愚行
「日詩さーん!」
あれから数日が経ち、村の人たちと仲良くなってきた頃、家の手伝いで庭先の手入れをしていた俺の元に、明るいトーンでクラリンがやってきた。
しばらく見ていなかったので、少し懐かしさを感じる。
「おークラリンじゃないか!元気そうだね。どうかしたの?」
ルシェは相変わらず眠ったままだ。
俺は日課としてルシェがやっていたという食事の手伝い、庭先の花の手入れ、家の掃除などを手掛けていた。
狩りの方まではまだ手が回っていない・・・ので、魔法の練習をしなきゃいけないなと思っているこの頃だ。
クラリンは目の前までやってきて、他に誰もいない事を確認すると
「私、やっぱりこの村に残る事にしました」
「そっか!良かった・・・どうしてるかなあなんて、思ってたもんだから。会いに行こうかと思ってたくらい」
それは本当だった。
異世界での暮らしが板についてきてからは、少しずつ時間の使い方に余裕が出てきたから。
「エヘヘ、日詩さんが元気になってくれたみたいで嬉しいです」
「まあボチボチね。クラリンこそ元気みたいだけど、何かいい事でもあった?」
「えっとですね、オーブについて色々と調べてたのですが」
クラリンの話を要約してみる。
長老に話を聞きに行ってみたところ、書斎から一冊の本を出してきてくれて、それと照らし合わせると、どうやらこのオーブと呼ばれる物は四つあるらしい。
俺たちが見つけたのは地のオーブであるとの事。
他には火・水・風のオーブがまだどこかにあるという。
「なるほど。それがどうかしたの?」
「地のオーブは土を土台に、それに関する魔力を秘めたオーブなんです。私が探知を使えたのも、このオーブを手にしていたからだったんです」
「ふむふむ」
「水のオーブにはですね、水の力のほかに、なんと癒しの力が秘められているみたいなんです!」
癒し?
「って事はそれを手に入れられれば」
「はい!姉様が目覚めるかもしれません!」
「おお!素晴らしい情報だ!」
俺は嬉しさのあまりクラリンを抱き上げると、赤ちゃんに高い高~いとするみたいに何度か繰り返した。
クラリンも希望が出てきたおかげで、とても嬉しそうにしている。
もしかしたらルシェが戻ってくる、そう思うとどんどん力が湧いてくるようだ。
「じゃあ早速出掛ける準備をしないと。ルシェの両親にも許可を得ないといけないな。そうだ、場所はどこにあるのか分かってるのかな?」
「たぶんあの辺かなってくらいは。オーブ同士は引かれ合うみたいなので、オーブを持っていけば分かるはずです」
心が軽くなるのを感じる。
最近にはなかった事だ。
「よーし!水のオーブを手に入れにいざ行かん!」
「ダメじゃ」
「・・・え?」
俺とクラリンは長老の家に出向き、水のオーブを取りに行く許可をもらいにきた。
長老に説明したところ、第一声がこれである。
「何でですか!?ルシェが助かるかもしれないんですよ!」
「そうですよ!無理だったとしてもやってみる価値はあると思います!」
「分かっておる。じゃが、お前たちが行っても帰ってくる事は出来まい。水のオーブの在処ならワシにも見当はついておるが、そこには海の魔獣と言われるリヴァイアサンが住んでおる」
ああ、なんか聞いたことある。
めっちゃ強い奴だ。
冗談とか通じなさそうなモンスター。
「恐らく近づいただけでも襲ってくるじゃろう」
長老は明後日の方を向き、遠い目をして
「あれはリヴァイアサンがまだ小さかった頃の話じゃ」
「え?」
「ワシのお爺さんが子供の頃に、湖で泳いでいる海蛇のような生き物を見つけての」
「ほう」
「海蛇にしてはやたらとでかかったんじゃが、そいつの背中に乗ってよう遊んでおったらしい。後にその海蛇はリヴァイアサンだと分かるんじゃが、お爺さんとリヴァイアサンはとても仲が良く、毎日一緒にいたようじゃ」
長くなりそうだと思い、俺とクラリンはその辺にあった椅子に適当に腰を掛けた。
「リヴァイアサンは頭が良く、言葉を話すことが出来た。そこでお爺さんはリヴァイアサンにたくさんの言葉を教えると、どのモンスターよりも流暢に話せるようになった。だが、それがお爺さんの間違いじゃった」
お婆ちゃんが俺とクラリンに茶を出してくれた。
「あ、どうも」と言ってそれを受け取り、飲みながら話に耳を傾ける。
「ワシがお爺さんから聞いたのはこんな感じじゃった」
リヴァイアサン「ああしぃ、今日はちょっとたりぃしぃ、背中に乗るのはTAHね。あ、TAHってのは疲れるから明日にして欲しいの略ぅ」
寸劇が始まった。
つかなんだ、そのリヴァイアサンの話し方は!
お爺さん「おいコラ海蛇!俺を乗せて泳ぐのが貴様のライフワークだろう!黙って乗せんかいこのボケアホンダラゴミカスクズいてまうぞワレ」
「そんな事があって、お爺さんとリヴァイアサンは不仲になってしまったのじゃ」
「当たり前でしょ!それまでホントに仲良かったのか?」
俺の質問には答えず、長老はさらに続ける。
「しかし、リヴァイアサンにはお爺さんの他にも、村人と交流があってな。村人の子供たちがリヴァイアサンの元へ行き、背中に乗せて欲しいと頼みに行ったところ」
子供たち「おーい海蛇さ~ん、今日も一緒に遊んで~」
リヴァイアサン「イエス!フォーリンラヴ!オーマイガーファンクル!アイアムチョーノ!」
子供たち「ウワー!こいつなんか変な事言い出したぞ!石ぶつけてやれ!」
「リヴァイアサンは、お爺さんが冗談で教えた挨拶を忠実に守ったところ、子供たちにも嫌われてしまった。他に仲間もいないリヴァイアサンは孤立し、いつしか村人たちを憎むようになっていったのじゃ。それからというもの、リヴァイアサンに近づくと襲ってくるようになってしまっての」
「全部お前の爺さんのせいじゃねえか!」
バンッ!と机を叩いた。
なんつーアホな事してくれてんだその爺さんは。