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 突然、大きな波が右側から押し寄せてきた。それは白い道を軽々と飛び越えて子どもを水の中に引っ張り込んだ。子どもはなすすべもなく水に落ちて、そのまま沈んでいきそうになった。けれどもすぐに波は落ち着き、子どもはぷかりと水面に浮かんだ。白い道はすぐ目の前に見えていた。子どもは波が右から来たことを思い出し、自分が道の左側に落とされたことを考えた。ではまた歩き始めるには今見えている道の左へと向かえばいいのだろう。そう思って白い道の上に上がった。

 子どもは左を前にして歩き出す。勇気があるね、と誰かが言った。

「そんなことはない。歩くから歩くだけだ」

「水に落ちて、苦しかったのに。また波が来るかもしれないのに」

「そのときはそのときだ」

「恐れるものはないのかい?」

 ふと、子どもは隣を見た。そこに並んで歩く別の子どもを見た。キラキラと光る淡い緑の髪をして、紫の目を持った子どもだった。子どもは水面を見た。そこに映る青い髪と赤い目の子どもを見た。

「誰だ」

 子どもは隣の子どもに問い掛けた。

「雫。君はメイシュ、だね」

 隣の子どもはそう言って子どもを見る。2人の子どもは歩きながら話をする。

「メイシュ?」

「そう、メイシュ。君は知らなかったかい?」

「それは何だ」

「名前だよ。君の名前。誰かが君を呼ぶために必要な言葉だ」

「それで君は雫というのか」

「うん」

 名前を呼ばれると、隣の子どもはとても嬉しそうに笑った。だから子どもは隣の子どもを雫と名前で呼ぶことにした。そして自分のこともメイシュと名前で呼ぶことにした。

「雫はずっとこの道を歩いてきたのか」

「そうだよ」

「メイシュもずっとこの道を歩いてきたけれど、雫には会わなかった」

「君はずっと立ち止まらないで歩いてきたからね。後戻りもしなかったし」

「雫は誰かに呼ばれてこの道を歩き始めたのか」

「うん、私を呼ぶ声が聞こえたよ。とても優しい声で、雫って呼んでくれたんだ」

「そうか、それは」

 何かを言おうとして、メイシュはふと言葉を途切れさせた。一瞬、何かよくない気持ちを覚えた気がしたのだ。黙ってしまったメイシュに対して雫が心配そうに言う。

「どうしたのメイシュ。君は呼ばれなかったの?」

 そう、メイシュは誰にも呼ばれなかった。呼ばれてもいないのに、歩きたいからとこの道を歩き始めた。果たしてそれは許されることだったのだろうか。そんな考えが頭をもたげて、メイシュは知らず震えた。

「怖いの? メイシュ」

 メイシュの名前を呼んで、雫が聞いた。

「怖い。メイシュは間違っているのかもしれない。戻るべきなのかもしれない」

「でも、歩きたいんでしょう。この先に、行きたいんでしょう」

 雫はメイシュに向かって片手を伸ばした。

「一緒に行こう。誰も君の名前を呼ばないなら、私が呼ぶよ。メイシュ。だから一緒に行こう」

「雫」

 メイシュは雫の手を握った。嬉しいような温かい気持ちと一緒に、先程感じたよくない気持ちも顔を出した。

「雫、メイシュは“うらやましい”。“妬ましい”」

「うん」

「でも雫が一緒に歩いてくれるなら、きっと嬉しいの方が大きい」

「そう言ってもらえると私も嬉しいよ、メイシュ」

 そして子ども達は手を繋いで白い道を歩いていった。

執筆日2013/10/22

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