また会う日まで
「って事で俺は次の・・・ワー・・・ワーキャラットだったかデジキャラットだったか忘れたけど、そっちの世界に行かないといけなくなった」
あの後、俺はルシェには黙って家を出て、クラリン、パッセ、ルメーリアの三人と話をしていた。
集まっているのは噴水。
村の中心にある事もあり集まりやすい。
日はもう暮れかけている。
「ワーキャットだったと思います」
「あーそれそれ、ワーキャッツ」
クラリンの指摘があっても間違える俺だったが、クラリンは一緒に行ける事がよほど嬉しいのか、ずっとニコニコとしている。
ったく可愛いなあ。
「そんな唐突な・・・ルシェの事はどうするんだい?」と、パッセが心配そうな顔で言う。
「その事なんだけど、一応また戻って来れるみたいなんだ。向こうの世界でまた女の子を救って、こっちの世界で必要な事が出来たらまた帰ってくるみたいな」
天使シャーディは確かにそう言っていた。
だからやり残した事は、また戻ってきてからにしなさいと。
そう言った後「私は少し休むわね。連れて行く者が決まったらすぐ出発よ」と、どこかへ引っ込んでしまった。
「なるほどねえ。じゃあそれまでに記憶が戻っているといいわね」と、ルメーリアが噴水の淵に座り足を組んで話す。
「ああ、そうだな。でな、こっちの世界から二人連れて行ける事になった。一人はクラリンが付いてきてくれるんだけど、パッセとルメーリアでどっちか一緒に行ってみたいとかある?」
「そういう事なら」
パッセがチラとルメーリアの顔を伺うと
「私に決まってるわよね」と、ルメーリアが胸を張って答えた。
元々好奇心旺盛なルメーリアが行くだろうという事は分かってたさ。
「オーケー。じゃあすぐ出発するらしいから、今すぐ持って行きたい物があったら取ってくるんだ。俺もルシェの家に挨拶してくるから!」
俺は駆け出す。
後ろの方で「えー!今ー!?」という声が聞こえてきてるが、時間がないのだから仕方がない。
ルシェの家に戻ってきて扉を開けると、俺は開口一番家主の名前を呼んだ。
「ミュールさーん、ディードさーん」
見渡すが、そこにはリビングの椅子に腰を掛けているルシェがいるだけだった。
「日詩・・・だっけ?」
やっぱ思い出せてないよな。
仕方がない、ここは言伝を頼むしかないか。
「ああ。これからまたすぐに他の世界に行く事になったから、お世話になった挨拶をしにきたんだ。いつになるかは分からないけど、また戻ってくる予定。ミュールさんとディードさんに伝えておいてもらえるかな?」
今は端的にこう言って別れるので精一杯か。
「そうなんだ、分かったわ。・・・私ったら、本当にあなたの事忘れてるのね。あなたが出て行ったあと、みんなにあなたの事聞いたんだけど、やっぱり思い出せなくて」
「・・・・・・いいさ。目が覚めたってだけでも儲けもんだろ。俺はそれだけでも十分嬉しいから」
「ごめんなさい。私をたくさん助けてくれたのに・・・本当にごめんなさい・・・」
ポタポタと涙を流しながら、こちらを向いてハッキリと謝罪してくる。
俺はそんなルシェに近寄り、手で涙を拭ってやる。
「たった二、三日の事なんだ。思い出せなくてもいいさ。戻ってきた時にまた、今度はみんなで思い出作りが出来るといいな」
「うん・・・」
頭にポンポンと手をやると、ルシェは何とか笑みを返してくれた。
「お別れは済んだかしら?」
奥の部屋からミュールさんが現れた。
「いたんですか。覗いてるなんて・・・ミュールさんらしい」
「あら、分かっちゃった?話は聞いてたわ。気を付けて行ってくるのよ。いつ戻ってきてもいいように、あなたの部屋は空けておくから」
「ありがとうございます。それじゃ」
「待って。せっかくしばらくお別れするんだもの。ほら」
ん?ミュールさんが俺の手を取って、その手を・・・
「ちょ、ちょっとミュールさん!?」
ルシェの胸に押し付けやがった!
「好きなんでしょ?ウフフ」
「あんた自分の娘に何てこと」
と言いつつも、俺はその手を離せないばかりか、むしろ手が勝手に動いて・・・ああ、なんて柔らかい・・・握力を鍛えてるんだよコレ、ってかなり無理があるよな。
いかんいかん!
「うう・・・惜しいけど行ってきます!」
「行ってらっしゃーい」
ミュールさんの声を背中で聞き、俺はルシェの家を後にした。
くうう・・・もっと触ってたかったなーチクショー。
次戻ってきた時は絶対ルシェに告白するぞ。
例え思い出してくれてなくても、好きな事には変わりないんだから。
「あれ?今の感覚・・・どこかで・・・」と、俺のいない所ではルシェが何かを思い出そうとしていた。
噴水まで戻ると三人ともそろっていた。
パッセは行かないが見送りって事だろう。
「お待たせー!」
(そろったようだね。時間も間に合ったみたい。では行きますよー)
「これが日詩がいつも聞いていた声ね」
ルメーリアが未知なる事象に目を輝かせていた。
「よろしくお願いします!」
クラリンは元気いっぱいにそう叫んだ。
あれ?なんか忘れてないかな。
あ!
「パロルの事は頼んだぞ!」
「おう、そうだったー!」
パッセが頭を抱えて悲鳴に近い声を上げた。
俺たちがいなくなる今、標的はパッセ一人になってしまうだろうが、パッセならきっと何とかなるだろう。
「それじゃまたね!」
戻ってくる時を楽しみにしながら、俺たち三人は次の世界に旅立つのだった。
第一部終了という事で、ここまで読んでくれた方々には本当に感謝しています!
ギャグ要素がイマイチだったり、キャラたちの絡みがイマイチだったりと自分では感じています。
反省すべき点です。
素直な感想を書いて下さると、次回以降に活かせると思いますので、よろしくお願い致します。
ありがとうございました!