魔法2
「だが断る」
「え?」
指をこちらに突き付けたまま固まるパロル。
そんな様子を意に介さず日詩は続ける。
「断るって言ったんだ」
「そんな!どうして!流れからいってここは戦うもんじゃないの?」
「知らん知らん。大体お前、俺は魔法のない世界からきたってのに、魔法を使って戦ろうってんだろ?そんな誰が考えたって勝ち目のない勝負、受けるわけがあるかよ」
「いやでも」
「でもなんだあ?どうしても戦ろうってんならお前、魔法使うなよ。それが公平な勝負ってもんだ。男なら汚い勝負はしないよなあ?」
パロルの頭上からすごみを利かせて言う日詩。
「は、はい」
五分後
「これに懲りたらあんまり生意気な口利くなよー」
泣いて逃げ出すパロルの後ろ姿に、日詩は声を掛けた。
そんな日詩を見てルシェが呟く。
「ちょっとやりすぎなんじゃ・・・」
「ああ、ごめん。ルシェをバカにされると、なんか腹が立つというかなんというか・・・」
「フフ、ありがと」
お礼を言われると照れるものがある。
それはそれとして、日詩は魔法というものが気になった。
「さっきの続きだけどさ、俺も魔法を習いたいんだけど。コツみたいなのってあるの?」
「そうねえ」
考える仕草をするルシェ。
「一番大事なのは、自分が使いたい魔法を、強くイメージする事よ。きっと、日詩が最初にファイアーボールを出した時は、火の玉をイメージしたでしょう?」
「うん」
「どれだけ強くイメージしたか、それと使用する本人の魔力次第で、魔法の成否、あと強力なものになるかどうかが決まるわ」
「なるほど。ちょっと練習してみてもいい?」
「そうね。じゃあ水源地に向かいながら行きましょう」
村の出口に向かって歩く。
途中、他の人たちから奇異な目で見られたが、学ランズボンにワイシャツという姿、それに耳が尖っていないので無理もなかった。
日詩は気になってルシェに声を掛けた。
「なあ、俺の恰好なんだけど、村の人に合わせた方がいいのかな?落ち着かなくて」
「そうねえ。帰ってからにしましょ。ここからまた戻るのなんて面倒だもの」
確かに。そこまで大きい村ではないようだが、ルシェの家から出口までは歩いて十分ほどかかった。
村を出てまた森を行く二人。
歩きながら日詩は、魔法を試し打ちしていた。
「風よ、吹け!」
そよそよ~
「ウォーター!」
ポタッ
ショボい結果に見かねたルシェが、日詩にアドバイスを送る。
「きちんと強くイメージしてる?それに、いちいち声に出さなくても魔法は発動するわよ」
「あ、そうなんだ?そう言われるとルシェもパロルもそうだったもんな」
次はあの木の枝に向かってやってみるか。
「火だけは出さないようにね。こんなところで火災なんか発生させたら、処刑されるわよ」
「それくらい分かってるさ」
あぶねー。もう少しで出すとこだったわあ。
日詩は鋭い刃を強く、強くイメージして、木の枝に向かって腕を振り上げる。
ザッ・・・バサッ
それは思った通りに成功して、枝が鋭利な物で切断されたように、綺麗な断面をもって地面に落下した。
「おお!大成功!」
「やるわねえ。ちょっと教えただけなのに」
感心するようにルシェが落ちた枝を拾い上げる。
「いやあ、ルシェの教えが良かったせいさ」
「日詩は筋がいいと思う。磨き上げれば、私より強力な魔法が使えるんじゃないかしら」
「そうかな?」
「ええ。でも使いすぎは禁物よ。体の中にある魔力を使い切ってしまうと、しばらく動けなくなるから注意してね」
「分かった。そういうもんなんだな、初めてだから分からない感覚だけ・・・ど?」
腰から下にかけて、力がフッと抜ける感じがした。
危うく転びそうになったところを、ルシェに抱きかかえられる。
「よっと。ね?今みたいに力が入らなくなるのよ」
「あ、ああ」
近い。
至近距離で見つめられ、言葉と共に吐息がかかる。
日詩はドキドキが止まらなかった。
「さ、行くわよ」
再び二人の体は離れて歩き出した。
あれえ?俺ってかなりチョロいかも・・・と、思う日詩だった。