エルフの村3
「なるほど、事情は分かった。それなら、ワシの孫娘のルシェルを助けてやってくれんか」
長老さん直々にルシェの事を頼まれる。
すると、ロリコン扱いされていた男が口を開く。
「長老、素性も分からない者に頼んで大丈夫なんですか?」
少なくともお前に任すよりはずっとマシなんじゃないか?と感じていたが、もちろん口には出さない。
「今はゴブリンの手も借りたいくらいじゃ。アレコレと言っている場合ではない」
長老は長老で、なかなかにひどい言い草だった。
そりゃ、全然役には立てないだろうけど。
「まずは湖に行って、水量が減っていないか見てきてもらえるじゃろうか?」
「湖ってさっきの湖?」
ルシェに聞くと、彼女は首を縦に振って長老に伝える。
「おじいちゃん、ホノボノレイクにならさっき行ってきたけど、水量はたくさんあったわよ」
「そうか、それなら問題は水源地かもしれん」
日詩は聞こえてきた単語に意表を突かれて驚き、素っ頓狂な声を上げた。
「ほのぼのれいくう?」
「さっきの湖の名前よ」
ルシェが答えた。
聞き覚えのある名前だなと、日詩は首をかしげる。
「それじゃ日詩、私たちは水源地を見に行きましょ」
「お、おう」
長老の家を出て、二人は村の中を行く。
あまり活気があるようには見えないが、閑散としているわけでもない。
牧歌的な風景が広がるこの村は、なかなかに平和そうな雰囲気が漂っている。
先ほど通り過ぎた噴水が見える所まで来ると、日詩は色々とルシェに質問する事にした。
「ここって、どれくらいの人(でいいのかな?)が住んでるんだ?」
「うーん、正確に数えてるわけじゃないけど、三百人はいるんじゃないかしら?」
「思ったより大きいんだなあ。ルシェの家は?」
「おじいちゃんの家の隣よ」
そういや隣にも大きめの立派な建物があったなあ。
あれがルシェの家だったのか。
噴水の淵に腰を掛けたルシェが続けて言ってくる。
「住む所の心配してるのね?大丈夫よ、うち結構広いんだから」
「ああ、さっき見たよ。悪いな、いきなりお邪魔する形になっちまって」
「まあそこは、これからの働き次第によるかしら?そうそう、あなた魔法の使い方習ってないでしょう?」
習ってないも何も、そもそも使ったのはあの時が初めてだ。
あれで成功と言えるかどうかは疑問だけど。
そう思いながら日詩もルシェの隣に腰を下ろす。
「俺のいた世界じゃ、魔法は存在しなかったからな。ルシェはどのくらい魔法が使えるんだ?」
「うっ、痛いとこを突くわね。まあこれでも努力してるんだけど、正直言って、村の中では子供が使える程度の物しか使えないわ。いつか、人並みに使えるようにはなると思うんだけど・・・」
そう言ってルシェは、枯れた噴水に手をかざすと、瞑想しだした。
数秒ほどもすると、かざした手を中心にして、何やら渦状の気流が発生しているように見えた。
そのままルシェは無言で手を下ろすと、何もなかった噴水に水が湧き出てきて、みるみるうちに池のようになった。
「おおー!すごいじゃないか!」
日詩は驚きと共に感嘆の声を上げる。
「まあ、これくらいはね」
少し得意げに髪をかき上げるルシェを、日詩はさらに持ち上げた。
「いやあ、大したもんだ。もしかしたら全く使えないんじゃないか、と思ったからさ。いいなあ、俺もこれくらい出来るようになるかな」
「訓練次第ではなれるかもしれないわね。ただ、今のは水の魔法だからこれくらい出来るんだけど・・・火の魔法は使えないの」
「そうなの?」
不思議に思った日詩が尋ねる。
「ええ。元々エルフは、火・土・風・水の四大元素を操る事が出来るんだけど、火の魔法だけはどうしても成功しなくて。日詩が指先に灯したような火でさえ、私には作れないの」
少し落ち込む様子のルシェは、日詩は元気づけてあげたいと思った。
「でもこれだけの水を出す事が出来るんだから、ルシェはきっとまだ才能が開花してないだけさ。心配するなよ、絶対出来るようになるからさ」
日詩の言葉に、ルシェは顔を上げてお礼を述べる。
「ありがとう。日詩は優しいのね。私に優しい言葉を掛けてくれるのはおじいちゃんくらいだから。嬉しいわ」
可愛い子にそう言われると、こちらも嬉しくなる。
ニッコリと微笑むルシェに向かって、日詩も笑顔で応えた。
そんな優しい空気をぶち壊す、生意気な口調の声が耳に入ってきた。
「お、そこにいるのはダメダメルシェルじゃないか。生意気にも男連れか?」