同行者
説明には骨が折れたが、これで一安心だろう。
昼食をいただくといよいよ、二泊三日の観光の旅の出発である。
ルシェと二人きりでなんて最高だよなあ。これならさすがに告白出来るだろう。
なんせ次の世界に行く前には、どうしても成就させておきたい願いである。
出発してすぐに森の中で・・・とか、渓谷の素晴らしい景色の中で・・・とか、ご飯をいただきながらさりげなく・・・とか。
その他にも寝る前とか起きた後とか、それら全てがチャンスであると言っていいだろう。
初めてする野宿ってやつも、好きな子と二人で出来るなんて、これ以上の幸せはない!
考えると今から楽しみで、興奮してきた。
居候しているルシェの家を出て、ルシェと共にいざユッグドラジルへ。
村を出口に向かって進んでいくと、見た目十歳くらいの女の子(さらって育てたい〈犯罪です〉くらい可愛い)が、一軒の民家の庭先でこちらを見ている。
ああ、俺の耳が珍しいんだろうなと思い、大した気にもせずに通り過ぎていくと、その子が後をついてくるではないか。
「ルシェ、この子」
ついて来る子をルシェに引き合わせる。
「あら、クラリンじゃない。どうかしたの?」
クラリン?どこかで聞いた名前だな。
「ごきげんようルシェル姉様、こちらの方はどなたかしら?」
そう言って俺を見上げてくる。ルシェの事を姉様って呼んでくるって事は親戚なのか。
見た目からは想像も出来ない話し方をする。いいとこのお嬢ちゃんって感じかな?
背丈は低い。俺が百六十五センチ、ルシェは百六十くらいか、そうするとこの子は百四十五?くらいじゃないか、たぶん。
顔立ちはルシェがタレ目なのに対してツリ目、輪郭はルシェが丸に対してわずかに面長、髪はルシェがロングに対してセミロングってとこかな。
ルシェが俺の事をかくかくしかじかと説明する。
「そうでしたの。珍しいですわね」
ジロジロと俺の周りをぐるっと回って、舐めるような視線で観察してくる。
何だか自分が動物園の動物にでもなった気分だ。
「それで今からどちらへ?」
その問いにまたもルシェが説明。何だって足止めしてくるんだこのロリっ子は。
「まあ素敵ですわね!私もついて行ってよろしいかしら?」
えーーーー!
「私は全然かまわないけど。日詩はどう?」
そんな事されたら、せっかくの二人きりでのバケーションが、デートが台無しじゃないか!
しかし、ルシェがオーケーを出しているのに、俺が断る理由なんてものを持っているはずがない。
ハッ、そうか。この手があるか。
「クラリンちゃんでいいのかな?はじめまして、日詩です。こんな事を言うのは失礼かもしれないけど、君は見た所まだ子供じゃないか。これから行く所には、道中どんなモンスターが襲ってくるか分からないし、自分の身を守るだけでも精一杯」
ボワッ!
会話は途中で遮られた。クラリンが、俺の両手を伸ばした直径くらいはある火球を出したから。
「これでも魔法は得意なの。たぶん、自分の身くらいは守れると思うわ」
「ハイ、ソノヨウデスネ」
唯一断れそうだった理由があっけなく打ち砕かれた。
ルシェに言われてクラリンが親の承諾を得てくると、三人での観光旅行が始まりを告げたと同時に、ルシェとの二人きりの時間が終了となった。
なんてこった。
「紹介がまだだったわね。こちらはクラリン。私の従妹で、お母さんの弟さんの子なの。礼儀正しくてとってもいい子なのよ。私の事バカにしたりしないし」
ふむ。それはいい子の基準としては最高だろうし、決して外せない理由の一つになろうだろう、ルシェにとっては。
俺が「よろしく」と言って手を差し出すと、一度ハンカチのような物で手を拭いたあとに「よろしくお願い致します」と言って握手してくれた。
ううむ、苦手なタイプかも。
「日詩様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「様を付けられるような身分でもないし、日詩さんくらいでいいんじゃないかな。俺はクラリンちゃんって呼べばいいかな?」
「クラリンと、呼び捨てでどうぞ。では私は日詩さんとお呼び致しますわね」
ルシェと二人きりでいたかったけど、それを抜きにすれば悪い事ばかりではない。
なんせ外にはモンスターが出る。
モンスターの事は正直、それほど不安に思ってはいなかったが、クラリンがいるなら全然余裕だろう。
懸念していた材料が無くなったというもんだ。素晴らしい戦力を得た!
こうなったらこの旅路も、楽しまないと損だよな。
と、その時はのんきにも、そんな事を考えていた。
上手く書けたかな?