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4.冒険の理由

女性が戦う場に出るのは、男性とは異なる重大な理由があるといいます。

冒険も、しかり。


 六年前。

「鎧える大地」でルベがヴァニタスを拾った。彼女がヴァニタスを「弟」として育ててくれた。

 彼女は南限都市屈指の妓楼「珠華楼(しゅかろう)」でも一番の高級娼婦だ。

 だからその彼女の希望はほぼ全て叶えられる。彼女が「弟」を部屋に入れることも、「弟」が居る間の数日間「仕事」を休むことも。その我儘(わがまま)を通せるだけの人気と実力とを、彼の知る限り、六年前からずっと、彼女は兼ね備えていた。

 六年の歳月は彼女の若さを磨り潰していったが、彼女の輝きは未だに衰えを知らない。それは彼女の容姿だけでなく、もっと奥深い魅力のせいだった。緋い瞳の底には、深い知性と、更に深い情愛が湛えられている。

 そんなルベの価値を、楼主は充分理解していた。彼女の身代金は、間違い無く莫大な額になる。

 だからこそ、ヴァニタスは一攫千金を狙う必要があった。ルベを自由にすること、それが彼の最大の目的なのだ。それが彼にでき得る彼女へ恩返しだと信じていた。それには遺跡荒らしが一番手っ取り早く思えたのだ。

 今の状況では、年季の方が先に明けそうだが。

 ともかく、彼は駆け出しの遺跡荒らしとして南限都市を発った。

 最初は日帰りで、街の直ぐ傍にある昔の砦の跡。次は崩れた塹壕で見つけた深い穴。

 歩き始めたばかりの赤子のような足取りではあったが、日一日と行動範囲が広がることは楽しかった。ルベは酷く心配したけれど、やがて引き止めることを諦め、最近は出立前には必ず見送ってくれる。

 実入りの方はと言えば、残念と言うか当然と言うべきか、人家の近くは既に荒らされていることが多く、最初の砦では古い銀貨一枚、塹壕では(ひしゃ)げた高杯を拾っただけだ。路銀を考えれば中々採算が合うほどの儲けにはならない。

 元々子供の冒険に毛が生えた程度のものだ。良くてトントン、場合によっては大きく負け越す。五箇所目くらいから十二分に実感させられていた。そこに一攫千金の話が舞い込んできたのだ、飛びつかない方がどうかしている。

 それでも、むやみやたらに喰らいつくには大きすぎる獲物だ。

 胸底にこびり付く不安と不審への言い訳に、近所でも物知りと名高い貧乏医者に相談してみた。

 勿論答は「やめておけ」であった。

 一攫千金の噂話は山ほどある。だが、それで御宝にありつけるのはほんの一握りでしかない。まして、何年も話の内容が変わらないということは、過去の挑戦者全てが失敗したことに他ならぬ。

 話が広がらないのは更に恐ろしい。例え失敗しても何らかの噂話は必ず残る。

 それが無いのはつまり、生還者が少ないということだから。

 言い換えれば、それだけ危険極まりない話なのだ。

 だからこそ、一際芳しい。

 老医師の忠告は有り難く頂いた。

 頂いたが、自身の本心に気付かされただけだった。思えば既に、否最初から、彼の心は決まっていたのだろう。

 それでもそれから二か月間を、彼にしては辛抱強く、考察と準備とに費やした。

 とはいえ、手に入る情報は高が知れている。

 一番の収穫は、がらくた市で手に入れた虫食いだらけの地図だろうか。盾の山脈の東脇、(しじま)森に囲まれたカロス湖の傍に、小さく村の名前が書き込んであった。代価の銀貨一枚が高いか安いかはこれから決める。

 旅服は、古着屋の老婆が見繕ってくれた。見栄えは良くないが、厚手の布地は、虫や藪から身体を護ってくれるだろう。

 色褪せた青鼠色の外衣と、獣脂で煮固めた革鎧は、妓楼の用心棒たちのお下がりだ。短剣一本と言うあまりに貧弱な装備に同情して、一人が小剣まで貸してくれた。ルベは新しい角燈と予備の油壺とを彼に持たせた。貧乏医者は、呆れながらも餞別にと精霊石の欠片を三つくれた。

 そしてこの度、初夏の夜明けに、万全とは言えないまでも充分準備を整えて、盾の山脈に近い黙森の奥深く、カロス湖を目指して旅立ったのである。



人間の男と女とは、思考が異なります。

脳の出来が違うからだそうです。

それは進化の過程で獲得したものだという説があります。

とすると、別の動物はそれぞれに違う性差が発生し得るということなんでしょうか。

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