湖畔
「日詩は入らないのー?」
ルシェが湖のほとりでゆあみをしている。
「うん、俺はいいよー」
日詩はそれを見つめていた。
数分前、モンスターを倒したルシェと日詩だったが、戦闘の代償として体中が汚れていた。
沢を転がったり落ちたりしたせいである。ルシェは綺麗好きなのか、再度ゆあみを提案してきた。
一も二もなく承諾すると、二人は沢の上流にあるホノボノレイクに赴く。
日詩はルシェが準備を終える前に(ただ着ている衣装を脱ぐだけだったが)さっさと汚れた部分だけを洗い流し、ルシェの裸体を心行くまで堪能する事にした。
本来、魔力が切れれば数十分は動けないらしいのだが、そんな常識はこれから起こる出来事に胸を馳せる日詩には通用しなかった。
そして、その野望は見事、今現在果たされている。
「すごく気持ちがいいのに、どうして入らないの?」
「魔力が切れちゃってるせいで、あまり動きたくないんだよ」
「さっきまですごく張り切ってたじゃない。ここに来るのだって早足で」
「あー、そのせいで疲れが出てるのかも」
ノリの悪い日詩にルシェは少し拗ねた様子を見せたが、再び体を洗い出した。
そんなルシェの姿を、食い入るように見つめる日詩の興奮はかなりのものだった。
素晴らしい。本当に素晴らしい。生きていて良かったと、何の迷いもなくそう思える。
こんなに綺麗な子が目の前で素っ裸で、夕焼け色の光を全身に浴びながら湖で体を洗っている。
夕日を受け金色に輝く髪が水を弾く様、瑞々(みずみず)しい肌を伝わる幾つもの水滴が滴る様、洗うために宛がわれる手が滑る度に形を変える胸やお腹など、見どころはいくらでもある。
エルフの女の子だから美しく映るのか、ルシェだからこんなにも心惹かれるのか、それは分からない。
一つだけ間違いなく言えるのは、今この瞬間は何にも代えがたい時間であるという事だ!
かつてないほどに日詩が一人で盛り上がっていると、ルシェの体が突然揺らめいた。
「キャアー!」
ドボンという音と共に、悲鳴を上げて水の中に沈んでしまったルシェを見て、日詩は即座に助けに入る。
「ルシェ!」
自分の腰付近まである水をザブザブとかき分け、沈んでしまった場所まで来ると、突然何かに足を掬われて水の中で転んでしまった。
バシャッ
慌てて起き上がると、目の前にはしたり顔で笑うルシェの姿があった。
「アハハハハ、引っかかった、引っかかった!」
「なっ!ビックリさせやがって、この!」
日詩は追いかけようとするが、ルシェは機敏な動きでそれを躱し、なかなか捕まえる事が出来ない。
しかし、はしゃいで逃げ回るルシェが「アッ」という言葉と共に、足をもつれさせて水に沈むと、日詩は「捕まえた!」と言って、ルシェを水の中から抱き上げた。
その際に思い切り胸を掴んでしまったが。
「フッフッフ、悪い子にはお仕置きが必要かな?」
胸を掴んでいる手に意識がいってしまい、何も考えずについそんなセリフが口を吐いて出た。
それに対してルシェはしおらしいほど大人しく、日詩の腕に抱かれたまま優しい口調で、じっと目を見つめてこう言ってきた。
「絶対助けに来てくれると思った。日詩はどうしてこんな私に優しくしてくれるの?」
潤んだ瞳を間近に受けてしまい、日詩は一瞬何も言葉が出てこなかった。胸は掴んだままである。
いや、もうここで言葉なんかいらないと、脊椎反射のような勢いでガバッとルシェを抱きしめた。
そしてルシェの耳元で、ハッキリとした口調で告げる。ただし、胸は掴んだままで。
「好きだからだよ。好きになったから。たぶんだけど、他のエルフの子に会ってもルシェより好きにはならないと思うんだ。優しいし、最高に綺麗だし、ふと見せる仕草の一つ一つがどれを取っても可愛いし。もうドキドキさせられっぱなしなんだ」
想いを伝えた!ルシェの答えは!?
抱きしめる力をゆっくりと緩めて、ルシェの顔を覗き込むと・・・
「クウー」
そこには穏やかな顔で眠っている美少女がいた。