?」


 私からしたら変な生物に転生させられ、一瞬で命を終わらせられたようなものだ。


 理不尽な死に怒りが込み上げる。


 「まぁ、そんな怖い顔をしないで自分の能力を見て見なさい」


 「はぁ?」


 「頭の片隅にステータスを念じれば見れるわ」


 舌打ちしそうになるのを押さえつつ、言われた通りステータスと念じる。



 【名前】 ??? 種族【元スライム】

 【年齢】 没2歳 

 【称号】 転生する者

 【能力】 家事 思考操作 痛覚麻痺 再生


 「何…これ」


 ステータスをイメージするとこんな感じのウィンドウが現れた。


 「うんうん。上手くいったみたいね。そんな感じで色々と能力を集めてきなさい」


 「何の目的があって?」


 「それは最後の転生前にまとめて話してあげるわ。それでは、よい転生を」


 そう言われると同時か、またも私は暗闇へと意識が奪われていった。


 凄まじい勢いで昼夜が入れ替わる。というよりも暗転と点灯が繰り返されているようだ。


 〈熱耐性を獲得しました〉


 暗転。


 〈麻痺耐性を獲得しました〉


 暗転。


 〈――獲得しました、しました、した……〉


 エンドレス。


 〈麻痺耐性、毒耐性、眠耐性、熱耐性、凍耐性、雷耐性を統合及び女神の祝福により状態異常無効を獲得。同時に痛覚麻痺及び再生が痛覚無効、高速再生へとアップグレードしました。また、女神より精霊が寄贈され、精霊を取得、さらに女神の祝福により英知の精霊へとアップグレードしました。これより、世界の言葉は英知にの精霊により纏めますがよろしいですか?〉


 YES

 NO

 (よくわからないからYESでいいか)


 〈転生が終わるまでスキル報告を中断し、上位能力のアップグレードの権限を頂きたいのですがよろしいですか?〉


 YES

 NO


 (YES…だけど。このやりとり面倒だからダメな時はいうから自動処理してくれる?もちろんいい方向で)


 〈了解しました。 重大な報告です。ご主人様の依頼により英知の精霊の権限が一部開放されました。能力処理に移ります〉


 頭に流れるアナウンスのようなものが静かになり、再び静寂と暗転と点灯が繰り返され始めた。


 どれくらいの速さで時間が過ぎているのだろう。動画の早送りと言えばいいのか、それとも処理の追い付かないコマ送りと言えばいいのか…一瞬景色が映っては消え、また新しい景色が映ったと思えば一瞬で消える。


 エンドレス。


 女が言った転生の旅…恐らくだが果てしない回数の生と死を繰り返しているんだろう。


 そして、終わりは突然訪れる。


 光が全身を包み、消えると私は戻ってきていた。


 「長かったわね。どう、能力の方は?」


 「体感としてはそこまでだった。どれくらいたったの?」


 「時間としては一瞬よ。私らからしたらね」


 「ふぅーん」


 「それで、能力は?」


 「あぁ…えぇ!?」


 ステータスを確認すると、能力の覧がとんでもないことになっていた。


 死んだことが原因か、耐性スキルと回避スキルが山のように並んでいる。その他にも用途がわからないスキル名があってチンプンカンプンだ。


 「あら、ちょっと張り切りすぎたかも。まぁ、そのうちに精霊が上手く纏めてくれるからその報告を待てばいいわ」


 「うん…わかった」


 「さて、本当に時間が惜しいし本題入るとしましょうか。貴女がこれから転生する世界について」


 「…では、私が他の二人よりも一つの国を強くしろと?」


 「えぇ、物分かりが良くて助かるわ」


 女はこの世界の女神の一人らしい。


 この世界は私が住んでいた日本がある世界とは別の世界で、魔法やモンスターなどが存在する一方で化学の進歩が進んでいないという。


 遥か昔、地球同様にこの世界はいくつかの大陸にわかれ、それぞれの暮らしをしていた。


しかし、いくつもの大災害が各地で起き、あらゆる生き物が絶滅の道を歩んでいた。


 そこで、女神は考えた。


 分かれた大陸を管理するよりも、一つの大陸を管理する方が効率よく世界を回せるのではないかと。


 女神は新たに3柱の女神を呼び、大陸を一つにまとめ、それぞれに権限を与え、それそれが人間、魔族、獣人を新たな女神が管理することになった。


 険しい山や雪が降り積もる大陸北部には魔族。そこから遥か南西に穏やかな気候が特徴の所に人間。そかから遥か東に一部大森林を抱えた所に獣人が分けられた。


 そこに新たなシステムが女神により与えられ今の大陸は互いに牽制するように生活をしている。


 そのシステムとは。


 まるでじゃんけんのような3竦みである。


 魔族は人間に強く、獣人に弱い。獣人は魔族に強く、人間に弱いとそれぞれの苦手な相手と対等に渡り合えるようにするシステムだ。


 しかし、それはあくまでステータスに加わる力であるので、その先は才能と努力次第というわけだが。


 仮に、一般人が獣人の王である獣王に戦いを挑もうが人間が蹂躙されて終わりであろう。


 力が同等であた場合に人間が少し優位にたてるくらいのシステムである為過信はできない。


 では、何故そのシステムが生まれたのか。


 それはそれぞれの種族の能力に差があったからだ。


 魔族は魔法に優れ、獣人は身体能力に優れ、人間はどちらも平均的に優れてはいる。


 特徴のない人間が一見この中では不利に見えるが他の種族に比べ知恵が高い。


 独自の魔法で魔族の魔法を防ぐこともできれば、身体強化で獣人と同等まで身体能力をあげることもできる。実質、何も特徴がなさそうな人間が今の大陸では一番安定した生活、軍事力を持っているのは人間と言えるのかもしれない。


 それが、システムである。

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