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第六章 国境と戦と奇策 その三



 暗い森の中、皆が息を潜めていた。

 やっと東の空が明るくなり始めた頃、ヒースの副官が自分の上司へと急ぎ報告する。


「ブレイズ将軍、国境砦より合図がありました。全軍、いつでも出陣できます。」

「やれやれ、やっと出番か。」


 馬上でヒースは肩を竦める。

 三日前、帝国軍の奇襲を国内で受けた後、ヒースはテオドルが連れた二千騎を除き生き残った軍を連れて、奇襲した地点から一度退避した後、道筋を変更し、昨夜からこの場所に潜伏をしていたのだ。


(全て王子の言うとおりになったか。賞賛通り越して恐ろしいわ。)


 事の始まりは王都を出た日の夜、ヒースは自分の天幕で一服をしていた。そこへ音もなく現れたのはハーシェリクの筆頭執事だった。音も気配もさせず現れた執事に、ヒースは驚いたが取り乱すことはなかった。戦場での経験が長いヒースは、王子と初めて会ったあの場に現れた彼の腹心達が、只者ではないと解っていたからだ。


 烈火の将軍の子息のオクタヴィアンは旧知の仲だったし、度々何かと王城内で問題を起こすヴァイスは魔法局の連中が揃って天才だともてはやしたのは知っていた。だが、執事だけは情報が一切ない。ただ裏で生きる者の独特な雰囲気を元傭兵のヒースは感じ取っていた。


 彼に誘われるまま森の中へと入り、左右に騎士と魔法士を控えさせたハーシェリクと出会った。そこには城で見たような穏やかであどけない王子ではなかった。


「夜分にお呼び立てしてすみませんブレイズ将軍。お話しておきたいことがあります。」


 そうハーシェリクは切り出した。


「ヒースで構いませんよ、王子。あと自分は傭兵上がりなので畏まった口調が苦手で粗相があるかもしれないが、勘弁してもらえると助かります。」

「ではヒースさん、と呼ばせてもらいます。口調は私も畏まられるのは苦手なのでお好きに。」


 そう言うヒースにハーシェリクも頷く。そして本題を切り出したのだ。


「今回、もしかしたら国内で帝国軍の奇襲を受けるかもしれません。」

「……国内で?」


 ヒースは敬語も忘れ、おうむ返しにハーシェリクに問う。ハーシェリクはヒースの問いに気分を害すこともなく頷いた。


「ここからは私の予想……最悪を想定した場合の予想です。」


 行軍中もしかしたら帝国軍の奇襲を受けるかもしれないということ。自国が入手した帝国軍の情報は誤りがあり、想定以上の大軍が待ち構えている可能性があるということ。


「王子、すみませんが一服しても?」


 ハーシェリクの話を聞き終えたヒースは髪を乱すように頭を掻いた後、そう言って王子に許可を貰い魔法で煙草に火をつけ加える。息を吸い込み吐き出すと、辺りに煙草の匂いが充満した。だがそれも一瞬の事で、王子のすぐ隣にいた魔法士が眉を顰めて魔言を唱えると、辺りに一陣の風が吹き、煙草の煙も匂いも流された。


「……正直に申しまして、信じられませんな。」

「ヒースさん……」

「証拠も根拠もなしに王子の事を全て信じるほど、俺は忠誠心があるほうではないんでね。」


 この場に口煩い副官がいたら、後ろからどつかれることを言い、ヒースは再度煙草を咥える。その様子にヒースと知り合いのオランは苦笑を漏らすしかない。


 ハーシェリクは今後起こりうるかもしれない事を話したに過ぎない。なぜ、それが起る可能性があるのかは一切話していない。


 紫煙を吐きながらヒースは言葉を続ける。


「まあ、ある程度予想は出来ますがね。王子が理由を言えない、ということも。」


 ヒースは面倒臭がりだが馬鹿ではない。だから王子が何を懸念していて、そして何を言えずにぼかしているか、なんとなく予想は出来た。


 だがあえてヒースは言葉にする。


「俺達は兵士だ。命を賭け、命を奪うことが仕事だ。だからお上が戦えというなら戦う。けど、何百、何千の命を玩具のように扱われたら、職務怠慢な俺でも腹が立つというものだ。俺達兵士は、王族や貴族の玩具じゃない。」


 ヒースは咎めるように言葉を紡ぐ。不敬罪と言われても申し開きできない言葉を、ハーシェリクはただ受け入れた。筆頭達も何も言わず沈黙を守る。


 そして再度煙草を咥え、吸い込み息を吐くと脱力したように肩を落とした。


「で、ハーシェリク殿下は俺に何を?」

「……話を信じて、くれるんですか? 証拠も、根拠も話せないのに?」


 目を丸くするハーシェリクにヒースは苦笑を漏らす。さきほどまで大人のような表情をしていたのに、年齢相応の表情をするその落差が激しく、つい漏れ出た笑いだった。


「お上に逆らえないのが勤め人の悲しい性ですからね。それに殿下は俺達を悪いようにはしないでしょう?」


 軍内でハーシェリクの評判は高い。それこそ先だっての教会の事件を解決したということもあるが、今回の行軍での王子は一般の兵士達に受けがいい。


 まずは王子が一般の兵士と同じ物を希望した為、食事の事情が改善されたことだった。行軍に参加する兵士の食事は質素だ。逆に貴族達の食事はそれよりも豪勢になるのが常である。だが一番地位の高い王子が一般の兵士と同じ食事をとるとなれば質を上げねばならないし、そうするには今までかさんでいた貴族達の食事の予算は削るしかない。貴族達は自分の金を持ち出すなら問題はないが、王子が質素な食事をしている手前、そのような行為は憚られる。


 次に王子は誰に対しても気さくだった。分け隔てなく兵士達の言葉に耳を傾け、会話を楽しむ。そして他の貴族達のように見下したりはしない。


 ハーシェリクにとっては普通のことだったが、兵士達の間では王子の評判は鰻登りだった。


 そんな王子が、他の貴族達のように自分達を利用するだけとは考えられなかったのだ。


「ありがとう、ヒースさん。」


 そう素直に礼を言うハーシェリク。一般常識から考えて傭兵出の自分に素直に礼をいうなんて王族らしくない。王族らしくない振る舞いをするハーシェリクをヒースは信じることにした。


 そして王子の言った通り奇襲を受けたが、あらかじめ第二軍の部隊長にはそれとなく伝えてあった為、無用な混乱を避けることができたのだ。


 さらに帝国軍には王国軍が瓦解したという情報を、手に入れた帝国軍側の通信魔法具で偽装し流してある為、帝国軍は完全に油断をしている。おかげで気取られることなく森に潜むことができた。あとは王子側の準備が整い次第、帝国軍へ奇襲をかけるだけである。


 王子の配慮は軍にだけではない。予め、帝国の奇襲部隊が通るであろう順路を予測し、その進路となるいくつかの村には、傭兵ギルドの面々を使って避難を指示している。


 以前ヒースは傭兵ギルドに属していた為知っているが、傭兵ギルドは国に取り込まれることを厭う。彼らの性分は自由なのだ。生活が国に保障されない代わりに国にも束縛されない、義理と契約と報酬が彼らの信用するものだった。


そんなギルドがなぜ王子の為に動いたかわからなかった。


「ちょっと彼らと一緒に行動したことがあって……」


 そう詳しくは語らないハーシェリク。ただその言葉から王子が傭兵ギルドに対して、なにかしら手助けをしたのではないかとヒースは予想する。そして傭兵ギルドはギルド長をはじめギルド員皆が義理がたく、恩には恩で報いる性質なのだ。


(貴族嫌いなあいつが手をかすとはな。)


 傭兵時代のかつての顔見知りであり、現在はギルド長を務めている人物を思い浮かべる。彼は貴族が大嫌いな人種だった。そんな彼が貴族の上、王族に手を貸している事実は興味深い。


(しかし敵は多いな……)


 ヒースは現在の状況を頭の中で確認する。

 帝国軍は十万の軍勢。当初の情報の十倍だ。それに対し自分は約一万六千。完全に不意をついたとしても数の劣勢は覆らない。


(さて、どうやるか。やはりここは……)


 ヒースが結論をだし指示を出そうとした時、近づく者がいた。


「ヒースさん。」

「どうした、三男坊。」


 ヒースが視線を向けると、真紅の鎧をきた元上司であり『烈火の将軍』と異名を持つローランドの息子である青年がいた。仕事の関係で何度かオルディス侯爵家へと足を運んでいたヒースは、その家族とも付き合いがある。特に息子たちとは、強請られて手合せもした。その中で一番才能を感じさせ印象に残ったのはこの三男である。


「……その呼び方、やめてくれません?」


 戦場だというのに気負った様子無く苦笑を漏らす三男……オランにヒースは頭をかいた。


「悪い悪い。で、オクタヴィアンなにかな?」


 ヒースの言葉にオランは苦笑を一転、表情を引き締めた。


「俺に精鋭千騎、預けてくれませんか?」

「……総大将の元へ突撃する気か?」


 オランの進言にヒースも表情を改める。それは万の兵士を預かる将軍の顔だった。


「はい。」

「捨てる兵はない。」

「解っています。」


 オランの進言をヒースは言葉の刃で切り捨てたが、オランは退かなかった。


「しかし時間がかかれば、奇襲とはいえ劣勢は不利になります。だから早期決着を付けます。」

「それはわかっている。だが相手の総大将は奥の配置だろう。精鋭でも難しい……なんて言葉じゃ足らん。奇襲をかけてある程度戦力を削ったら国境砦へと引き返し、あとは長期戦に持ち込んで援軍を待つか相手が引き上げるのを待つのが常套だ。」


 物資も確保してある。王都からの援軍を二週間としても、凌ぐことはできるだろうとヒースは思っている。逆に帝国軍の兵糧は無限ではない。今回の奇襲で兵糧に火を放ったりして物資を削れれば、十万もの大所帯を維持は難しくなり、撤退するしかなくなる。勝てなくても負けもしない。それが『不敗の将軍』と異名を持つヒースが考えた策だった。


 だがオランはヒースに首に横に振る。


「それだと時間がかかりすぎる……時間がないんです。」

「時間がない?」


 ヒースの問いをオランはあえて答えず、ヒースの目を真っ直ぐと見据える。


「絶対に俺は負けません。」

「……わかった。近衛と俺の部隊の精鋭を連れて行け。死ぬなよ。」


 真剣な瞳にヒースが折れ許可を出し、オランは不敵に笑って見せる。


「もちろん。あと足の速い馬をお願いします。ヴァイスいいか?」


 そうオランに問われた人物は頷く。ただその絶世の美貌を持つ彼の表情は、とても機嫌がよくは見えない。泥で汚れた衣服や長い純白の髪が彼の不機嫌さを物語っていた。


 そんな彼を見て、ヒースは奇襲を受けた時のことを思い出す。

 奇襲を受けて陣形を整えつつ指示を飛ばしていると、轟音と共に視界を光が覆った。そして光が止むと目の前には薄い水色の結界と、呆然とした自軍の兵士達、そして炭と化した帝国兵の死体だった。


 ヒースは何が起こったのかはわからなかったが、合流したオランが言うには、筆頭魔法士の広域魔法により文字通り敵の奇襲部隊は一人の残らず殲滅されたのだった。その上味方には被害が出ぬよう結界を張った為、魔法による被害は自軍には一切出ていない。おかげで被害も最小限に止める事も出来、さらに王国軍は壊滅したという偽りの情報も流す事も出来たから、今回の奇襲が出来るのだが……


(あの執事に、オルディス候の三男坊、さらにはこの魔法士……あの王子、一体何者だ?)


 三者三様の傑物達。それも一癖二癖どころか、個性が強すぎる三人が忠誠を誓うあの王子に、どちらかといえば淡泊な性質のヒースの興味は募るばかりである。


(いいねぇ、今度一緒に酒でも飲んでみたいねぇ……ってまだ子供か。)


 ククク、と喉を鳴らしつつヒースの意識を魔法士に戻す。


「要は、敵軍司令官までの道を作ればいいのだろう?」


 さも当然のように、絵物語に出てくる魔神のような魔法を展開した彼は、まるで天気の話をするかのように言った。






 鬨の声が響き渡った。なだらかな丘を王国の騎兵が帝国軍の本陣に向け突進していく。その様子を国境砦にいる者達は、ハーシェリクとクロを除き、声を上げる事も出来ず見入った。


「あれは遠征軍、ですか?」

「うん、遠征軍。さすが『不敗の将軍』、絶妙な位置取りだね。」


 ロイの驚愕する様を見つつ、高台からその様子を見下ろしたハーシェリクは答える。


「だって瓦解したって……」

「あれ嘘。」

「え?」


 さらりと言ったハーシェリクに、ロイはキョトンとする。


「軍の中にも帝国に通じている人間がいるのは解っていたからね。だからそれを利用させてもらったよ。」


 敵を騙すならまずは味方からということだ。ハーシェリクの言葉にクロも頷く。


「簡単に信じたな。まあそうなるようにはしたが。」


 密偵の真骨頂である情報操作。クロは証拠を見つける片手間で見事に果たしてくれた。


「だけど軍の差は……」


 確かに兵力の差はある。素人でも現在の状況はよくないと解ってしまうほど、敵軍との差は大きいのだ。それはハーシェリクが見ても解った。


「うん、だけどね。戦を早く終わらせる方法は結構単純なんだよ。ね、バルトルト将軍。」


 ハーシェリクが言葉を投げるとバルトルトは数拍考えた後、目を見開く。


「……殿下、まさか?」


 ハーシェリクはその答えににやりと笑った。


「どんな屈強な勇者でも、頭を失えば動けない。それは軍隊も同じ。」


 某アクション戦ゲームでも相手の大将を討ち取れば、そこで勝敗は決する。ただし現実はゲームではないのでそう簡単に大将を討ち取ることは難しい。


「そんな、さすがにこの大軍の中、敵の総司令官を討ち取ることは不可能です。」

「そうだね。これは普通の戦だったら難しいね。」


 バルトルトの言葉にハーシェリクは頷きつつ、言葉を続けた。


「だけどね、これは普通の戦じゃないんだよ。」


 帝国軍は己の勝利を疑っていない。帝国軍の数が王国軍を圧倒的に上回っているということと、バルバッセとの取引で約束されているからだ。この場は戦場と見せかけた、帝国とバルバッセ大臣の商談の席でしかない。始まる前から勝敗は決していると思い込んでいる相手の指揮官。それは大きな油断だ。

 それにこちらには、相手の知らない戦力がある。


 油断した敵軍、壊滅したと思われている自軍、完璧な奇襲返し、不敗と呼ばれるブレイズ将軍……そして自分の筆頭達。


 ハーシェリクは最悪を想定し、それに対して策を立てた。奇襲されたことさえ利用する奇策。その策の結果がこの戦場で出る。


(あとは彼ら次第だ。)


 できる事は全てやった。あとは自分の腹心達を信じるのみ。


「大丈夫。だって私の騎士と魔法士がいるんだから。」


 そう言ってハーシェリクは、いつも通り笑ってみせた。





 

 奇襲は成功した。だが敵の数が多く、時間が経つにつれ陣形が整えられ防御を固められてしまう。だがそれがオランの狙いだった。兵の層が厚くなる先、そこが本陣なのだ。

 それを見極めた瞬間、敵軍を一直線に切り裂くように風が走った。風が多くの帝国軍を切り裂き巻上げ、そして木の葉のように散らし、総司令官がいる本陣までの一直線の道を作る。それが個人の魔法による攻撃だと気が付いたのは、戦後の事だと兵士達は語る。


 戦場にも魔法士は存在する。それは攻撃の魔法士だったり、通信などの補助をする魔法士だったり様々だ。有能な上級魔法士なら一回の魔法で一部隊を屠る事もできたが、たった一撃の魔法で本陣までの道を作ってしまうほど、実力のある魔法士は存在しなかった。

 だがハーシェリクの筆頭魔法士であるヴァイスはそれを容易くこなす。


 そんな常識はずれな魔法士が作った道を駆ける者がいた、人を斬れば斬るほど切れ味が増すという剣を片手に、騎士が己の目の前に飛び出してくる敵を馬の疾走を止めることなく命を刈り取る。黄昏色の髪を紅く染め、深紅の鎧をさらに赤く染め上げた。彼に続く千の騎兵が後方から続いているが、オランは背後を気にせず一人敵軍を深く貫く。


 途中名乗りを上げた将軍らしき逞しい男も、彼の白刃で命を奪われる。斬ったその将軍は帝国でも有数の武人だったが、オランは気にも止めず馬を駆け、背後に遺体の道を築きあげた。


 ついに本陣に辿りついたオランは引き連れた精鋭達が敵兵を阻んでいる間、恐怖で固まった総司令官に、血を吸い赤く染まった剣の切っ先を向ける。


「選べ。捕虜か、もしくは死か。」


 オランの短い問い。総司令官であるディック・イオル・リンクスの答えは決まっていた。





 王国軍から歓声が上がる。それと同時に自軍から勝利を報せる光球が上がり、宙で花火のように散り消えた。敵軍からは戦闘の停止だろう同じような合図が上がっている。戦闘開始して一時間も経っていなかった。


「……うん、私は短期決戦で行けっていったよ、うん。」


 ハーシェリクはぽつりと呟く。

 いくら奇襲したとしても数は圧倒的不利。だから相手が完全に陣形を整える前に勝たなければならないとは言った。そしてそれはオランもシロも同意した。しかし、まさかここまで超短期決戦をするとは思ってみなかったのだ。ハーシェリクは実際の戦場での行動は全てオランに任せた為、彼らがどう動くかは知らなかったが、遠目で見ても彼らが何をしたのかわかった。


 王国軍は一部隊を背後に残し帝国軍に奇襲をかける。指揮をしたのはヒースだろう鮮やかな手際だった。帝国軍は奇襲を受けて浮足立ったところをヒース率いる王国軍は攻める。


 しかし相手も攻められてばかりではない。帝国軍は陣形を整えて本陣を守ろうとする。しかしそれが本陣の目印になった。

 そこへシロが陣形無視、ついでに防御結界無視の風魔法をぶっ放して敵軍を吹き飛ばし道を作った。その道を背後に控えていた一部隊が突撃していき、あっという間に本陣を制圧したのだ。たぶん突撃したのはオランだろうとハーシェリクは予想する。


(なんつー力技……ていうかチートか。)


 自分の部下達のあまりにも常識離れした実力に、ハーシェリクは乾いた笑いが込み上げる。

 確かに自分は筆頭達を信じている。そして自分の奇策は成った。だがそれとは別に、彼らの実力が現実離れしていて乾いた笑いしかでない。


「言葉通りだっただろ?」


 乾いた笑いをする主に、当然のように答える執事。この事態を当然だと思っていること自体、彼も常人離れしているが、ハーシェリクは口には出さなかった。彼らを従えるハーシェリク自身も常人離れしているが本人は気が付かない。

 笑いを納めハーシェリクは一度深呼吸をする。そして段々と収まっていく戦場を見つめ安堵した。


「とりあえず、この戦は私達の勝利だね。」


 そう呟く王子の様子をすぐ横で見ていたロイは、生涯忘れることはないと直感した。


 日の出と共に差し込んだ光がハーシェリクの横顔を照らし、端正な顔立ちを神々しくみせる。まるでこれからの時代を象徴するかのような光のような存在に、ロイは目を細めたのだった。




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