エルフの村
しばらくして日詩は目覚めると、目の前にはルシェの顔があった。
「やっと気が付いたのね。もう、どうしちゃったのよ」
どうやら膝枕をされていたらしい。
日詩はもう少しこのままでいたいと思ったが、甘えているわけにもいかない。
「とても素晴らしい物を見た」
「素晴らしい物?」
「ああいや、ごめん。ホントに申し訳ない」
「変な人ねえ」
ゆっくりと起き上がり、ルシェにお礼を言う。
「ありがとう、ルシェのおかげで俺、この先よっぽど辛い事がない限り頑張れるよ、うん、間違いない」
「そうなの?良かったのかしら?」
首をブンブンと縦に振ってそれを肯定する。
「ん?なんか俺の体綺麗になってる?」
気付いて口走り、ルシェを見ると、こちらも汚れている所はなく、綺麗になっていた。
「寝ている間に綺麗にしてあげたわよ。感謝してよね」
ウィンク付きで答えるルシェに日詩は、心から可愛いと思った。と、同時に疑問が浮かぶ。
「もしかして全部脱がして?」
「着ている物の事?」
うん、と首を振る。
「それ脱がすの大変だったのよ。特にそのズボンなんて、紐みたいので縛りつけられてて。もう少しで切っちゃうとこだったんだから」
紐ってベルトの事か。ってか問題はそこじゃない。
「俺の裸見たんだ?」
日詩は恐る恐る聞いてみた。
「見ないと洗えないじゃない?ところで日詩は異世界からきた割には、あまり私たちと変わらないのねえ。耳の形が変ってとこくらい?」
ショックを受けた日詩には、後半の部分がほとんど耳には入ってなかった。
「責任取ってもらって、お嫁さんになっていただこう」
「急に何を言い出すのよ。うーん・・・あまりおかしな人は村に入れない方がいいかしら」
「いやいや、何でもないです、大丈夫です、はい」
この事についてはもう諦めよう、そう思う事にした。
自分も見たんだしな、そう、見たんだった。
何て・・・何て綺麗な胸・・・
妄想が過ぎるとまた倒れそうになるので、ここは一旦気持ちを切り替え、なるべく考えないように努める。
「罠があちこちにあるから、私の手を離さないで付いてきてね」
手を引きながら歩いているのはそのためだったのか。
ろくにデートもした事がないので、女の子の手を握りながら歩くというのはかなり嬉しい。
鼻の下はきっと伸びきっているに違いない。
五分ほど歩いただろうか。
それまでの景色とは変わって、樹木がどんどん少なくなっていき、坂道を下って行くと集落が見えた。
「あそこが私の住む村よ」
そう言って繋がれていた手を離すルシェ。
「ここからは罠はないから安心して」
手の温もりが無くなると、少し寂しい気がした。
村の方を見ると、木で出来た柵の両端に人影がそれぞれいるのが分かる。
あそこが入口で、人影は門番といったところか。
二人が柵の近くまで行くと、門番らしき二人のエルフ(どちらも男のようである)がルシェに声を掛けた。
「よお、ルシェル。今日はなんだあ?人を連れてきて」
と、右側に立っているエルフが意地悪そうな口調で言うと、左側のエルフも同じような口調で続ける。
「ま、お前さんには獲物を期待してる者は誰もいないけどな」
ハハハハと、二人はルシェをバカにした。
「フン、いつか大物を捕ってくるんだから!見てなさい!」
強がりを言うルシェが可笑しいのか、門番らしき二人はさらにゲラゲラと笑った。
なるほど、自分で落ちこぼれだのなんだの言っていたのは本当だったようだ。
俺も優秀な方じゃないし、なんとなくルシェの気持ちが分かるかも。
そう思うと日詩は、ルシェの事が愛おしく思えてきた。
そこそこの規模がある村の中に入ると、顔だけ振り向いてルシェが話し掛けてきた。
「とりあえず、ここにいたいのなら長老に会わせないといけないわ」
「なるほど。分かった」
そうして再び前を向いて歩くルシェに、日詩はついていく。
村の中には、いたるところに木造の民家らしき物が点在している。
広場のような場所に出ると、その真ん中には噴水のような物があったが、水は枯れていた。
そこから少し歩いて目の前に現れたのは、ひと際大きさのある、レンガ造りのような目立つ外観をした建物だった。