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人類が蚊を叩き続けた結果

作者: そらからり

一昨日、蚊に刺されたところが赤くなってとても痒いのでその勢いで書いた


コメディになってるのかな……

 21XX年。これは有り得たかもしれない未来。もしかしたら有り得るのかもしれない未来。


【人 類 は 蚊 を 叩 き す ぎ た】





 それは、ある大学から寄せられた一通の電子メールから始まった。



『前略……なんてのは僕らの間ならいらないよね? 本題にさっさと入らせてもらうよ。

 僕が以前から危惧していた、あの種の絶滅予想期間なのだが……残り数年程だ。まだ去年の卵が孵化していないから正確な数は予想できていないが、僕の見立てでは5年が限界と見ている。

 悪いことは言わない。早く国民に呼びかけるなり、代わりとなる種を作り出すなり対策を練っておいた方がいい。早くしないと……取り返しのつかないことになる。


 PS:先月赤ちゃんが産まれました! 名前はルーシー。敬愛なる君の名から少し取らせてもらったよ……本来なら彼女と結婚するはずだった君からね。それでも僕と友人関係を結んでくれている君には感謝してもしきれないよ。そう、あれは雪の降る――』



 これ以上はメールが文字化けして読めなかった。受取人があえてウイルスまみれのPCで電子メールを開いたことが原因かもしれないが、受取人としてはそれでも問題なかった。受取人はその電子メールを読めるところまで読んだ後、ウイルスまみれのPCを使って差出人に対して適当な文面で返事を返した。

 曰く、これ以上は自分の権限では判断できないから上司に相談してみますとか、

 曰く、その案件を実行するには数年かかるとか。

 曰く、そもそも妊娠していたことすら知らなかったとか……である。


 そして、受取人が差出人に対して返事を返した後……再び差出人から電子メールを送られてくるのに2年かかった。



『前略……なんてものはいらない! もうそんな時間はないんだ! ヤバいぞ、もうあの種の絶滅は目に見えている。君だって気づいているだろ? 

 生態系はとっくに崩れているんだぜ!

 トンボやスパイダー……カエルも、トリもみぃんな影響を受けちまってる。君だって知ってると思うが、生態系のピラミッドは下が崩れると上も崩れる。どこかしらが破綻して、そのヒビが全体に行き渡っちまうんだ。今はまだ大事にはなっていない。むしろ世の中では良いことだとかほざいてるファックなやつもいるが、そのうち人間にだって影響が起きてくるぞ。

 だから早く! 早く対策を! 手遅れにならないうちに……


 PS:一昨年からPCの調子が悪いんだけど、何か知ってる? 君にメールを送ったあたりなんだけど、ねえ!? 連絡先あらかた消えちゃったからメールするの2年ぶりになっちゃったんだよ!?』



 これを見て受取人はようやく国中から、そして世界中から送られてくる気象情報や動物の生態情報を確認し始めた。ちなみにこの電子メールはすぐさま削除した後、返信はしなかった。しかもその後、受取人のメールアドレスをアドレス帳から消し去った。

 受取人も最近になって気づき始めていた。なんか、街中で動物見ないな、と。サカナの値段が高騰しているな、と。

 トリの羽ばたきは弱々しく、今にも地に落ちそうだ。まるで栄養状態が足りていない欠食児童のように、痩せている。……いや、トリは本来痩せているものと聞く。羽ばたくために体重を極限にまで落としているのだとか。しかし、それにしたって骨ばったカラスやスズメを始めとしたトリ達は今にも死にそうだ。

 何を食べたらそうなるのか……いや、何も食べてないからこうなったのか……。


「確かに問題かもしれないな」


 そう、受取人は判断し、すぐさま国家が秘密裏にしている研究所の1つを訪れた。


「あらマイク。どうしたのかしら?」


 訪れた受取人――マイクを笑顔で迎え入れたのは研究所の所長でもありマイクの元カノでもあるレシリア。ちなみに別れた原因はマイクがレシリアの前の彼女を引きずりすぎて夜の営みの最中にマイクの息子が何も反応を示さなかったからである。


 そうした互いに苦い思い出を抱えながらもマイクにとって動物の研究に対しての第一人者といえばレシリアしかいなかったため、その能力を求め嫌々ながらも訪れることとなったのだ。


「やあレシリア……相変わらず綺麗だ」

「あら? ならどうして私を抱けなかったのかしら」


 出会いがしらの社交辞令の意味を込めた半ば本心の誉め言葉に対してもレシリアは眉一つ動かさず、むしろより笑顔の冷酷さを深めた。レシリアを良く知らない者がその笑顔を見れば惚れているのかと勘違いすらしそうな佳麗なものであったが、レシリアを良く知るマイクからすればそれはそれは恐ろしいものであった。

 本名レシリア・フォーコット。20を残すこと後2年にしてようやくできた彼氏にあのような仕打ちをされたのだ。プライドはズタズタに引き裂かれていた。むしろこうして話を聞こうと顔を出したことに自分で自分を褒めてやりたいくらいである。


「そ、それは……その……」


 マイクはレシリアの返しに何を答えることもできずに、言葉尻を小さくしていくが、やがて本来の目的を思い出す。


「レシリア! 僕を見たくはないかもしれないが、どうか話を聞いてほしい! 国の……いやそれどころか世界の一大事なんだ!」

「マイク……何が……いえ、分かったわ。まずはお茶を出させましょう」


 マイクの凛とした顔を見て、そういえばこの表情に惚れたんだったと思い出しながらレシリアはマイクを椅子に座らせる。同時にマイクが国家を支える重要な立ち位置にいることも思い出し、その将来安泰なところにも惚れたのだったと思い出した。レシリアは再びあのマイクにぞっこんであった時の気持ちを思い出しつつあった。


 秘書にこの研究所にある最高級のお茶とお菓子を出しながらレシリアはマイクの話を聞く。


「カが世界からいなくなりそうなんだ! その影響でカを餌とする生き物も、そしてその生き物を餌とする生き物も減っていっている。このままでは間違いなく世界は終わる!」


 と、マイクにこの状況を伝えた差出人の電子メールの内容そのままをレシリアに伝えた。

 勿論その後はマイクが己のルートから得た情報も伝える。何年前からカが減っていっているのか、現在何匹現存しているのか、何年後に絶滅するのか、そして何が原因であるのか。


「カ……モスキートね。絶滅しそうな原因は……」

「生き物が絶滅する原因はいつだって俺達人間だ。食料や皮、そして居場所を追い出してしまったばっかりにな」

「そして今回は、私達が叩きすぎてしまったことが原因なのね」

「ああ。詳しくは叩き殺しただけではなく、殺虫剤や虫よけスプレーの類なんかもあるのだが、それでも人間がカを排除したことが原因なんだ」


 カについての最大の特徴と言えば、血を吸う。この一点だろう。

 しかしその特徴とは裏腹に、抱いているイメージと言えばカに刺されたら痒くなるということだろう。刺されたら痒い。だから人はカを見たら、体にしがみついていようものならすぐさま叩き殺すのだ。

 どこにでも生息し、どんな小さな隙間をも掻い潜って人の血を吸うカはその小さな体躯に見合わない程の痒みを、害を人間に与える。

 絶滅に追い込まれるほど執拗に殺されてもそこに疑問の余地はない。害があって殺しやすい。ならば殺すしかないのだ。同族殺しをもする暴力的な本質を持つ人間であるなら尚更だ。





 マイク監修、レシリア指揮の下で早速実験は開始された。

 実験内容はカの遺伝子を操作することで全く新しいカを生み出そうというものであった。


「マイク、出来たわ! 血を吸うことなく、地面やゴミ捨て場に落ちている食べ物を摂取することで生きることのできる固体よ!」

「でかしたレシリア! 早速放出しよう!」


 血を吸うことで叩かれるなら血を吸わない固体を造ればいい。

 画期的なアイディアであり、これなら間違いないと思われていた。誰もが上手くいくと信じて疑わなかった。


 しかし、


「駄目よマイク! 各地に放出した新種のカが尽く死滅しているみたい!」

「くそ……なぜだ……」

「どうやらハエとの共生に失敗したみたいよ!」


 当然ながらカとは血を吸う生き物であり、周囲の生ごみを漁って餌としているのはハエである。血を吸わないならカとは言えずハエと言えなくもない。

 そしてこれまでそうした生ごみを漁っていたハエは新たに台頭した新種のカというライバルを許さず全て攻撃していった。

 自分の狩場に他の生き物が来たら許せないのは当然であった。

 そして新種の『生ごみを漁るカ』は失敗となった。


「途中からカって何なんだろうって思ってたんだよな……」





「マイク出来たわ! 血を吸っても痒みの原因物質であるヒスタミンを生成しない固体よ!」

「でかしたレシリア! 早速放出しよう!」


 カがなぜ血を吸ってはいけないのか。それは血を吸うことで人間が痒みを感じるからである。血を吸われて血が減ることよりも痒いから血を吸われることを忌避する者は多いのではないだろうか。

カのメスは血を吸う時に麻酔代わりにヒスタミンという物質を注入する。そのヒスタミンが細かい経緯は省くが、炎症を起こさせアレルギー反応を起こすのである。ちなみにカのオスは血を吸わず、当然ながら人間に痒みを与えない。彼らは無駄に殺されるだけである。

 画期的なアイディアであり、これなら間違いないと思われていた。誰もが上手くいくと信じて疑わなかった。


 しかし、


「駄目よマイク! 各地に放出した新種のカが尽く死滅しているみたい!」

「くそ……なぜだ……」

「どうやらカは病原菌を媒介するから衛生的な問題から血を吸わせたくないみたいで皆叩き殺してるみたいなの!」


 カの恐ろしいところは伝染病を媒介するという点である。感染者の血を吸い、さらに別の場所で健康な者の血を吸うことで健康な者に伝染病を移していく。その被害者数は数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどであり、人間よりも人間を殺していると言われている。殺した数だけは馬鹿にできない。伝染病の感染を減らすために積極的にカを殺していかなければならないのである。


「そうだよな……病気って怖いもんな……」





「マイク出来たわ! 体内で完全に吸った血を消毒して新たに血を吸う人間には一切病気を移さない固体よ!」

「でかしたレシリア! 早速放出しよう!」


 伝染病は感染者の血を吸い、それを通してカの体内に伝染病のウイルスが入れられる。そのためカの口吻に疑似的なフィルターを付けることでウイルスをシャットアウト。さらにカの体液の一部の殺菌作用を高めることで万が一入り込んだウイルスを殺しきる。

 品種改良はそれだけではない。カは生き物の呼吸に含まれる二酸化炭素に反応して集まる性質を持つ。そのためマイクとレシリアは二酸化炭素に含まれる微量なウイルスにも反応し、本能的に感染者から血を吸わないように改良した。

 画期的なアイディアであり、これなら間違いないと思われていた。誰もが上手くいくと信じて疑わなかった。


 しかし、


「駄目よマイク! 各地に放出した新種のカが尽く死滅しているみたい!」

「くそ……なぜだ……」

「どうやら夜中寝ているとカが近寄った時に聞こえる羽音が五月蠅くて叩いてしまうみたいなの!」


 カは先述の通り、生き物の呼吸に含まれる二酸化炭素に反応して集まる性質がある。そのため就寝時の寝息に反応して集まるのだが、体は布団に包まれており、一番露出しているのが顔なので、顔の傍を飛ぶことになる。カの羽音はおよそ400~900Hzであり、他の小さな虫と比べても大きい周波数である。寝ているところを起こされるのだ。無意識に叩き潰しても誰も文句は言わないだろう。


「そういえば俺も昨夜叩いてしまったかも……」





「マイク出来たわ! 羽を調節して人間には羽音が聞こえないようになった固体よ!」


 羽音が五月蠅ないならば羽音を小さくしてしまえばいい。しかしこれは言うほど簡単ではない。カは一秒間に約800回以上も羽ばたく。そうしていないと飛べないのである。どうすればこの回数を維持したままカは空を飛べるのか。そのために何をすればいいか。マイクとレシリアは悩んだ。そうして出来た個体の羽は通常のカのそれと違っていた。形状を変えることで出される周波数を変え、人間には聞こえづらいものとなったのである。

 画期的なアイディアであり、これなら間違いないと思われていた。誰もが上手くいくと信じて疑わなかった。


 しかし、


「駄目よマイク! 各地に放出した新種のカが尽く死滅しているみたい!」

「くそ……なぜだ……」

「どうやらあの見た目がもう駄目みたい。足は長いし見た目は気持ち悪いし色は黒くて汚いしで」


 ここまで来ればただの嫌がらせであった。見た目の気持ち悪さなどカは知った事ではないし、そんなのは人それぞれの感じ方次第である。そもそも生き物のフォルムというのは理由あってのことでむやみやたらに変えることはできない。まあ今までカの習性やら何やらを散々変えてきたマイクとレシリアに言える義理ではないのだが。人間に害はないはずなのに見た目というハンディキャップを得たカは名前を言ってはいけないGと同列の扱いになっていた。





「マイク出来たわ! 大胆にも色を青くすることで爽やかな印象を与えられる固体よ!」

「でかしたレシリア! 早速放出しよう!」


 ここまで来たらやけくそであった。遺伝子を弄りに弄りぬいて体色を青に、しかも光沢を塗装し、フォルムをやや機械的にすることで子供たちに人気を出させる見た目に仕上げていた。ちなみにマイクの一番のアピールポイントは関節部がボルトのようになっていることで、レシリアの一番のアピールポイントは良く嗅いでみると良い匂いがすることである。豊かな森を思わせるハーブの香りである。

 ここまでやったのだからもう何も文句を言わされる筋合いはないだろう。

 先日は動物愛護団体ならぬカ愛護団体からクレームが来たが、それも一蹴した。


「マイク、カ愛護団体からそんなにカを虐めないで!ってメールが来ているのだけど」

「ハッ! そんなの鼻で笑ってティッシュにでも包んでゴミ箱に投げ捨てておけ! こっちはカも人間も世界も救おうとしているんだ。カだけ見ている奴らなんてカフェに長いするオバサンよりも質が悪い!」


 こうして様々な団体からのクレームや圧力をものともせずに、世界を救いたいという一心でマイクとレシリアはカの品種改良を進めていった。


 しかし、


「駄目よマイク! 各地に放出した新種のカも、これまでのカも全て絶滅したわ! もう私達に出来ることは何一つない!」

「くそ……なぜだ……」

「どうやら気づいたら反射的に叩き潰していたようなの!」


 約1億7000年前にカの化石は発見されている。そして人類とは言わず最初の霊長類がこの地球上に存在したのが約1億~7000年前。つまり人類は1億年間もカを叩き続けてきたのだ。カの遺伝子をこれまで操作してきたマイクとレシリアであったが、人間の遺伝子にカは叩き潰すものだと書かれていたことに気づいた。

 カの幼虫であるボウフラは水を浄化する性質を持つ。また、花粉を運ぶ性質も持っている。そうした世界にとっても有益である面を持ち合わせるカが絶滅した際に何が起き得るのか、カを主食としていた生き物たちはこれから何を食べて生きていくのか。マイクとレシリアには計り知れず、未来の地球に何が待ち受けているのか考えたくなかった。


「やっぱり決め手は第一印象だったのか……」





 そして数年が経った。


 一時はカの絶滅により滅ぶかと思われた地球。しかし、カが絶滅したことで他の小さな虫たちが台頭し、カの役割は他の虫や生き物に引き継がれていた。思いもよらない好転機にマイクとレシリアは言葉を失ったほどだ。


 しかし世界の誰もがマイクとレシリアが今となっては地球のために一大プロジェクトを立ち上げていたことを知っている。


 すぐさま記者会見が行われ、マイクとレシリアには多大なる感謝と花束が贈られた。たとえ失敗していたとしても人間は自分たちのために動いてくれていた者には優しかったのだ。カはすぐに叩き潰していたくせに。

 マイクとレシリアは研究内容と結果を一から十まで会見にて話し、その重要さと苦労を皆に語って聞かせた。誰もが涙を流さずにはいられなかった。


 この研究の中心であった2人は同月同日に籍を入れている。記者は一言ずつもらっているため、その言葉を以て締めたいと思う。


『カの交尾を見ていたらムラムラしてしまってね……いつの間にか合体していたよ』

『彼ったらモスキートよりも吸うのが上手いのよ』


まあ私は見かけ次第叩き潰すけどね! オスメス関係なし! だってオスだってメスの蚊の卵を産ませる原因になるし!

蚊の多い季節は水を張ったバケツを玄関先に置いて、数日経ったら地面にひっくり返すといいらしいですよ。水に植えつけられた蚊の卵がみんな死滅するから。置きすぎると全部生まれて蚊の大量発生になるから気を付けて! そうしたら悲惨だよ!

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