39.闇を照らすささやかな光
密かな軋みを残し、扉が開く。
ごそりと闇が零れ出す。流れ、溜まり、凝って痩身の探索者に無造作にしなだれかかる。冷たい吐息を首筋に吹き付け、不吉な唇で愛撫する。
突き出した角燈で粘つく闇を払い除け、ヴァニタスは用心深く扉の先を覗き込んだ。
石畳が、それに続く石段がてらりと光った。
ひんやりとした風が段を流れ落ち、足元に溜まって溢れ出す。だが重い石組みは永年の眠りについたままびくともしない。
崩れる、というのはどうやら人を近づけないための方便らしい。少なくともこの南東の塔では、足場も壁も天井も、そう易々と崩れることはなさそうだ。
ヴァニタスは鼻を擦った。
今までと違う。
埃の臭いや粉っぽさは押さえられ、代わりにひやりと濡れた黒黴臭が鼻をつく。通路の中央辺りだけ苔も黴もなく、水が溜まるほどの窪みが石畳を穿ち階段を上る。
怖い。
途端にそんな言葉が閃いた。
否、言葉ではない。だが稲光のように一瞬に、文字のように鮮明に、刺青のように鋭く刻まれる意味。
恐怖という名を持った、なにか。
それでも。
両目を固く閉ざし、閃光のごとく訪れる赤い闇と、心臓を絞り上げる恐怖に彼は耐えた。
屈しない。二度と、何者にも。それが彼の意地だった。怯えた胸で、震える指で腰の短剣を探る。古びた鞘に触れると、中でことりと音がする。
それだけで、夜の呪縛が緩んだ気がした。
敗けない。逃げない。――逃げない。
これが我の意地。
ヴァニタスはそ、と短剣の柄を握った。
幾度となくこの短剣を振るった。幾夜となく銀の刃を見つめた。
母の形見の守り刀は、魔力も何も込められてはいない。普通の短剣より瀟洒な造りで、鞘と柄にささやかな装飾がある。家紋の焼き付けられた鞘は、実姉のくれた魔技呪文書とともに背嚢の奥底に眠ったままだ。
あの日。それらが形見になるなどと、微塵も考えなかった。
不意に湿った鼻先を、固く握った拳で拭い、ちりりと痛む胸を乱暴に擦る。記憶の闇を打ち払い、ヴァニタスは扉の奥に踏み込んだ。
我はもう怯えて竦むだけの童女ではない。懐剣も振るえぬ小娘ではない。
短剣から手を放す。右手で小剣を抜き、左手に角燈をかざした。
我は、一人前の探求者だ。
装備が貧相です。懐具合も貧相です。容姿も結構貧相です。
あれ? 結構可哀想な子だぞ?
武器はできれば魔力のある物とない物と両方持っておきたいところ。
魔法の武器でないと効かないぞーな敵はよくありますが。
たまーに魔法武器無効(とか吸収とか)出されて泣く破目に。(ソードワールドPCにもありましたね)




