四人寄れば
シェルメニー湖は、村からそれほど離れてはいないらしいが、今はもう誰も近寄る事のない場所であるだけに、道らしい道もなく、歩きにくい事この上ない。
初めてこの世界にやってきた時も、こんな森の中だったっけ。
もしもルシェと出会う事なく、リヴァイアサンのいるシェルメニー湖に足を踏み入れてしまっていたら・・・考えない方がよさそう。
「あるぅ日、森の中、クマさ~んに、出会ったって、歌うんだったよね」
黙って歩く事に抵抗があったのか、突然歌いだすパッセ。
俺が教えてやったのをよく覚えている。
「いやまあ・・・そうなんだけどさ。フラグ立ててるだろそれ」
「フラグ?またよく分からない事言って、フラグって何よ?」
ルメーリアが興味津々に聞いてくる。
彼女はとにかく異世界に興味があるようで、どんな事でも尋ねてきた。
普通に暮らしていれば刺激のないあの村では、それも当然の事か。
「ん~、噂をすれば影みたいなって、これも諺だから理解出来ないか。うーん、説明が難しいな」
「あのう、これからリヴァイアサンがいる所に行くのに、皆さん怖くないんですか?」
先頭を行くクラリンが不思議そうに聞いてくる。
「緊張感がないって言いたいのかな?」
「まあなるようになるわよ。テイクイットイージーって言ったかしら?」
パッセとルメーリアがそれぞれ答える。
「お前ら吸収早いな。俺も教えがいがあるってもんだけど。たぶん、リヴァイアサンに会う前にクマさんに会うと思うぞ」
期待は裏切られる事なく、前方の茂みからガサガサと音が聞こえ、クマのようなモンスターが顔を出す。
「パッセが唄ったせいだな」
「なるほど、これがフラグというやつなのね」
「そうか・・・申し訳ない」
「ええと、今にも襲い掛かってきそうなんですが」
クラリンの指摘通りにクマ(仮)は、こちらを見るや「グァオー」と吠えて突進してきた。
周りは茂みや木々が多い事から、木に隠れてしまえば突進はどうって事なかった。
さらにこちらは魔法使い組、四方を囲んで魔法を使えば倒すのは難しくはない・・・はずだった。
「こいつ、案外速いな!ぐはあ!」
「パッセ!」
「パッセの敵!」
ルメーリアの電撃がクマ(仮)の動きを鈍らせ、そこにクラリンがクマ(仮)の大きさくらいの火球で仕留めた。
「死んでないからね!」
「惜しかったわね」
「何が?ねえ何が?」
「言わせるなよ、恥ずかしい」
パッセとルメーリアのやり取りは見ていて面白い。
クマ(仮)にやられた傷は、右の脇腹を軽く何センチかえぐられたみたいだったが、パッセの得意とする魔法は回復。
みるみるうちに傷は修復された。
「やっぱり人が踏み込まない場所だけあって、モンスターも強めですね」と、クラリン。
「なんか役に立てなくてすまん」
ハッキリ言って俺は何もしていない。
今のクマ(仮)との戦闘にしたって一度攻撃を躱しただけだった。
「大丈夫よ、ほら」
と、ルメーリアは大きな鉈を放ってくる。
「これは?」
「貴重な食糧よ。持って帰らないと損じゃない」
なるほど、俺に解体しろという事か。
よく分からないがやってやるです!
「頭はいらないんじゃないかな」
と、言うパッセに対し俺は
「中をくり抜けば被れるんじゃないかと思って。クマスク」
こいつを被れば驚かない奴はいないだろう。
つか重い。
茂みをかき分けての行軍はかなりの体力を使い、昔はニ十分ほどで着いたらしいのだが、今だときっとその倍以上の時間を要するだろうと思えた。
むせかえるほど生い茂った草木にうんざりする。
「ギャー!背中になんか入った!取って取ってー!」と、ルメーリアが言うと
「ヌオオ!こっちの木には小さい虫が無数に集ってるぞ!」と、パッセ。そして
「そろそろ静かにしないと、リヴァイアサンに気付かれ・・・アワワワ!毛虫が顔に!」
クラリンまでもが自然の餌食となった。
この光景だけを見ると、一体何をしに来たんだかよく分からない。
俺は目の前を飛んでいる虫を払いのけながら、騒いでいるみんなを見てるおかげか、妙に落ち着いていた。
幸いな事にクマ(仮)以外のモンスターに出くわす事はなく、俺たちはようやくシェルメニー湖に辿り着いた。
「ここ・・・なの?」
目の前に現れた景色は、湖であるはずなのにまるで海のようだった。