『今日の馬券は当たる気がする』
『今日の馬券は当たる気がする。』
『はぁ?あんた、いっつもそんなこと言ってキレイに外すよね。』
『いや、今日は君の誕生日だから絶対当たる気がするんだよ。』
『”絶対”なのか”気がする”のかどっちなのよ…』
僕はマイナー血統の馬が大好きだ。
きっかけは高校時代に出会った、ある競馬好きの友人の影響だった。
その友人は元々ギャンブル好きな父親の影響で競馬を始めたようであるが、こともあろうか僕なんぞにまで競馬の面白さを教え込んだのが事の発端である。それからというもの、僕は週末になるとサラブレッド達の運動会を暖かくも厳しい目で見守る立場となってしまったのである。人間の…例えば小さな可愛い子供の運動会を見守る保護者達とただ一つ違うのは、馬券…つまりお金を賭けているという点である。なんとも無粋な話である。
僕には交際している女性がいる。今、会話をしているのが件の女性だ。
外見は中の上としておこう。お世辞にも上品というわけではなく、ケンカをすることもしょっちゅうだけれども、こんな競馬好きの僕を慕ってくれるのは後にも先にもこの女性だけなのかもしれない。馬券が下手な僕が言うのもなんだが、今日の直感はいつもと違う気がする。
いや、絶対違う。
今日の馬券は当たる気がする。
それに、今隣にいる彼女と僕は将来結婚するような気がする。
なんてったって、今日は彼女の誕生日だからだ。
『だいたいあんたはさぁ…なんでいっつも人気が無い馬の馬券ばっかり買うわけ?新聞にも全然◎とかの印付いてないじゃん。もっと他の人が買ってるような強い馬の馬券を買いなさいよ、そうすればちょっとは当たるんじゃないの?』
そう言われてしまうと苦しいものがある。
僕は、何度したか分からない説明を今日も彼女に根気よく説明する。
『いいかい、競馬はねぇ…一番強い馬が勝つんじゃないんだよ。勝った馬が一番強いんだ。』
自分でも、とんちんかんなことを言っているのは分かる。
案の定、彼女は
『意味分かんない。ていうか、そういうことは馬券を的中させてから言ってくれない?説得力無いんですけど!』
と、冷たく僕をあしらった。
確かに僕はそれほど馬券を的中させたことがない。しかもタイミングが悪いことに、彼女と一緒にいる時に限って何故か馬券が当たらない。彼女が言うほど僕は収支的に負けていないはずなんだけれど、そういうことも相まって彼女としては僕の馬券は全く当たらないイメージしか無いのだろう。実に嘆かわしいことである。しかし、いつまでも言われるままの僕ではない。僕は珍しく反論を試みる。
『今日はいつもの僕と違うよ。マイナー血統の馬は買わない。朝から…いや、昨晩からずっと決めてたんだ。』
『あ~分かった!!あんた、今日は私の誕生日だからって…”10月22日”にちなんで、10番と22番の馬を買うんでしょ?絶対そうだよね?そんな予想当たるわけないじゃん!』
ここで捕捉しておこう。彼女は競馬にあまり詳しくはない。
しかし、それでいて馬券の方は時折驚くほど当たったりする。ビギナーズラックというやつだろうか、妙に勘がいいのだ。恐るべし。
『競馬のフルゲートは18頭だから、22番なんて番号はないんだよ。』
『え、そうなの?なんだ…期待して損しちゃった…。じゃあどの馬を買う予定なの?』
【アークエンジェル】
【イーストムーン】
【シティリバティ】
【テイオーミッション】
【ルビーキラメキ】
『この5頭で3連単のボックスを買おうと思う。良さげじゃない?』
『う~ん…よく分かんない…なんでこの5頭を選んだの?』
『まぁ、そういう細かいことは気にしないで!ほら、そろそろレースが始まるよ!』
『あんたが馬券を当てるところ、初めて見たかもしれない。』
『見直した?』
『見直すも何も…元から高く買ってるし。』
『…あ、ありがとう。』
『それより、分かったわよ。なんであの5頭を買ったのか。』
『え?』
『レース中にピンと来た。馬券を見たらバレバレだよ。』
【アークエンジェル】
【イーストムーン】
【シティリバティ】
【テイオーミッション】
【ルビーキラメキ】
『今時、3流ドラマでもこんなネタ使わないよ?』
『結構頭使ったんだけど…。』
『でも、そういうネタ嫌いじゃないよ!私競馬分からないから、分かりやすいの助かる。』