いい日旅立ち
「こうなったら責任を取ってあんたも来い!」
「いやじゃああ!リヴァイアサンなんかに会いとうないわああ!」
テーブルの脚にしがみついてイヤイヤをする長老。
こいつは・・・
「あんた長老だろうが!孫娘を助けたいと思わないのかコラ!」
テーブルから引きはがそうとするが、しがみつく力が強いせいかなかなか離れない。
「いやなもんはいやなんじゃああ!」
「ったくどうしようもねえな」
もう連れてくのは諦めた方がいいか。
「話し合いでどうにか出来るといいんですけどね」
クラリンはお茶を飲みながら落ち着いていた。
「しょうがない、行くだけ行ってみようか」
ルシェの両親に事情を説明すると
「ルシェルのためにすまないね。そんな装備で大丈夫か?」と、お父さんのディードさんが言うので
「大丈夫だ、問題ない」と、答えておいた。
荷物を準備した俺とクラリン。
いよいよ出発だ。
村の出口に差し掛かると、ルシェをからかっていたパロルが、どこから聞き付けたのか、大きい袋のような物を抱えて寄ってきておもむろに
「俺も連れてって!」と、言い出した。
「ダメだ!帰れ!」
間髪いれずに答える。
それでもパロルは挫けない。
「お願いだよ!何でもするから!」
「ほお。何でもするって言ったな。俺たちはこれからリヴァイアサンのいるところに行くんだが、お前、囮になってくれるんだな?」
「うっ・・・」
これにはさすがに怖じけずいたらしい。
一瞬迷うような仕草を見せたが、パロルはなおも食い下がる。
「よ、よーし、分かった。囮でも何でもやってやろう。じゃあ付いていってもいいよな?」
「うむ!ダメだ!」
「何でだよおおお!」
地団駄を踏んで癇癪を起こす。
しかし、態度を変える事はない。
「俺はお前が気に入らない。理由は以上だ。鬱陶しいからどっか行け!」
シッシっと追い払う。
するとパロルは足にしがみついてきて
「連れて行けー!連れて行くって言うまで離さないぞー!」
長老と逆の事言いやがって。
頭にきた俺は、パロルの顔面を鷲掴みにして持ち上げて
「ルシェにも生意気な態度を取ってたけどなあ、俺にも何をしてきたか忘れたわけじゃないよな?」
コイツときたら、異世界から侵略に来ただの、村に災厄を招きに現れた悪魔だの、さらには女子供をたぶらかして悪戯してるだのと、木箱に乗っかって演説していたらしい。
ルシェの家にいて手伝いをしてると、その噂を聞き付けて本気にした村人が押し寄せた事もあった。
幸いその時はミュールさんが、その噂はウソであると説明してくれたから良かったものの、一人でいたらどうなっていた事やら。
なのでコイツには恨みはあっても、連れて行く義理などアリンコの触角ほどもない。
「俺は間違った事はしていない!」と、胸を張って言いやがった。
ハハ、俺もう我慢の限界だよ。
思い切り地面にパロルを叩き付け
「んだとコラ。よくもそんな事が言えたもんだなオイ。ここらで一度死んでおくか?」
指をバキバキっと鳴らしてパロルを見下ろす。
すると、それまで黙って見ていたクラリンがパロルを睨み付けて
「いい加減にしてくれるかな?」と、言うとパロルはガバッと起き上がり
「申し訳ありませんでしたクラリン様!ウワー!」と、言ってパロルは逃げ出して行った。
おお、ちょっと今のは怖かったかも。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ニコッとこちらに向けた笑顔は可愛かった。
この変わり身は半端ない。
村を出たところで見知った顔のエルフの男女が、こちらを見て近寄ってきた。
「私たちもいいかしら?」
そう言ってきたのは、ミュールさんのお使いで露店に立ち寄った時に知り合った女の子のルメーリア。
異世界からきて、ルシェの家に厄介になっていると教えると、色々と話を聞きたがったので、話しているうちに仲良くなった。
見た目は俺と同じくらいか、やや年上なのかなってとこか。
肩まで伸びた銀髪が美しく、目の下にある黒子が特徴的だった。
こんな子がクラスにいれば、席替えの時に学園天国を歌ってしまうだろう。
「人数は多い方がいいだろう?」
と、こちらは男の子のパッセ。
暇な時間に村を見て回っていた時に、風の魔法を使って木の実を取っていたのを見て声を掛けた。
その風の魔法が得意で、今度教えてもらう事になっていた。
こちらは二歳くらい年下の感じがする顔で、ショタ好きが放っておかない感じの美少年。
うらやましくなんてないぞ!
二人が並ぶと少しルメーリアの方が背が高い。
ルメーリアは俺と一緒くらい。
村にはそれなりに子供もいたが、仲がいいのはこの二人だった。
「俺としては大歓迎!クラリンはどう?」
「この二人ならいいと思います。頑張りましょう!」
『おー!』
つまり、クラリンもパロルはダメだったって事ね。
この三人と一緒なら心強い。
俺たちは・・・
「どこに向かうんだっけ?」
「シェルメニー湖です」
そう言って歩き出すクラリンに続いて、俺たちはシェルメニー湖に向かうらしい。