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愛しい人よ

 あれから二日が経った。

 俺は椅子に座っている。

 ベッドに寝かされている部屋の主人を見つめながら・・・




 クッソ、どうなってんだ。

 走っても走っても、全然ユッグドラジルとかいう樹が見えてこない。

 大きい樹であるから一目でそれと分かると、道中でルシェが言っていた。

 なのにいつまで走ってもそれが見えてこない!

 今はもうどれくらい経ったんだろう。

 古びた腕時計をしていたはずだったが、こっちの世界に来た時にはすでになかった。

 まあ、それをしていたとしても、いつ壊れてもおかしくない感じの物ではあったが、ない物を考えても仕方がない。

 出来る事をやるのみ!


 キツい・・・走りっぱなしというのはさすがに無理がある。

 足はとっくに悲鳴をあげていて、鉛でも付けているのかってくらいにとにかく重い。

 それでも競歩のような形になりながらも、足を前に進める事を止めない。

 こんなに走った事は生まれて初めて・・・いや、両親を亡くした時以来か。

 その日授業を受けていた俺に、突然教頭先生がクラスにやってきて俺を呼び出したんだっけ。

 病院まで先生が車で送ってくれる事になったが、途中で事故?だったかで通行止めになってて・・・二キロほどあった距離を走ったんだったな。

 縁起でもない・・・今それを思い起こすのは止めにしよう。

 ルシェは助かるんだから、俺が助けるんだから。


 ようやく・・・それらしい樹が・・・見えてきたぞ・・・

 でも・・・ハアハア・・・もうそろそろ一時間経ってるんじゃないだろうか・・・ハアハア

 

 (・・・・・・か)

 ん?

 (・・・き・・・ないか)

 なんだ?

 (・・・ばらく時間がかかるかな)

 これは!

 

 「おーい!聞こえてるぞ!」


 (お!ようやく聞こえたか。話は後、全部見ていたからな。それっ)


 その瞬間俺は大きな樹の目の前にいた。

 (ほら、さっさと雫を取るんだ)


 「分かった!」




 ハハ、あの時もやっぱ魔法の世界だし、どうにかなると思ってたんだよな。

 いや、そもそもルシェがどうにかなってるなんて事すら、想像もつかなかった事だし。

 謎の声は俺が雫を手に入れて、またルシェの前まで転移してくれた後は、また黙ってしまった。

 

 部屋を吹き抜ける風が、動かないルシェの金髪を優しく撫でる。

 

 「キレイだよな」


 俺がルシェの前にパッと現れると、クラリンはビックリしていた。

 涙でグショグショになった顔を向けて・・・必死に回復魔法を使ってて。

 雫をルシェに飲ませた時に、クラリンはまた泣いたんだっけ。

 ごめんなさいを繰り返しながら。

 クラリンが悪い事をしたわけじゃないのに、姉様を一人にしてしまったせいだって。

 それを言ったら、穴に落ちた俺に一番責任があるだろうに。




 「どこまでもいい子だよな、クラリンは」


 ルシェの頬に手を当てる。

 血だらけで悲惨な事になってたけど、今は綺麗だ。

 その時の面影はもうない。

 



 「これで大丈夫なんだよな!よし、起きろルシェ。寝坊助だと余計に恋人が出来なくなるぞー」


 雫を飲ませた後、ルシェの耳元で声を掛けた。

 また元のルシェが戻ってくると信じて。

 元気な顔を見せてくれると信じて。

 隣でわんわん泣きながら謝っている、クラリンを気にしないようにして。

 余計なお世話よ!って言って起きてくるんだろうなって思って。




 「でも・・・世の中って思った通りにはいかないんだよな、まったく」

 

 


 「見ろよクラリン!傷口が塞がっていくぞ」


 クラリンはルシェにすがって泣いている。

 ルシェの血が自分の顔や衣服に付く事もいとわずに。


 「これでもう助かるよな?元通りのルシェに戻るよな?」


 それでもクラリンは俺の声が聞こえていないかのように、ただ、ひたすら泣きじゃくる。


 「おい、やめろよクラリン。演技の才能があるとは言ったけど、冗談の才能はないなあ。アハハ」


 涙が零れ落ちた。

 ルシェは助かるはずなのに、戻ってくるはずなのに。

 

 「あれ?嬉し涙かな・・・ルシェが起きてくると思うと俺・・・嬉しくて・・・」


 突然ガバッとクラリンが、俺の肩を抱くようにして飛びついてきた。

 クラリンの手に付いた血がベットリと、俺の背中に付着するのが感覚で分かるが、しばらくそのままでいた。

 そして


 「日詩さん・・・姉様を村まで運びましょうか」

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