振り返れば
地のオーブがこれでもかというくらいに反応を示している。
この扉の先に水のオーブがある!
「地のオーブと同じカラクリなら扉に触れれば・・・ご覧の通りだ」
扉に触れた瞬間、それがスッと消えて中が露わになる。
中にはやはり地のオーブの時と同じ、台座に青い光を放つオーブと呼ばれる球体が鎮座していた。
「おお!これが水のオーブ!」
「地のオーブの色も好きだけど、こっちもいいわね」
「ともかく、早くこれを持って帰りましょう」
輝く青の球体を眺めるパッセとルメーリアに割って入り、クラリンがオーブを手に取る。
その瞬間に俺は背後に気配を感じ、即座に振り向くと
「ガバゴボゴボガボ」
なんとオーガが突然現れた!
「お前はあの時の!どうやってここまで来たんだ?」
間違いない。
このオーガ、手には変わらず金棒を持っており、あの時に見た顔と完全に一致してる。
「ゲベゴボガバボボ」
オーガは必死に何かを訴えようとしていたが、言葉になっていない。
「うわあ!なんでこんなところにオーガが!?」
パッセは振り向いて驚いている。
「近づいてきた気配はなかったですよ?」
クラリンは二度目で慣れたのか、落ち着いてこの状況を分析していた。
「おい、ちゃんと喋ろよ。何を言っているのか分からないぞ?」
俺はオーガの前に立つと、腕を組んで不満を口にする。
「これ・・・溺れてるんじゃない?」
ルメーリアがオーガを指差す。
俺たちが呼吸出来るのは魔法のおかげで、オーガはその魔法を使っていないようだ。
「グバゴボババグボゲボ・・・ゴポッ」
「あ」
思わず声が漏れた。
オーガは苦悶の表情を浮かべ、肺に残っていたであろう空気を出し尽くすと次の瞬間、糸が切れたように体の力が抜け、水面に向かって浮いて行く。
その様子を皆で見送っていると、さらに次の瞬間
『あ!』
今度は全員が口にした。
巨大なエイのモンスターが現れ、オーガの頭から上半身をパクッ。
「マミった・・・」
もうあいつには会えないかもしれないな・・・
「帰りましょうか」
「そうだね」「そうしましょ」
みんな何事もなかったかのように振る舞う。
アイツの存在って・・・
「結局何しに出てきたんだろ・・・ま、いっか」
「お前たち、もう帰るのか」
リヴァイアサンが仲間になりたそうな顔でこちらを見ている。
「なに?乗っけてってくれんの?」
図々しかったかな?
「ま、まあ過去の事はまた動けるようにしてもらった事で、水に流すとしよう。どうしても乗りたいって言うなら考えない事も」
「行こう」
俺たちはリヴァイアサンを無視して泳ぎだす。
「ちょっとちょっと!送ってあげるから乗ってきなさい」
俺たちの前に回り込んで背中を向けてくる。
「だったら初めからそう言えばいいのに」
呆れた顔をしてパッセ。
「いいか、これがツンデレってやつだ」
「結構面倒なんですね」
「素直じゃないって事でいいのかしら?」
俺の解説にクラリンとルメーリアの感想。
良さが分からないと確かに面倒かも。
「ありがとう!」
「助かったよ」
「なかなかの乗り心地だったわね」
「アッという間に着きましたね」
感謝の言葉を贈ると、他のみんなが続いた。
「また遊びに来てもいいぞ。背中に乗せてやらん事もない」
そっぽを向いたフリをして、チラチラとこちらを見ながらそんな事を言うリヴァイアサン。
人の形をしていれば、ツンデレとしての才能はかなりのものだったに違いない。
惜しい。
惜しいといえばオーガかもしれないが。
「またねー」と、最後にクラリンの挨拶でリヴァイアサンと別れ、俺たちは元の道を村に向かって歩き出す。
「帰りは楽だな」
先頭を行く俺は半ば急ぎ足で歩く。
「茂みをかき分けて来た道を戻ればいいだけだからね」と、すぐ後ろを歩くパッセ。
「あとは・・・いえ、何でもありません」
クラリン、きっとモンスターの心配をしたんだな。
フラグを回避するとは、なんて恐ろしい子!
「あとはなんだい?」
「バカ!空気を読みなさいよ!」
クラリンに尋ねたパッセはルメーリアに叩かれた。
この調子なら昔と同じ、二十分もあれば村に戻れるんじゃないか?
そう思っていたところ
「え?」
「どうかしたの?」
「ちょっとお、急に立ち止まらないでよ」
「日詩さん?」
前方の木々の隙間から煙が上っているのが見えた。
「山火事か!?」
森だから森火事なのかもしれないが、そんな事は今はどうでもいい。
「早く行きましょう!」
一番後ろを歩いていたルメーリアの声で俺たちは駆け出す。
火元と思われる場所に近づいた時、唐突にそれは起こった。
ガシャーン!
一瞬何が起こったのか分からなかった。
ただ、何かにつまずいたかのように左の足の自由が奪われ、俺は顔面から派手に転倒した。
「おっと」
つまずいた俺をかわすパッセ。
「大丈夫ですか?」「んもう、ドジねえ」
クラリンとルメーリアが駆け寄ってきて
「いってえ!なんだ?」
と、俺はつまずいた左足を見ると
「うわ!」「な!?」
俺とパッセは同時に悲鳴をあげる。
さらに声を上げた瞬間、本格的な痛みが左足に伝わってきて
「ウワアアアアアッ!」
「これは!」
「ひどい!一体誰がこんな事を!」
痛みで叫び声を上げる俺の状態を見て、クラリンとルメーリアが驚愕している。
俺の左足は狩猟用の罠に食われていて、ふくらはぎから下をがっつりとやられ、血飛沫が上がっていた。
それは子供の時に見たアニメの、ネズミ捕りに使われていた物を大きくしたような罠だ。
「任せろ!」
そう言ってパッセが素早く解除。
解除した罠を横にやりそして
「フッ!」
と、一声で俺の足は何もなかったかのように元に戻る。
「助かった、ありがとうパッセ」
お礼を言うがパッセはこちらではなく俺の後ろ、村の方向を見ていた。
背後を伺うと、火は俺たちの目の前まで迫っていた。