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2・ここどこ!? しかも圏外!?

「ぎいやゃあぁぁあぁぁ――――!!」


 あるべきはずの床が無い!? 

 エレベーターの籠が来ていなかった!? 


 なんて考える余裕も無く、私は悲鳴を上げて落下するしかなかった。

 私がいたフロアは五階。これは死ぬ。もし、命が助かっても重篤な怪我を負うのは間違いない……って、こんな事を考えていられる時間があるのは、いくら何でもおかしくない?

 私は多少の冷静さを取り戻し、勇気を出して目を開けてみた。

 そこには真っ黒な闇が広がっていた。深夜だから? それとも停電でもした? そんな生易しい暗闇じゃない。例えるなら墨汁のプールに頭から飛び込んだ、みたいなどっぷりとした黒。

 試しに手を伸ばしてみたけど、自分の指先すら見えない。私、本当に目を開けているの? それとも閉じているの?

 次第に落下する速度が緩んできたのを身体が感じたけど、自分の頭が上を向いているのか、それとも真っ逆さまに落下しているのかも分からない。とにかく身体を丸めてみるしかない。

 ふわり、と足元が床に着く感触。あぁ、無事に着地した……と思った矢先、再び落下が始まった!


 もう、いやあぁぁぁぁ――――!! 助けてー! お母さーん!!

 

 思わず母を呼んだ途端、視界がぱあっ、と明るくなった。あまりの眩しさに耐えきれず、私は目を、顔を両手で覆った。

 ようやく明るさに目が慣れてくると、身体のあちこちが痛いのに気が付いた。


「いたたたた……お尻いたい」

 

 それに、頭がクラクラする。でも、頭を打った感じはしないし、脳震盪を起こしたのでは無さそうだ。どちらかというと絶叫マシンな乗り物から降りた直後みたいな……そんな感じ。

 どこか折れたりしてはいないか、足元から全身を点検する。学生時代は陸上部だったので、捻挫や打ち身の扱いには慣れている。

 自分の身体に異常が無いのを確認しながら、ゆっくりと身体を起こす。とりあえず骨折はしていなさそうだ。

 首だけを巡らせてみると、地面に座り込んだ私の周りには、建物の二階に届きそうな高さの木々が立ち並んでいた。


「ここ、どこだろう……」


 左の掌に触れる、ひんやりとした土の感触。

 剥き出しの地面には申し訳ない程度に下生えが蔓延(はびこ)り、その上に私のトートバッグが転がっていた。

 森の中のぽっかりとした空き地。その真ん中に私は倒れていたらしい。

 よいしょっ、と口に出して立ち上がると、気持ちの良いそよ風が私の頬を撫でていった。


「なんか……空気が美味しい」


 深呼吸して空を見上げると、そこには青い空。白い雲。どこまでどこまで続く。

 建物どころか、電信柱すら見えない場所に立つのは久しぶり。本当にここはどこなのだろう……もしかして、ここは「あちら」の世界?

 お母さん。ことりは一足先にお父さんの元へ来てしまったようです。花嫁姿を見せるどころか、彼氏の一人も紹介出来ずに先立つ娘をお許し下さ……あれ? 

 じわじわと目の端に浮かんできた涙を拭おうとして、ようやく私は右手にスマートフォンを握りしめていた事に気がついた。

 へぇ、あの世にもスマホって持ち込めるんだ。便利な世の中になったなぁ……って、落ち着け私。これで地図アプリでも起動すれば、ここがどこだか分かるかも。

 改めてスマートフォンに目をやると、パズヒロの「召喚ガチャ」の結果が表示されていた。

 画面に映っていたのは、石版を手に持ち、背中に小さな翼を生やしたナース服を着た女の子。そして、イラストの下のステータス欄には「レア度C級・光属性・白衣の天使LV.1」と書かれていた。

 

「あれ? 見たこと無いユニットだ……しかもC級? なんで?」


 つい口に出してしまった。私が引いたのは「召喚の扉ガチャ」、それは最低でもA級ユニットが当たるレアガチャのはずなのに何でC級? なんか、すっごい損した気分。知らないうちにアップデートでもあったのかな?

 えーっと、なになに……


 *攻撃力30 *HP150 *回復力350

 ユニットスキル「応急処置」

 シークレットスキル「???」

 

 ……よ、(よわ)っ。回復力だけなら「A級ユニット・青のシスター」並みだけど、攻撃力30って。見たことの無い低さだ。最も攻撃力の低い「C級ユニット・水の僧侶」でも攻撃力50はある。それにHPもちょっと心許ないなあ。うむむ、ユニットの絵柄は可愛いけれど、これは鑑賞用だな……って、おいおい。


 ――――エレベーターに乗り込もうとしたら籠が来てなくって、そのまま五階から転落したのに大した怪我も無く、気が付いてみたら見覚えの無い森の中。そして、そんな状況下でレアガチャの結果を吟味している二十一歳の女。

 私、意外に大物かも知れない? ひとり苦笑いして、一先ずパズヒロを終了させる。そして地図アプリを起動させてみると、「インターネットに接続できません」と画面に表示されてしまった。


「あら、圏外だ」


 いまどき屋外で圏外とは珍しいな。テレビCMで「ついに全国制覇!」とか言ってなかったっけ? あの白い犬。こんな森の中だから電波状況が悪いのだろうか。仕方ない、電波の入るところまで歩こう。

 トートバッグを拾い上げてパンパンと土汚れを払い、中を確認する。良かった、中味は無事だ。スマホ用のソーラーチャージャーもあるから一先ずは安心だ。

 で、とりあえずどっちに向かえば良いのだろう。


「えーっと、太陽があっちにあるから……」


 ううむ、東西南北が分かったって意味が無いじゃないか。せめて民家でも見えれば良いのだけど。

 途方に暮れかけたけど、トートバッグからチョコレートを取り出して一粒口に含んだら、ちょっとは元気が出てきた。ま、なんとかなるよ。

 くるり、とその場で一回りすると、木立の間に少し開けた空間を見つけた。道と呼ぶには心許ない野道だけど、とりあえずあそこに行ってみよう。

 そう決めて歩き出すと、向かった先の木立の先に人影が見えた。あぁ、良かった、人がいる。しかも、人の気配は一人や二人では無さそうだ。


「すいませーん! 道に迷ってしまったのですがー!」


 森の中に向かって声を掛けると、大勢の人影が一斉にこちらを向いた。

 ざざざっと下生えを踏みしだく音。一言も発しないでこちらに向かってくる気配に、私は何だか不穏な空気を感じて一歩後ずさった。


「あ、あの、道を……」


 と、言いかけたまま、森の中から抜け出てきた人影の正体を見て、私は固まってしまった。

 子供? いや、あんな筋肉質な小学生なんている訳がない。妙にギラギラする目は赤く充血し、肌に張りつくような(まば)らな頭髪は、まるで老人のよう。それに、なんて肌の色なの……肝臓が悪いのかしら? なんて思っている場合じゃない! その手に握っているのは紛れも無く刃物だ。しかも、ナイフなんて小さな刃物では無く、なんていうの? ヤマンバが持ってるアレ、えっーっと、ナタだっけ?

 そんな妖怪みたいなのが森の奥からゾロゾロと湧くよう姿を現した!!

 恐怖に立ち(すく)む私を前に、ナタ妖怪たちは妙に甲高い声で口々に何か相談をしているようだった。そして、彼らの手には例外なく物騒な刃物。


 ――――これは……道を聞く相手を間違えた。


 私は「すいません! ほか当たりまーす!」と、叫んで一目散に逃げだした!!

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