憎まれっ子
火は勢いを増してどんどんと燃え広がり、みるみるうちにこちらに迫ってくる。
俺たちはここで死んでしまうのか!?
「心配無用です!」
クラリンは叫ぶと同時、突き出した小さな両手の平から大量の水が迸り、瞬く間に鎮火されていく。
そのポケットからは青い光が放たれている事から、水のオーブを忍ばせているのが分かる。
オーブの力を借り、普段の何倍もの量の水を出せたのだろう。
これだけの規模の火災をいとも簡単に鎮めてしまうなんて、オーブの力は計り知れない。
でもおかげで助かった!
キレイさっぱり火事が収まると、向こうに一人の人影が見え、地面に向かって火球を放っている。
しかしそれはクラリンによって生み出された水によって、ジュッ!ジュッ!という音とともに、水蒸気になり巻き上がっていた。
なんだあれは!?
一体何を考えているんだ!
「クソ!何でだ!あれだけ燃やしたのに一瞬で消されるなんて!燃えろ、燃えろよ!」
人影が叫びながら魔法を連打している。
それを見ていち早く行動したのはルメーリア。
彼女は一足飛びに人影に駆け出すと、そのままの勢いで体当たりしたように見えた。
実際は膝蹴りを顔面に入れたようで、この火災の容疑者と思われる人物は鼻血を出し、前歯は全て折れてあちこちに散らばっていた。
一目見て誰なのかが分からなかったわけではなく、顔が黒く煤けていて判別出来ないのだ。
「どれ」
と言って、パッセが少量の水を出してそいつの顔を拭う。
出てきた顔は見知ったものだった。
『パロル!』
キレイにハモった。
パロルは気絶しているようで、よほど体重の乗った膝蹴りだったのか、あるいはいい角度で決まったのか、ピクリとも動かなくなっている。
ただ鼻血だけはとめどなく流れている事から、折れているのではないかと思われる。
「起きなさい!」
胸倉を掴み上げ、バシバシバシバシッと往復でビンタをかますルメーリア。
あれだけの光景を目の当たりにしたのだから、当然と言えば当然かもしれない、その手にはかなりの力が込められているのが音で分かる。
「あ・・・あ・・・・・・燃え・・・た・・・・・・か」
パロルはわずかに目を開き、消え入りそうな声でそう言った。
「気が付いたか?」
俺が声を掛けるが答えはない。
「どうしてこんな事をしたんだ!」
普段見せた事のない怒りの表情をパロルに向け叫ぶパッセ。
クラリンも出発前にパロルに向けた顔になっている、とても恐ろしい。
そこでようやく口元が動きだした。
「チク・・・ショウ。なぜだ・・・なぜ失敗したんだ」
パロルにとっては水のオーブが誤算だったのだろう。
オーブがなければ、俺たちは焼死していたかもしれない。
「答えなさい!どうして森を燃やしたの!」
当然こちらも怒りの形相で、ルメーリアがパッセを掴んでいる手に力を入れ尋問する。
「俺の邪魔をするやつはみんな消してやる、クククッ」
ああ?置いて行った事を根に持ってんのか?
俺は尋ねた。
「そうかい。ところで狩猟用の罠を仕掛けてあったのもお前の仕業だな?」
鼻血を垂れ流しながら歪んだ顔で笑みを作り言う。
「引っかかったな!痛かっただろ?ざまあねえな、ヒャッハッハア!」
狂気じみていると感じられる、パロルの本性がコレなのか。
「お、お前の血は何色だー!」
怒りが込み上げてきて、叫ばずにはいられなかった。
「ここまでするなんて・・・」
ルメーリアは驚いてそんな事を口にし、パッセも
「いや、さすがにコレは・・・」
と、こちらも信じられないといった感じで、やや呆然とした様子。
クラリンは怒りの表情を変える事なく
「村に連れ帰って裁いてもらいましょう」
と言った。
ところがパロルは余裕の表情でポケットをゴソゴソと漁ると
「フフフ、お前たちは必ずこの俺が始末してやる。いいか!必ずだ!覚悟しておくんだな!」
突然パロルの体がパッと消える。
俺は「何!?」と声を張り上げるとパッセが
「これは・・・宝具の力か」
「そうね」
ルメーリアが首を縦に振る。
「宝具って何ですか?」
物知りのクラリンにしては珍しく質問しているな。
クラリンに同意だ。
「俺も知りたい」
「宝具とは代々家に伝わる家宝の事で、マジックアイテムが多いわね。すごい力が秘められているの」
ルメーリアが説明してくれた。
そんな便利な物があるのか。
ハッ!って事は
「英霊を呼び出せる宝具も存在するのか!?ここは是非とも〇イバーにお目にかかりたい!」
ルメーリアに詰め寄ると
「そんなのいるわけないじゃない。あ、でもアーチャーはいるわよ」
「え?マジ?」
「だってエルフの狩猟スタイルは弓よ。これってアーチャーって事よね?」
なんだよ・・・期待して損した。
つかなんでこのネタ知ってるんだよルメーリア。