英雄?
暗くなりつつある森の中を、村に向かって歩いている。隣には、民族衣装に身を包んだルシェがいて、「暗がりではぐれると困るから」と言って手を繋いでもらった。本当はルシェに触れていたかったからなんだけどね。村まではそんなに距離はないけど、ルシェの事をもっと知りたい。二人きりでいられる時間もそんなに残ってなさそうだし、一番知りたい事を聞いてみるか。
「ルシェには恋人っているの?」
「フフ、どうしたの?そんな事聞いてきて」
「それはもちろん、気になったからさ」
「村のみんなの私に対する扱いを見れば分かるでしょうに。天地がひっくり返っても私と付き合いたいなんて思う人はいないわ。いるとすればよっぽどの変わり者ね」
ルシェは優しいと思う。俺といる時は特に。ただ、村の中だと怒った顔や困った顔を見せる事もあったな。 落ちこぼれと言われてる理由って魔法か。
「ううーん、魔法があまり出来ないってのは、エルフにとってはそんなに重要な事なの?」
「ええ。エルフにとってはね。それと狩りが出来るか出来ないか、そこはかなり重要になるわ。魔法がそれほど得意でなくても、狩りが上手で、頻繁に獲物を捕ってくる人は村ではかなり重要な人って事になるわね」
そうか。最初に出会った時に見せたルシェの行動からすれば、まあ仕方のない事かな。納得した。とりあえず恋人はいないって事が分かれば今はいいか。
「やっと戻って来たわね」
本当にやっとだ。まさかモンスターと戦う事になるなんて、思ってもいなかったもんな。
「あれ?なんだか村が賑やかなのは気のせいかしら?」
そう言われても普段の村の様子を知らないからなあ。
「あ!帰って来たぞ!」
門番の男の一人か、今叫んだのは。
「ただいまーって、何なの?この騒ぎは」
ルシェが不思議そうな顔で、門の近くの人たちに向かって話し掛けている。五人ほどが出迎えてくれてるのかな?落ちこぼれなのに待遇いいじゃん。
「お前さん達か、水源に行っていたのは」
おじいさんって感じの人が驚いた顔をして聞いてきた。ここはルシェに任せておくか。
「ええ、そうだけど?」
なんかこのおじいさん、ぶるぶる震えてるけど大丈夫かよ。
「よくやった!お前さん達のおかげで噴水に水が戻ったぞ」
あー、それでざわついてたのか。ってかそんな大層な事だったのか?
「そう、それは良かったわ」
「枯れかけていた井戸も、元の水量に戻ったみたいだ。本当によくやった!」
嬉しそうだなあみんな。それはいいとして、結構切羽詰まってたんじゃないか。よく俺とルシェだけで行かせたな、おい。ルシェが嬉しそうにしてるからいいか。
村の中に入ると色んな人から声を掛けられた。
「ありがとう。おかげで水の心配がなくなったよ」
そういう類の声がほとんどだったが、中にはこんなやつも。
「本当にルシェルが解決したのかあ?明日は矢が降らないといいな」
あからさまにバカにしたような顔で言ってきやがって。腹立つなあ。でもルシェは機嫌がいいのか、言い返したりしない。俺は気になるけど。
そんな歓迎?を受けながら長老の家に戻って来た。
「おじいちゃーん、ただいまー」
ルシェが入口の扉を開けて叫んだ。
「おお!お帰り!まさか解決して戻って来るとは!疲れたじゃろう?」
大体予想してたようなリアクションだなあ。まさか、なんだろうなあ、やっぱ。
「えへへ、ゆあみの途中に寝ちゃうくらいにはね」
「ほうほう、そうかそうか」
ああ、その辺の事に触れられると思い出しちゃうじゃないか。
「でも日詩がいてくれて良かったわ。私一人じゃどうにもならなかったもの。寝ちゃった時も、日詩が一緒に入ってくれてなかったら溺れちゃってたかも?」
あれえ、そこ言っちゃうんだあ。
「ほほう、一緒にゆあみしていたと。本当かね日詩くん」
うわー怖い!凄みながらこっちを見ないでー!
視点を主人公に固定してみました