犯人は
ルシェルサイドです
一方その頃ルシェは、立て看板のある分岐点まで戻ってきて、その近くの岩に腰を掛けていた。
「もうどれくらい経ったのかしら」
クラリンが助けに行ったのだから心配はないけど、いくらなんでも遅すぎないかしら。
ちゃんと出て来られるわよね。
んー、それにしても退屈ねえ。
伸びをしてボーっと辺りの景色を見ていると、先ほど進んだ左の道とは逆の、右の道から三人の男性が、大きな荷物を背負ってこちらに向かってやって来る。
先頭のエルフは見覚えのある顔だ。
「お父さーん!」
手を振って呼び掛けると、お父さんも手を振って応えてくれて
「ルシェルじゃないか。こんな所で何をしているんだ?」
私は他の二人にも挨拶をすると、お父さんに説明する。
異世界からやってきた男の子、目的、クラリンも含めて一緒にユッグドラジルまで行く事。
さらには今こうして二人を待っている事。
昨日あった出来事は、説明するのが面倒なので、日詩と出会った事以外は省いた。
「何で左の道なんかに・・・ん?この案内板、間違ってるぞ」
そう言ってお父さんが看板に近づくと、何かを感じとったのか、書いてある文字に手をかざすと、左と書いてある文字が右に変化した。
「あれ?右に変わった!」
「ああ、どうやら誰かが魔法でいたずらしたみたいだな。全く、ひどい事をする者がいるもんだ」
キイイイイイ、悔しい!
いたずらだったとしても、こんなの許せないわ!
あんな穴がある所に誘導されていたなんて!
こ、これはもう、犯人を見つけ出して・・・やられたらやり返す!倍返しよ!
「おいおい、ルシェル、すごい顔してるけど大丈夫か?」
「私、犯人を見つけて懲らしめてやるわ!」
「まあ気持ちは分かるが、危ない事はするもんじゃない。日詩って子も、クラリンが助けに行ったんならまず大丈夫だろう。お前は女の子なんだから、ここは大人しく二人が来るのを待ってるんだ」
「むー」
「そんなにむくれるなよ、可愛い顔が台無しだぞ?よしよし、いい子だから無茶はするんじゃないぞ」
頭を撫でるお父さんは、いつも私を子ども扱いする。
実際まだ子供なんだけど、もう少し私を信用して欲しい。
でも落ちこぼれの私じゃそれも難しい事かな。
ハァ・・・。
「それじゃ父さんは村に戻るよ。なるべく早く帰って来るんだよ。日詩くんとやらにも会ってみたいしな」
「はーい」
返事をしてまた他の二人に会釈をする。
お父さんたちは村に帰って行った。
それにしても怒りは収まりそうもない。
いたずらした細工が、元に戻ってるとしたらきっとまた仕掛けに来るに違いないわ。
私は看板から少し離れ、身を隠してその様子を見守る事にした。
「の・・・・う・・・を・・・ハマ・・こせ・に~ん」
変な歌が聞こえてきたわね。
「愚か者には嘲笑を~ 罠にハマれば自己責に~ん」
ひどい歌!なんなのよあの歌詞は!
私は唄っている人物を突き止めようと、隠れながら看板の方を見つめる。
あれは・・・三人の小人?コロボックルと言われる種族の男たちね。
並んで歩いているうちの、真ん中で歌を唄っているのがリーダーかしら。
「お?また看板の文字が直ってるぞ?そ~おれっと」
あ!魔法で右を左に変えたわ!
現行犯ね。
潜めていた場所から姿を現すと、リーダーらしきコロボックルに向かってダッシュ!
そのまま走りながら両手で捕まえた!
体長は三十センチくらいだから私でも余裕ね。
「あんたたち、見てたわよ」
「うぐう!苦っし!離し・・・離してえ!」
「そうはいかないわ!なんて事してくれてるのよ!きちんと反省と謝罪と服役してもらいますからね!」
「服役まで・・・」
他の二人のうちの一人がボソっと何か言ってるけど、私は気にしない。
そのうち掴まれている仲間を見捨てて他の二人は逃げだした。
こうなったらコイツだけでもとっちめてやらないと。
ギュウウっと両手に力を込め
「ギャー!出るー!出ちゃうー!」
「何が出るって言うのよ!出せるもんはみんな置いていくのよ!」
「アウー!で・・・ちゃった・・・ゴフッ」
「ちょ、ちょっと!何漏らしちゃってるの!」
突然手のひらの中で失禁!?
汚い!と、思わずそいつを地面に叩きつける。
「グベッ」
「やだもう、何してくれちゃってるのよ全く。臭いが残ったら許さないわよ」
「こ・・・」
「何?何か言いたい事でもある?反省?謝罪?服役する?」
水の魔法で手を洗い流す。
クンクンと臭いを嗅いでみたけど、大丈夫みたいね。
良かった。
「ここまでしておいて・・・まだ許されないの・・・」
「そうねえ。日詩とクラリンが無事に戻ってきたら、右手一本で勘弁してあげるわ」
「戻って来なかったら?」
「両手と両足をいただくわ」
「ヒイイイイイイイ!鬼だああああああ!」
「エルフよ!失礼しちゃうわね!」
ああもう、コイツ自分でした事の重大さが分かってるのかしら。
うるさいから口にその辺の雑草を詰めておこ。
「ムームー!」
かなり静かになったわね。
ひとまず、コイツはこうやってうつ伏せになってる所を踏んでおけば、逃げられる事はないわよね。
少しは弱ってるみたいだし。
「ああもう、早く戻ってこないかなぁ」