魔法3
ルシェの後ろ姿を、ドキドキしながら眺めて付いていく。
最初に会った時はただのドジっ娘エルフだと思ってたのに、今は目の前を歩くルシェの事で頭が一杯だった。
天気がいいので、木々のあまり多くない所では木漏れ日が当たって非常に気持ちがいい。
小鳥たちが奏でるハーモニーも耳に心地よかった。
空気も、森であるためなのか、それとも単に汚される程の工業施設がないためなのかは分からないが、とても澄んでいて、つい何度も深呼吸してしまっていた。
「すごくいい世界だね」
心の内を素直に吐き出すとルシェは振り返り、笑みを浮かべてお礼を言ってきた。
「ありがとう。日詩の世界はどんな感じなの?」
どう話したらいいものか、少し考えてから日詩は答える。
「人が多い、かな。ここの世界にどれだけの人口があるかは分からないけど、俺の世界では七十億人以上の人が住んでるんだ。ルシェのいる村みたいなのがたくさん集まって町になって、それがどんどん大きくなると市、都道府県、国って単位になる。俺のいた国での話だけどね。そんな事言われてもピンとこないだろうけど」
ルシェは日詩の話を黙って聞いている。話の聴きやすい位置を選んで、肩を並べて歩いていた。
その表情を伺うも、興味があるのかないのか、面白いのか面白くないのかは分からなかった。
それでもルシェは「続けて」と、続きを催促してきた。
「あと、技術がすごく発達してる。例えば移動の手段なんだけど、自転車という乗り物があって、次にオートバイ、自動車、電車、飛行機といった具合で、用途によってそれぞれ乗り分けるみたいな感じ。火も、魔法なら何もないとこから出せるけど、魔法のない俺の世界ではマッチとかライターといった便利道具があるんだ」
考え付いた事を一通り言い終わって、日詩はそこで話を切った。
「とまあ、大まかな違いはそんなとこだよ。魔法の代わりに便利な道具が作られてるってね」
「すごいわねえ。どんな世界なのか、まるで想像がつかないわ。私も日詩の世界に行く、なんて事がこの先あるのかしらね」
「どうだろうなあ。俺をこの世界に送った声の主なら、もしかしたらそれくらいの魔力はあるのかもしれない。いつか、一緒に行けるといいな。見せたい景色がたくさんあるんだ」
そう言って日詩が思い浮かべたのは、学校の屋上から見渡す夕暮れ時の街並みや、透き通った青空に地平線が浮かぶ大きな海、雪明りの中で降りしきる雪を眺めながら歩く街路灯の下だった。
「そっかあ。楽しみにしてる。いつか一緒に行ける事を」
ルシェはこちらを向いて笑顔でそう言ってくれた。
そしてフフッと笑うと、言葉を続ける。
「でも今は、水不足の件を解決しなくちゃね」
ウインクを一つ見せて、ルシェは再び前を向いて歩き出した。
まだこちらの世界ではルシェにしか年頃の子には会っていない日詩だが、その仕草の一つ一つにドキッとさせられ、ルシェ以上に好きになるような子はいないのではないかと思えた。
森の中をどんどん進んでいくと、水が流れる音が聞こえ始め、やがて沢が見えるとルシェは足を止めた。
どうやらここが目的の水源地らしい。
「ちょっと待っててね」
そう言ってルシェは、沢の水の穏やかな場所の一点を目掛けて、急斜面を少しずつ降りて行った。
斜面に負けずに力強く自生している一本の太い木の幹に体を預け、ルシェは水面に向かって手をかざし、魔法を行使した。
すると、水の溜まりがみるみるうちに上空へ上っていき、溜まり場の底がハッキリと見えるようになった。
その様子を見た日詩は、驚きの声をあげる。
「おお!すごい!」
これだけの事が出来るというのに、それでもルシェは落ちこぼれと言われてしまうのか。
村一番の魔法の使い手と言われる、ルシェのおじいちゃんである長老が本気で魔法を使ったらどうなるんだろう?と思うと、鳥肌が立った。
溜まり場の底を確認しているルシェは、「うーん」と軽く唸ると、日詩に向かって叫んだ。
「ちょっと降りてきてくれるー?日詩の力が必要なの」
「そうなの?今行くよ」
自分が役に立てるとは思わなかった日詩は、喜び勇んで斜面を滑り降りた。
丁寧な説明を心掛けてみました
まだ足りないかもしれませんが(汗