プロローグ2
「誰だ?」
(私の名は・・・えっと・・・何だっけ?あんた知ってる?)
「いやいや、知らねえし」
(困ったわね・・・。まあそれはいいとして)
「いいのか。つか、おい、そこのお前」
目の前の電柱に隠れて、ボロボロの真っ黒いコートに身を包んでいる者がいた。
よく見るとコートの他に、ところどころ破れたテンガロンハットに、泥だらけの長靴が電柱からはみ出している。
「お前だろ、喋ってるのは。出てこいよ」
(は~あい)
と、マヌケな声を出して出てきたのは・・・マネキンだった。
「うわあああああ!」
少年はあまりに驚いて、腰を抜かしてしまった。
(出てこいって言うから出てきたのに)
「マネキンが喋ってるううう!どうなってんだー!?」
マネキンはカタカタと、声と同調して踊るように動いている。
(正確に言うと喋ってはいないんだけどね。あんたの脳に直接語り掛けてるのよ。テレパシーってやつ?)
そう言われてみれば、耳から声を聞いているような感覚ではない事に気付く。
(これはあんたらの形を真似て作ってみたもんなんだけど。おかしかったかしら?)
頭をブンブンと振って、少年は自問する。
「俺、どうしちまったんだ・・・転んで頭でも打ってたのか?」
(そのくらいで済めばいいんだけどね。それより、残り少ない魔力で作るの大変だったんだから、コレ。死んでる者は使いたくなかったし。ちょっとは褒めなさいよ)
その言葉は無視して、現状を打破出来るならそれに縋るより他はない。
語り掛けてくるマネキン?に向かって少年は、疑問と解決策を尋ねる。
「なんでそんなもん作ったんだか知らないけど、助けてくれるってのは?新聞を代わりに配ってくれるのか?」
(新聞?よく分からないけど、この世界はもうすぐ崩壊するわ)
「へ?またまた、何を言い出すんだかこのマネキンは。そんなバカな事・・・」
(ちなみに、あんたはもうすぐ死ぬわ)
「自転車でコケただけで死ぬようなやわな体じゃ」
そこで少年は言葉を切った。
というか、切らざるを得なかった。
彼の目には、一台の暴走トラックが近づいてくるのが映った。
運転席を見ると、ハンドルにもたれかかって動かないドライバーがいるように見えた。
居眠り運転中のトラックか。
(よっと)
マネキンがクルっと反転し、片手をそちらに向けると、トラックの速度がグッと落ちた。
(さて、あんたはここで助かりたければ、私の言う事に従って、別世界にいる女の子たちを助けるのよ。取引ってわけじゃないけど、どうする?)
「ああもう、どうしてこんな面倒な事になっちまったんだ」
思えば、ろくな人生じゃなかった。
両親は三年前に事故で無くし、親戚は誰一人として引き取ってはくれなかった。
保険金が下りたが、そのお金は幾ばくもなく、残された妹と弟二人の、三人の面倒を見なければならなくなった。
当時小学生だった彼が背負った、拷問とも言えるような宿命に、それでも彼は、敢然と立ち向かってここまで生きてきた。
(魔力はそれほどもたないから、そろそろ答えてくれないかなー?私としては、別にあんたじゃなくても、他の人探すからいいんだけど)
だから取引ではないという事か。
生きていてもあまりいい事はない気がしたが、残された妹と弟たちの事を考えるとそれも憚られる。
「お前に従えば、世界と俺は救われるのか?」
(女の子たちを救ってくれれば大丈夫よ)
「分かった、助けるから、助けてくれ!」