本音なの
オーブを手に入れてからは、格段に歩きやすくなった。
これまでのヒカリゴケ頼りでの行軍とは、何倍も視界が開けていて雲泥の差だ。
足元にかかる注意が緩和されただけでも、ストレスはかなり違う。
ただ一つ残念なのは・・・隣を歩くクラリンと手を繋ぐ必要がなくなってしまった事。
いや、寒いから手を繋いで行きたいってだけで、他に意味なんてないんだからね!
「日詩さん、大丈夫ですか?」
「エ?ダ、ダ、ダ、ダイジョウブダヨ?何も変な事なんて、カンガエテマセンヨ?」
「日詩さんも一緒なんですね」
一緒?
「私も感じるんです」
なんと!この気持ちは俺だけのものではなかったというのか!
「こうすると余計に・・・」
クラリンの一言一言にドキドキしながら、足を止めて見つめ合う。
そのうちどちらからともなく、手を合わせ、指を絡ませ、恋人繋ぎのように。
あ、また自然に、クラリンの小さな唇に目が・・・
「やっぱり。日詩さんも感じてますよね」
ここまできたら何も隠す事などない、ブンブンと頭を上下させて肯定する。
ああ、空いてる方の手が勝手にクラリンの背中にまわ
「このオーブ、魔力を増大させる力がありますね」
え?オーブ?
動いていた手を止める。
「気持ちが昂るというか、活発になるというか。二人でオーブを囲んで、手を繋ぐと余計にそう感じませんか?ん?その手は何でしょうか?私の背中?」
はっ!気付かれた!
「あのう、日詩さんってもしかして私の事・・・」
「うう・・・さっきから気になってて・・・」
「そうだったんですか。でしたら言ってくれればいいのに。どうぞ」
クラリンの背中から羽が現れる。
「珍しかったんですねえコレが。普段は分からないように見えなくしてるんです。コレだけだとコウモリっぽくて、私としては便利ですけど、いささかお洒落とは言えませんよね。そうだ!白く染めてみるってのはどうでしょうか?」
「あ、ああ。いいんじゃないかな」
「今度時間がある時にでもやってみる事にします。もっとよく見ますか?」
「いや、もういいよ」
色々と、もういいよ。
勘違いも甚だしい、俺って見境ないんだなあ。
いや、これはきっとサキュバスの魅力のせいだ、うん、俺は普通だ正常だ。
「これだけ魔力が増幅されるのなら・・・」
クラリンは目を瞑るとそのまま動かなくなる。
少しすると
「分かりました。出口はこちらです。日詩さん、行きましょう」
「おお!どういう魔法か知らないけど、すごいね」
「探知のスキルです。洞窟に住んでいるサキュバスの多くは使えるんですけど、私には使うほどの魔力がなかったです。このオーブのおかげですね」
「かなりの価値がありそうだねコレ。さっきいたオーガも欲しがっていたみたいだし」
「あんなに簡単にオーガを退けてしまうなんて、日詩さんもすごいと思います。私だけでしたら負けていたかもしれません」
あいつは襲ってくる予定じゃなかったんじゃないかなあ。
まあここは一つの手柄としておくとするか、少ない功績として。
「頼りになる人と一緒で、嬉しいです」
ん?今のも、ちょっと変えるだけでさらによくなるんじゃないか?
「ねえ、今のセリフだけどさ、俺の言う通りにしてもう一回言ってくれるかな?」
「え?」
クラリンに指導する・・・そして
手を胸の前で組んで祈るようなポーズを取らせ、上目遣いで
「クラリン嬉しい」
うほあ!なんという破壊力!
「素晴らしい!クラリン才能あるよ!俺マネージャーやるからデビューしよう!」
「デビューって何ですか?」
おおっと、つい熱くなってしまった。
「ごめん、あまりにも可愛かったものだから調子に乗っちゃって。クラリンなら誰でも魅了出来るねきっと」
「本当ですか!ありがとうございます。サキュバスにとって、魅了出来るか出来ないかは一番大事な事ですから。日詩さんも魅了されましたか?」
なぬ!?
その問いには素直に答えるべきかどうか迷うところ。
でもやっぱ素直が一番か。
「ああ、うん。実は結構前から」
あ、余計な事言っちゃった。
「そうなんですか。どのくらい前からです?」
「えっと・・・精気を吸われた辺り」
「あ、それは当然かもしれませんね。精気を吸う時が一番魅了の効果が大きくなりますので」
おお、そうなんだあ。
さっきから俺おかしいんじゃないかと心配してたけど、悩む事なかったんだな。
普通の事だったのか、良かったぁ。
「でも」
クラリンはクルッと後ろを向き、一拍置いて
「日詩さんにはいつでも、私にドキドキしていてもらいたいかもです。フフッ」
「え?」
今の言葉に戸惑っている俺を置いて、クラリンは出口のある方に歩いていく。
これって・・・クラリンに好かれてるって事でいいのかな。
気が向いたらレビューを!
面倒でしたら結構です(;´▽`A``