入学(2)
「場所はこの訓練施設。相手を戦闘不能に陥らせたら勝ちということでどうでしょうか?」
「僕は別に構わないですよ」
どうやら本当にやるらしい。
生徒会副会長をやっていることもあって、多分崇宮さんは結構な実力者であることは間違いないだろう。
実戦で対人戦を行った経験は無いけど、訓練ではみんなと何度も手合わせしているし、特に問題は無いはずだ。
相手がどんな敵であろうとも勝つ…それは戦場においての最低限の自分へ課せたルールだ。
戦場での勝利とは生き残るということ。
勝者は生き残り、敗者は死す。
生き残りたければ勝つしかない。
もちろん戦場と訓練では全く違うわけだけど。
まあそのぐらいの気持ちでこの勝負に挑むってこと。
「入学初日からちゃんと動けるようにしてやってくれよー」
「それは俊太郎さん次第ですよ」
どうやらこの2人は既に僕が負けると確信しているらしい。
崇宮さんはまだ分かるけど、父さんまで…
彼女の何が父さんにはあそこまで言わせるんだろうか?
「では早速始めたいと思うのですが」
「大丈夫です」
「では合図を任せても宜しいですか?」
「任せておけ」
言うと、父さんは大きく息を吸い…
「始めっ!」
勝負の始まりの合図。
敵との距離は約5mほど。
見渡しは非常に良く、僕にとってはあまりいい環境とは言えない。
5mの間合いなんて覚醒者の身体能力を持ってすればないようなものだし、僕の力は広範囲を一気に攻撃するほど派手なものでもない。
相手の能力はまだ分からないし、ここは相手の動きを見ることにした。
相手の周囲からどす黒いオーラが漂い始める。
闇の塊…としか表現し難いそれを体に纏わせ、ゆっくりと腰を落とす。
どうやらあれが相手の能力のようだけど、その闇がどのような効果を持っているかは、食らってみないと分からない。
厳重に警戒し、自分の体に身体強化を掛けていく。
身体強化。
それが僕の力で、効果は名前の通り、身体能力を強化する。
覚醒者はそれだけで人間の身体能力を軽く凌駕するため、覚醒したての女子高生が、ゴリゴリの軍人に力で勝つことだってある。
そんなとんでもない身体能力を更に底上げするのが僕の能力だ。
しかし、どんなに身体能力が高くても、素人だと無駄な動きがだいぶ付いてくる。
そのためこの力を使いこなすには、ちゃんとした訓練を積み、無駄な動きを落としていくことが重要だ。
相手が手をかざすと、その動きに連動して闇がこちらへと向かって飛んできた。
足に力を込める。
その闇を避けるようにして、約5mほどの距離を一気に詰めた。
一気に腰を沈めて相手の懐へと入り込む。
しかし…
どんなに懐へ潜り込もうとしても、潜り込めない。
どんなに踏み込んでも一定の距離まで行くと、必ず引き離されてしまう。
「ぐっ…」
必死に相手との間合いを詰めていたら、いきなり相手の裏拳が顔面目掛けて飛んできた。
咄嗟に腕で防いだものの、威力はとても大きく、僅かに後方へと吹き飛ばされた。
予備動作なしであのスピードに威力…
反応が遅れたとはいえ、防いだ左腕には激痛が走っていた。
それにこの身のこなし。
技術においては、僕が完全に劣っている。
それに相手はまだ能力らしい能力は見せてこない。
僕だって身体強化だけじゃないけど、あれは奥の手だ。
それを使わないといけないようなギリギリの戦闘はしたくないし、出来れば使わずに勝ちたい。
常に体中を巡っていた力を膝へと集中させる。
一気に溜まった力は凄まじい威力で爆発し、一瞬で相手の目の前へと突っ込んだ。
流石に相手もこれには反応が遅れ、咄嗟に両腕で体を庇った。
しかし、足を握った手はそのままびくともせずに、僕は中に釣らされている形で身動きが取れない。
視界が一気に歪む。
どうやら結構な力で振り回されているようだ。
そのまま地面に頭から叩きつけられた。
それを今度は腕へと力を集中させ、受け止めた。
地面は酷く凹み、腕にはビリビリと衝撃が伝わってくる。
相手が次の動作に移る前に必死に拘束を振り払って間合いをとる。
「ブルハ・ドライブ」
相手から放たれた闇がこちらへ突っ込んでくる。
濃く濃縮された闇は、触れてしまうだけで消えてしまいそうなほど、不気味な力を感じる。
この闇だけは喰らってはいけない。
しかし、この部屋の横幅をほぼ満たすような闇がこちらへ向かってきている以上、躱すことは不可能。
つまり、受け切るしかない。
出来れば使いたくなかったがやるしかない。
この闇を防ぎ切るイメージを思い浮かばせる。
中途半端やいい加減なものじゃなく、完璧だと断言出来るほどに。
この状況だと、盾か。
自分が知っている中で1番の盾。
ありとあらゆる邪悪、厄災を払うと言われている盾、アイギス。
闇は消え去り、豪快に抉られた地面だけが残った。
まさかこんなに上手くいくとは。
しかし、これからどうするか…
相手はまだまだ余裕そうだが、こっちはそうもいかない。
多分、この戦闘に勝利するのは厳しい。
それでも、こんなにもあっさり負けてやるのは気に食わない。
ここは最後の最後まで足掻かせてもらう。
「ハァッ!」
足に力を込めて地面を蹴る。
相手の目の前で急停止して、嵐のような攻撃をひたすら躱す。
そして、この相手を確実に倒せる武器をイメージ。
一撃でも喰らったら敗北。
避け続けてもいつかは敗北。
勝つには攻めるしかない。
その両刃の片手剣は、松明30本ほどの光を宿し、闇を打ち消す。
あの騎士王、アーサ王の聖剣。
エクスカリバー。
片手に現れたそれをしっかりと握りしめる。
これを使えばあの闇を打ち消すことが出来る。
「なるほど…」
相手が後ろへ飛び、攻撃が止んだ。
この戦闘で相手が後退するのはこれが初めてだ。
それなりには警戒されたということだろうか。
「ブルハ・テンペスト!」
凝縮された闇は一気に解き放たれ、暴風となって襲い掛かってくる。
先の攻撃よりも、強く激しい。
僕は、エクスカリバーを握る腕に力を込める。
限界まで闇を引き付け、一気に振りかざした。
すると、闇の暴風は跡形もなく霧散した。
相手との距離は10m程度。
踏み出せば一秒も掛からない距離。
僕は、相手の懐めがけて踏み出し、エクスカリバーの切っ先を上段へと構えた。
第1回では、1人や2人に見てもらえたらなという気持ちで投稿したのですが、予想以上に見てもらえていて嬉しかったです。
もちろん、内容を面白くして次回も見てもらわないといけないのでもっと頑張ります。
まだまだ自分でも納得いくものが掛けていたいので努力します。
ダメな所ばかりだと思うので、どんどんコメント下さい!その方がモチベーションも上がって助かります