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3.ヒヨコの仕入れたおとぎ話

 ヴァニタスの生業は、冒険者というより遺跡荒らしだ。

 と言っても(ひよこ)(ひよこ)、卵の殻が尻にくっついている。今は未だ、変わった容姿が多少人目を引く程度の、街に多く居る端者(はもの)の一人に過ぎない。

 そんな彼が此度選んだ旅の目的地は、南限都市から北北西に十日余も先の道程の、盾の山脈に程近いカロス湖、その湖畔だ。

 盾の山脈から流れる雪解け水を湛えた小さな湖は、裾野から続く深い森の中に永く眠っていた。

 忘れられかけた伝説以外、何も持たない。地図に辛うじて載せてもらえた小さな村が近くにあるだけだ。湖の名から取られたのかクロセスという名の小村は、街道から大きく外れているため、訪れる者も殆ど無い。

 こんな辺境を訪ねる理由は、その伝説にある。

 この湖に時折、琥珀細工の城が浮かぶと言うのである。

 ふた月ばかり前、街角で吟遊詩人が詠うのを耳にしたとき、よくあるお伽噺(とぎばなし)と半ば聞き流した。

 聴衆の問いに詩人は、昔自分も城を探しに行ったのだと答えていた。夕映えの空に幻のごとく浮かび、夕陽が色褪せるとともに消え失せたのだと。

 それだけなら、よくある作り話と笑って忘れたことだろう。

 ところがその晩、話の流れでひょいと思い出したことを義姉のルベ(ねえ)に話すと、彼女も知っている話だと聞かされた。以前妓楼に来た客が、そこへ行くのだと言っていたそうだ。その後どうしたものか音沙汰がないので、真偽も成否も定かでないのだが。

 後に知ったことだが、この近隣では昔から有名な伝説なのだそうだ。とはいえ、その地が何処かまでは特定されておらず、複数の候補地があるという。此度の場所は、かなり無名の方らしい。

 ルベは元々南国の生まれであるし、ヴァニタス自身ももっと北方の出身なので、どちらもその辺り幾分不案内だった。

 それでも、子供の時分の寝物語に似たような話があったのを、なんとか思い出した。

 琥珀のお城に一人きり住むお姫様の話だったろうか? それとも、()んでいたのは恐ろしい怪物だったかしらん。

 ともかく、奇妙な一致性と信憑性に、疑いを抱きつつも強く惹かれたのは確かだ。

 琥珀細工の城。その話が本当ならば、城壁の一部を削るだけでも一財産だ。巧くいけば一生左団扇も夢じゃない。

 昨年十五の誕生日を迎えてから、独り立ちする為にヴァニタスは小さな旅を繰り返していた。年若く、経験も知力も体力も、勿論財力も地縁も無い彼にできる事と言えば、最初から限られていた。街の雑用か、こそ泥か、遺跡荒らしか。

 彼が三番目の選択肢を選んだのは、特にあてがあったわけではない。が、仲の良い物乞いの老人が楽しげに語っていた、遺跡を探し歩いて一山当てたという昔話に一番影響されただろうか。

 南限都市の中で、妓楼の中だけで、ルベに養われるままぬくぬくと生きていくのが許せなかった。身寄りも無い彼は、経済的にだけでも自立したかったのだ。

 そしてもうひとつ。

 ルベを買い戻すために。 

異なる国には異なる言葉があり、異なる話があります。

それらは伝播し変化し、いつしかその元さえも忘れ果てることさえあります。

逆に言えば、どこかに類似共通があれば、いつの時代かに交流があった証拠にもなるわけです。

変化の位置や方向によって、伝播の時期や当時の社会背景が見えることもあります。

そう考えると、歴史や文化も非常に興味深く感じるのです。

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