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序章 とある公国と密書と嵐の予感

【注意:この作品は『転生王子と白虹の賢者』の続編です。前作を先に読むことをお勧めします。】





 この大陸には大小いくつもの国が存在する。その中でも大きな国は東西南北に一つずつ。


 一つ目は南の連邦、ルスティア連邦。人を除く獣人族や亜人族等多種族が各々に国を作り、同盟を結んだ国である。


 二つ目は東の軍国、フェルボルク軍国。軍国主義でありまた実力主義であるこの国は、軍事力により周辺諸国を飲み込み、驚くべき速さで国土を拡大してきた国だ。


 三つ目は西の帝国、アトラード帝国。皇帝を頂点に置いた独裁国家は大陸では二番目に古い歴史を持つ。その歴史から国内はいくつもの派閥が存在し権力争いが勃発していたが、数年前に前帝が身罷り、即位したばかりの若いが皇帝がその有能な政治手腕を発揮し、国の内部を平定した。


 そして最後、北の大国と呼ばれるグレイシス王国。大陸で一番古い歴史と広大な国土を有し、それに見合う軍を持つ大国は長い年月の間大陸で随一の強国。だが近年、その名声にも陰りを見せる。長く平和と言うぬるま湯に浸かった王国は、内部より腐敗していった。貴族達が専横し、王は暗愚となり国は傾くばかり。周辺諸国からは『憂いの大国』と囁かれていた。





 パルチェ公国は北と西は海、東をグレイシス王国、南をアトラード帝国と二つの巨大な国に隣接する海洋国家だ。

 パルチェ公国はパルチェ公爵を頂点とし、貴族達を主とする貴族院、民衆代表を主とする衆議院の二つの議院よって成り立っている。貴族と民衆が共に手を携え協力し合い、時には意見をぶつけ合い、貴族と民衆が切磋琢磨しあう国。パルチェ公爵は国の頂点というよりは議長という意味合いが強く、貴族と民衆の橋渡しをし、意見の取りまとめ役だ。

 パルチェ公国は貿易と外交に長け、長年王国と帝国に挟まれつつもどちらの属国とならず両国と友好な関係と距離を保っていた。


 現パルチェ公爵でありパルチェ公と呼ばれる人物は、御年七十を迎えようとしている老年の男だった。その男は目の前のテーブルに置かれた二つの手紙を読み終え、顎に蓄えた髭を撫でつつ唸った。

 側に控えていた貴族院の代表の眼鏡をかけた妙齢の女性も、衆議院の代表の壮年の男性も似たような面持ちで手紙を凝視している。


「さて、どうしたものか。」

「……言うとおりにするしかないのでは?」


 貴族院代表の女は、神経質な手つきで眼鏡をかけ直しつつ手紙の片方ととる。


「ここに書かれた通りにするだけで、パルチェは彼らに恩を多く売れます。」

「でも本当にいいのかな?」


 そう口を挟んだのは衆議院の代表である無精ひげを生やした男だ。彼は衆議院の代表だが海の男でもある為、肌は小麦色に焼けていて上等な衣装に身に包んだ彼は少々違和感があった。だが本人はそんなことなど一切気にせず、テーブルに残っていた手紙を手に取る。


「長年いろんな国とやり取りをしてきたが、こんなこと始めてだ。……とても面白い。」


 にやりと笑う彼は、壮年だというのにまるで少年のような雰囲気を醸し出す。だがその様子に女は不愉快な表情で眼鏡をかけ直した。


「国と国とのやり取りに、面白さは関係ないのでは?」


 鋭く冷めた女の言葉に男は意味ありげに笑って見せる。


「貴女も解っているだろう? この密書自体、いろいろと面白い。」


 そう言って男は手紙をひらひらと揺らした後、テーブルの上に落した。


「グレイシス王国に嵐がくるぞ。」


 その言葉に絶対の自信があるのだろう男は愉快そうに笑い、女は不愉快気に視線を逸らした。だが彼女も解っていた。この男がこの場でふざけた発言に見せかけて実は的を射たことをいうことも、この手紙が今後の自国と王国との関係に深く関わって行くことも。


 女はパルチェ公に視線を移す。


「公、いかがしますか? 内容が内容ですし議会を招集することはできませんが……」


 彼女の言葉に、パルチェ公は眉間の皺を深く刻む。そして結論を伝える。


「……よろしいので? これはある種の賭けですよ。公は、賭け事はお嫌いでしょう?」


 男が面白そう問う。パルチェ公は皺の深い顔にさらに皺を刻み、頷いた。







 夕暮れ時、外部から完全に遮断する結界の施された部屋にいるのは執事と騎士と魔法士、そしてその主の四人だ。

 執事は不機嫌そうに顔を歪め、騎士は心配げな表情で落ち着かないのか佩いた剣の柄を握ったり離したりしている。魔法士はソファに座り無表情だったが、近しい者なら彼の表情は固いということが解った。

 その魔法士がまず口を開いた。


「なぜ、おまえばかり危険な目にあわなければならない?」


 その魔法士の言葉は、執事と騎士の内心を代弁していた。現に三人は三者三様の視線を椅子に座った主に向けていたが、その全ての視線は主を気遣いつつも咎めていたからだ。

 三人の視線を浴びた主は、腹心達に首を横に振る。


「私はやめないよ、絶対に。」


 そう断言する。そんな主を見て最初に折れたのは騎士だった。


「言いだしたら聞かないからな……諦めろ。」


 騎士の言葉に魔法士は、視線は動かさず先の主を穴が開くほど睨みつけ口を再度開く。


「納得いかない。」


 それも主を除く、この場にいる者達が思ったことだった。三人の中で新参者である魔法士は、主が何を好んで自ら危険に飛び込んでいくのか理解ができなかった。だがそれを否定するのもこの場にいる者だった。


「違うだろう、ハーシェがやりたいからだ。」


 不機嫌な表情のまま、諦め口調でため息を漏らしながら言ったのは執事だ。三人の中で一番の古参となる彼は、主の性格も性質も熟知していた。


「常日頃散々ハーシェの世話を焼くのに、いざという時は止めないのか?」


 馬鹿にしたような魔法士の口調に、執事の眉がピクリと動く。そして冷徹な瞳が魔法士を映した。


「黙れ、魔法狂い。」

「……燃やすぞ?」


 執事の言葉に魔法士が青筋を立てて睨みつける。そんな様子に間に立っていた騎士はうんざりしたように肩を竦めた。


「俺を挟んでやらないでくれ。頼むから。」


 以前、喧嘩を始めようとした二人を止めに入って痛い目を見たのは記憶に新しい。それ以後は周りに被害が出ないようにだけは気を付けるだけで、放置することに決めている騎士だった。


 執事は魔法士から視線を外し、主を見据える。


「だが、魔法馬鹿のいうことももっともだ。やはり俺が奴を……」

「だめだよ。」


 執事の言葉を主は遮った。


「それは絶対だめだ。それじゃ意味がないんだ。」


 主は強く言葉を重ねる。そして一度瞳を閉じ開くと、自分の腹心達を見た。


「心配をしてくれてありがとう。でも私には皆がいるから大丈夫。」


 主はいつも通りに微笑んでみせる。その微笑みに、腹心達は何も言えなくなった。

 主は全く疑わず、彼らに絶対の信頼を寄せていることが、誰の目から見ても明らかだ。


「だから、私に力を貸して欲しい。」


 続く主の言葉に腹心達は頷くしかなかった。





大変長らくお待たせしました。

転生王子シリーズの第四弾、光の英雄編がスタートです。初期頃考えていた話の最終章となります。今回はいつもよりもシリアス成分多めです。


更新は不定期になっております。ごめんなさい。

面白いと感じて頂けましたら、お気に入り・評価を頂ければ嬉しいです。

感想は物語が完結したのち解放いたします。

活動報告やコメントではしばしネタバレがある場合がございますので、閲覧の際はご注意ください。またコメントを残して下さる方は、他の方への気遣いを忘れずにお願いします。

誤字・脱字は時間が空いた時に直していきますので、生暖かくスルーして頂ければと思います。


では楽しんで頂けたら幸いです。


楠 のびる

2015/02/15


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